7-23
戦鎚の冒険者は旋回するいくつもの武具を横目見て。
「ソードアーツなら相殺できるだろうが、あいつの雷を相殺するとなるとそこいらの得物じゃ火力が足りないぜ? 得物も数だけはあるが、全部に魔力が溜まってるわけでもない」
「おれならできるよ」
アーシュは武器を操作し、片手に魔力の溜まった剣を。
もう一方の手に魔力の溜まっていない剣を握った。
まだうまく動かせない左腕と怪我を負った右腕で武器を振るう事は考えず、握ることだけに集中する。
「おれなら溜められる」
アーシュは剣を操作して持ち上げると構えた。
腕を上げると右肩に走る激痛。
アーシュはその痛みに顔を歪め、その目にはうっすらと涙がにじんで。
だが口許を固く引き結び、まっすぐ魔物を睨む。
「1発のソードアーツで足りないなら2発、それでも足りないなら3発放つだけだ」
「無謀だよ。気持ちじゃ魔力は溜まらないよ、アーシュガルドくん」
「シアン兄ちゃん、信じて。今はまだ完璧じゃない……。でも、おれが目指すのは遠隔斬撃とソードアーツの連続発動を組み合わせた無敵の剣だ。必ずあの魔物のとこまで辿り着いてみせる」
「不可能だ」
「そっちのガキの言う通りだ」
戦鎚使いもアーシュを制止する。
「遠隔斬撃の剣技の腕は認める。今までも使い手を見てきたが、ガキでそこまで操れるやつは見たことがねぇ。だがそれ以外でお前は全て劣る。能力も、そしてあまりに経験が足りてない。逆立ちしたってひっくり返らない事なんざ山ほどある」
「おれは逆立ちはできない」
「アーシュガルドくん、非力そうだもんね」
口調は軽く、次いでけらけらと笑って。
だがその目は必死に魔物を凝視していた。
額には冷や汗がにじんでいる。
「え、いやそういう話じゃなくて。……できないけどさ」
茶々を入れられたアーシュは困ったように笑って。
「……じゃなくて、おれがひっくり返したわけじゃない。でも、ひっくり返した人がいる。ディアス兄ちゃんはおれに教えてくれた。これはディアス兄ちゃんと、それを教えてもらったおれだけにできる事だ」
アーシュはそう言うと、ディアスがそれをもうできないと言っていたのを思い出して。
その無表情を装った、悔しそうな顔を思い出して。
「おれだけにできる事。おれができなきゃ、いけない事だ」
アーシュの操る無数の武具が旋回する速度を上げた。
魔宮の床を。
壁を削り、砕いて魔力を蓄えていく。
「遠隔斬撃で常に魔力を蓄える。使い方としては面白い」
戦鎚使いは魔力を補給するいくつもの武具を見て言った。
だがその魔力の補充速度は決して早くはない。
「だがそれで戦闘中に溜めようってのは甘いな」
戦鎚の冒険者が言うと、アーシュは首を左右に振る。
「違うよ。これはあくまで補助」
「ほう? ならどう溜める。敵もいつまでも待っちゃくれねぇぞ────」
戦鎚使いが言い終わるのと同時に、その脳裏に過った光景。
それに舌打ちを漏らして。
「いいぜ」
戦鎚の冒険者は得物を振りかぶる。
「やってみろ」
「ソードアーツ────」
アーシュは右手に握った剣の魔力を解放した。
同時に魔物に向かって駆け出す。
そして魔物から放たれる雷。
アーシュの振るった紅蓮の刃が魔物の雷とぶつかって。
だが相殺しきれない。
戦鎚使いはこれを見越してアーシュのカバーに向かおうと。
だがその先の展開を見て思わず足を止めた。
アーシュは剣を振り抜くと同時に次の得物へと素早く持ち変えていて。
「ソードアーツ────」
その大きなランスの魔力を解放し、突きを放った。
「『その刃、風とならん』!」
次いでアーシュはランスをソードアーツの突きの勢いのままに射出。
雷を破ってその切先が魔物へと迫った。
だがアーシュの眼前には未だ相殺しきれていない雷。
アーシュはすかさす次の得物の魔力を解き放つ。
「ソードアーツ───」
アーシュが自身の身の丈ほどもある巨大な戦斧から放ったのは巨大な砲弾のような魔力の放出。
3度のソードアーツを経て、アーシュはついに魔物の雷を無効化した。
放たれた雷が霧散する。
その視界が晴れた。
アーシュはその先へと目を凝らして。
柱状の甲殻から伸びるよじれた角にはすでに眩い輝き。
魔物は休む間もなく次の雷を放出する。
放たれた雷は『その刃、風とならん』によって射出されたランスを飲み込んだ。
ほとんど威力が減衰されることなくアーシュに迫る。
アーシュは左手に握っていた剣を振りかぶった。
その剣には魔力がたぎっている。
ソードアーツをぶつける度に、その雷から分解された魔力を得物に這わせ、体を通し、その剣に充填して。
自身の魔力を持ちえないからこそできる得物から得物への魔力の伝達。
一瞬の攻防で得物に魔力を溜めたアーシュに、周囲の冒険者は驚きの眼差しを向ける。




