7-25
アーシュの叫びに戦鎚の冒険者はいち早く反応した。
疑念を抱くよりも、疑問を呈するよりも先に。
「どこだ」
戦鎚使いは真っ先に真偽の確認をする。
アーシュは少し横にずれると魔物の角の1つを指差した。
それから少しの間を開けて、魔物のよじれた角から稲光が走って。
その閃光はアーシュの指差した角から、アーシュの指先に向かってまっすぐ伸びる。
「よし────」
戦鎚使いが呟いて。
次いで得物である巨大な戦鎚を構えてた。
それと同時に2人の冒険者が交差するようにソードアーツを放ち、雷撃を無効化する。
「前の奴らのソードアーツが尽きるのと同時に俺とお前が前に出る。お前は雷の発生箇所と方向を示せ。俺が『既視演算』でそれを視て先の先を取る」
戦鎚の冒険者はアーシュに言った。
次いで声を張り上げる。
「俺とこいつが前に出る! ソードアーツが尽き次第、道を開けろ! 奴の角を叩く。射線に入るなよ。ボスの討伐時に互いを視界に入れるのを怠るな!」
冒険者達は戦鎚使いの指示を受けて目配せした。
素早く手振りで確認を取り、1人の冒険者が残りのソードアーツの数をカウントする。
「アーシュガルドくん、これ」
アーシュは魔物から視線を切ると、差し出された短槍を見た。
「槍も遠隔斬撃で操れるよね。使って。先読みができるなら今は俺が操るよりもうまく扱えるはずだ」
「ありがとう、シアン兄ちゃん」
アーシュは差し出された短槍の輪郭を意識でなぞり、自身の傍らに浮遊させる。
「おい、構えろ」
戦鎚の冒険者が視線を向けずにアーシュに言って。
「次でソードアーツが尽きる。先読み任せたぜ?」
「うん!」
先頭に立つ冒険者がソードアーツを放った。
それに連なるように、さらにソードアーツが放たれて。
無効化された魔物の雷。
冒険者達はすかさず左右に道を開ける。
アーシュは戦鎚使いと共に駆け出した。
すでに魔物が放つ次の雷の射線を読み、それを示して。
次いでその攻撃に当たらないよう、体を屈めながら左に逸れる。
戦鎚の冒険者はすでにその射線から外れていた。
次々とアーシュの挿し示す射線を『既視演算』で捉えて。
矢継ぎ早に放たれる魔物の雷撃をかわしていく。
甲殻の隙間から覗く魔物の眼。
その瞳が細まり、魔物は冒険者全体ではなくアーシュと戦鎚使いの2人に焦点を合わせた。
ゴツゴツとした甲殻全体が帯電し、バチバチと閃光が爆ぜて。
魔物の周囲を電撃が網目状に走り続ける。
────チッ、と戦鎚使いは舌打ちを漏らして。
「近寄らせない気か」
その網目状に波打ち、ゆらめく電撃の壁を睨みながらアーシュに問う。
「あの電気の網の動きは?」
アーシュは左腕に意識を向けながら電撃の壁を見て。
だがやはりアーシュが捉えられるのは左腕が攻撃の射線を切るときだけで。
「ううん、分からない」
アーシュが答える。
「分かった」
戦鎚の冒険者は得物の柄を強く握った。
見据えるのは電撃の壁を展開しつつ、なおも雷次々と放つ魔物。
『既視演算』でアーシュの示す射線を先読みし、その雷をかわして。
「俺が『既視演算』で視る。俺が合図したら遠隔斬撃を使って一瞬でいい、遮って穴を拡げてくれ」
跳躍の構えをとる戦鎚使い。
その屈強な下肢が力を蓄える。
アーシュは魔物の攻撃をかわしつつ、借り受けた短槍を。
そしていくつもの武具を操り、その合図を待った。
「今だ!」
戦鎚の冒険者が叫んだ。
「『その刃、嵐となりて』……!」
アーシュはすかさず武具を放った。
雷を纏う槍の切っ先を中心に旋回する剣が渦を描き、多種多様な武器が連なる。
魔物の展開する電撃の壁。
戦鎚使いが示したその一角へと武具の渦が疾って。
それは瞬く間に形を変えるその網目状の隙間を捉えた。
短槍の切っ先がその周囲の電撃を歪める。
アーシュはそこにありったけの武器をねじ込んだ。
次いで武器を渦を描きながら拡散。
電撃の壁に穴をあける。
戦鎚の冒険者はアーシュの開いた穴へと飛び込んだ。
眼前には魔物の大きな瞳。
その瞳を見上げてにやりと笑う。
「一撃じゃ折れねぇ。硬ぇ外殻だ」
自身の得物を振るった先の展開をその脳裏に映して。
「だが得物を振る猶予は1度」
一撃で魔物の角を折れなかった仮定の先。
折り損ねた角から放たれる雷撃を浴びる自身の姿を視た戦鎚使い。
すぐさま戦鎚の冒険者はアーシュの援護を組み込んで『既視演算』を使うが、魔物の外殻は硬い。
脳裏に映し出された光景では、アーシュの遠隔斬撃の剣技では魔物の外殻に傷1つつかなかった。
他の冒険者の援護は間に合わず。
そしてその手に握る巨大な得物は魔宮生成武具でありながらソードアーツを持たなかった。
だか戦鎚の冒険者はその愉しげな笑みを浮かべたまま。
「いいぜ────」
戦鎚使いは視線を魔物の瞳から、その甲殻から伸びる角の1つへと移して。
腰を落とし、体を大きくよじった。
渾身の力で巨大な鎚を振るうと共に、研鑽を積んだ剣技を放つ。
「『その刃、連鎖する一振り』」




