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7-21

「敵対する必要があるの? シアン兄ちゃん達はディアス兄ちゃんとエミリアが悪い魔人じゃないのを知ってるのに」


 アーシュが言った。


「エミリアちゃんはなんとかできる。アーシュガルドくんも魔人と行動を共にしていたことは隠せる。でも、ディアスさんは倒さなきゃいけないんだ」


「ディアス兄ちゃんを? でもなんで」


「ギルベルトさんにはディアスさんの話をしたんだ。決して悪い魔人じゃないって。


「だったら」


「でもディアスさんの事を説明したら、ギルベルトさんはディアスさんの永久魔宮化の発現を危惧きぐしてたんだ。すでにディアスさんが人喰いをしていない魔人だって事や魔宮の特性なんかの情報は他の勇者間で共有されてる。そしてその魔宮は普通じゃない。展開域を持たない魔宮、それが永久魔宮化したらおそらく魔王に匹敵する人類の脅威になるって」


「でも」


「それとディアスさん達がアムドゥスと呼んでいる魔物。その魔物を倒す必要もあるんだ」


「アムドゥスを?」


「あれはただの魔物じゃない。そしてあの魔物を使って良くない事を企てている勢力があるみたいなんだ。そいつらの手に渡る前に、なんとしても倒さなければならないって」


「アムドゥスが普通の魔物じゃなく使い魔だって話は前に聞いたけど、そんな特別な存在だったの?」


「ギルベルトさんも詳しくは話してくれなかったけど、原初の魔物の一欠片って呼んでた」


「…………でも、殺す必要はないよね? そのアムドゥスを狙ってる勢力ってのに渡さなきゃいいんだもん。そうでしょ? シアン兄ちゃん」


 アーシュがそう言うと、首を左右に振って。


「その危険性を放置できないってのがギルベルトさんの考えだ」


「そっか。じゃあやっぱりおれはシアン兄ちゃん達とは行けない。シアン兄ちゃん達と一緒に行くって事はディアス兄ちゃんとアムドゥスの敵になるってことだもんね」


「なんで分かって、もらえないかな」


 その言葉には苛立ちが滲む。


「おれにとってそれだけディアス兄ちゃん達は大切なんだよ。シアン兄ちゃんも、スカーレット姉ちゃんの敵になれって言われたらできないでしょ? 敵になんてならないで、どうすれば解決できるか考えるよね?」


「それは────」


 アーシュに言われて、思わず言葉に詰まった。


「おれはシアン兄ちゃんに、あとスカーレット姉ちゃんにも協力したい。おれにできることなら精一杯頑張る。だからシアン兄ちゃん達もディアス兄ちゃんとアムドゥスがどうすれば狙われずにすむか一緒に考えて欲しいんだ」


 アーシュがまっすぐな瞳で見つめる。


 その言葉と眼差しを受け、短槍を握る力が緩んで。

いでやれやれと肩をすくめる。


 その時。

舌打ちと共に2人へと伸びる手。

そのごつごつとした、たくましい腕が2人をまとめてさらって。


「ガキ共、気緩み過ぎだ。俺がいなかったら────」


 2人を抱え、戦鎚せんついの冒険者はすかさず跳んだ。

その背後をかすめるように。

魔宮の床から天井目掛け、轟音と共に雷が立ち昇る。


「死んでたぜ?」


 鋭い眼光で2人を素早く睨んで。

いで戦鎚せんつい使いは着地と同時に2人をほうった。


 華麗な着地とは対照的に、少し危なげに着地するアーシュ。

アーシュはバランスを崩しながらも操る剣への意識を集中する。


「…………おっと、こいつはまずいな」


 戦鎚せんついの冒険者はまた舌打ちを漏らして。


「こいつ、俺でも手ぇ間違えたら死ぬじゃねぇか。1回殺されたぞ?」


 殺意に満ちた眼差しとは裏腹に、その固く引き結んでいた口許くちもとたのしげに歪んだ。

すぐにでも飛び掛かろうとした姿勢を崩し、この空間にいる冒険者全員に響き渡るように叫ぶ。


「全員気引き締めろ! S難度相当のボスだっ……!」


 その鋭い視線の先。

無数の稲妻がバチバチとぜる中に姿を現したのは巨大な柱。

無機質な外殻の表面にはよじれた角がいくつも並び、そこから閃光が走ると稲光を生んで。

その無機質な外殻の中からは大きな瞳だけが覗いている。


 アーシュは剣を操作して放とうと。


「やめときな」


 すかさず戦鎚せんつい使いが制止して。


「素早い決断はいい。遠距離攻撃だし、状況としては悪くねぇ。だが結果から言うとそれは悪手だったぜ。得物を減らすだけだった」


「分かるんだ。凄い。ベテランの経験みたいなものかな」


 感心したように言うと、戦鎚せんついの冒険者へと羨望せんぼうの眼差しを向けるアーシュ。


「いや。多分違うよ、アーシュガルドくん」


「え、違うの? シアン兄ちゃん」


 盾にするように、剣を正面で旋回させながらアーシュがいた。


「ああ、正解だ」


 戦鎚せんつい使いが魔物を睨みながら答えて。


「俺はそっちの長い髪のガキと同じマイナー使いだ。スペルアーツ『既視演算(デジャヴ)』を使う」


「簡単に言うと少し先の未来が視えるスペルアーツ、でしたよね」


「ああ。正確には周囲から得られた情報を組み立てて起こりえる状況を視覚化して投影するもんだ。その精度とどれだけ先が視えるかは熟練度とそれを処理する脳の処理能力による。ちなみに俺はこいつを20年以上使って、視えるのは1秒から2秒先までってとこだな」

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