表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

232/397

7-25

 アーシュの叫びに戦鎚せんついの冒険者はいち早く反応した。

疑念を抱くよりも、疑問をていするよりも先に。


「どこだ」


 戦鎚せんつい使いは真っ先に真偽の確認をする。


 アーシュは少し横にずれると魔物の角の1つを指差した。

それから少しの間を開けて、魔物のよじれた角から稲光が走って。

その閃光はアーシュの指差した角から、アーシュの指先に向かってまっすぐ伸びる。


「よし────」


 戦鎚せんつい使いが呟いて。

いで得物である巨大な戦鎚せんついを構えてた。


 それと同時に2人の冒険者が交差するようにソードアーツを放ち、雷撃を無効化する。


「前の奴らのソードアーツが尽きるのと同時に俺とお前が前に出る。お前は雷の発生箇所と方向を示せ。俺が『既視演算(デジャヴ)』でそれを視てせんせんを取る」


 戦鎚せんついの冒険者はアーシュに言った。

いで声を張り上げる。


「俺とこいつが前に出る! ソードアーツが尽き次第、道を開けろ! 奴の角を叩く。射線に入るなよ。ボスの討伐時に互いを視界に入れるのを怠るな!」


 冒険者達は戦鎚せんつい使いの指示を受けて目配せした。

素早く手振りで確認を取り、1人の冒険者が残りのソードアーツの数をカウントする。


「アーシュガルドくん、これ」


 アーシュは魔物から視線を切ると、差し出された短槍を見た。


「槍も遠隔斬撃(ストーム系)で操れるよね。使って。先読みができるなら今は俺が操るよりもうまく扱えるはずだ」


「ありがとう、シアン兄ちゃん」


 アーシュは差し出された短槍の輪郭を意識でなぞり、自身のかたわらに浮遊させる。


「おい、構えろ」


 戦鎚せんついの冒険者が視線を向けずにアーシュに言って。


「次でソードアーツが尽きる。先読み任せたぜ?」


「うん!」


 先頭に立つ冒険者がソードアーツを放った。

それに連なるように、さらにソードアーツが放たれて。

無効化された魔物のいかずち

冒険者達はすかさず左右に道を開ける。


 アーシュは戦鎚せんつい使いと共に駆け出した。

すでに魔物が放つ次のいかずちの射線を読み、それを示して。

いでその攻撃に当たらないよう、体を屈めながら左に逸れる。


 戦鎚せんついの冒険者はすでにその射線から外れていた。

次々とアーシュの挿し示す射線を『既視演算(デジャヴ)』で捉えて。

矢継ぎ早に放たれる魔物の雷撃をかわしていく。


甲殻の隙間から覗く魔物の眼。

その瞳が細まり、魔物は冒険者全体ではなくアーシュと戦鎚せんつい使いの2人に焦点を合わせた。

ゴツゴツとした甲殻全体が帯電し、バチバチと閃光がぜて。

魔物の周囲を電撃が網目状に走り続ける。


────チッ、と戦鎚せんつい使いは舌打ちを漏らして。


「近寄らせない気か」


 その網目状に波打ち、ゆらめく電撃の壁を睨みながらアーシュに問う。


「あの電気の網の動きは?」


アーシュは左腕に意識を向けながら電撃の壁を見て。

だがやはりアーシュが捉えられるのは左腕が攻撃の射線を切るときだけで。


「ううん、分からない」


 アーシュが答える。


「分かった」


 戦鎚せんついの冒険者は得物の柄を強く握った。

見据えるのは電撃の壁を展開しつつ、なおもいかずち次々と放つ魔物。

既視演算(デジャヴ)』でアーシュの示す射線を先読みし、その雷をかわして。


「俺が『既視演算デジャヴ』で視る。俺が合図したら遠隔斬撃(ストーム系)を使って一瞬でいい、遮って穴を拡げてくれ」


 跳躍の構えをとる戦鎚せんつい使い。

その屈強な下肢が力を蓄える。


 アーシュは魔物の攻撃をかわしつつ、借り受けた短槍を。

そしていくつもの武具を操り、その合図を待った。


「今だ!」


 戦鎚せんついの冒険者が叫んだ。


「『その刃、(ソード・)嵐となりて(ストーム)』……!」


 アーシュはすかさず武具を放った。

いかずちまとう槍の切っ先を中心に旋回する剣が渦を描き、多種多様な武器が連なる。


 魔物の展開する電撃の壁。

戦鎚せんつい使いが示したその一角へと武具の渦がはしって。

それは瞬く間に形を変えるその網目状の隙間を捉えた。

短槍の切っ先がその周囲の電撃を歪める。

アーシュはそこにありったけの武器をねじ込んだ。

いで武器を渦を描きながら拡散。

電撃の壁に穴をあける。


 戦鎚せんついの冒険者はアーシュの開いた穴へと飛び込んだ。

眼前には魔物の大きな瞳。

その瞳を見上げてにやりと笑う。


「一撃じゃ折れねぇ。かてぇ外殻だ」


 自身の得物を振るった先の展開をその脳裏に映して。


「だが得物を振る猶予は1度」


 一撃で魔物の角を折れなかった仮定の先。

折り損ねた角から放たれる雷撃を浴びる自身の姿を視た戦鎚せんつい使い。


 すぐさま戦鎚せんついの冒険者はアーシュの援護を組み込んで『既視演算(デジャヴ)』を使うが、魔物の外殻は硬い。

脳裏に映し出された光景では、アーシュの遠隔斬撃(ストーム系)の剣技では魔物の外殻に傷1つつかなかった。

他の冒険者の援護は間に合わず。

そしてその手に握る巨大な得物は魔宮生成武具でありながらソードアーツを持たなかった。

だか戦鎚せんついの冒険者はそのたのしげな笑みを浮かべたまま。


「いいぜ────」


 戦鎚せんつい使いは視線を魔物の瞳から、その甲殻から伸びる角の1つへと移して。

腰を落とし、体を大きくよじった。

渾身の力で巨大なつちを振るうと共に、研鑽けんさんを積んだ剣技を放つ。


「『その刃、(ソード)連鎖する一振り(・カスケード)』」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ