表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

220/397

7-13

 エミリアは大挙して押し寄せる魔物の波を押しとどめた。

その質量とは裏腹に、軽快に振るわれる青い斧槍ふそう

重厚な斧刃ふじんうなりをあげて。

よどみない動作で青い軌跡を描き続けるその連撃は、魔物の体を一撃で両断し、粉砕する。


 飛沫ひまつ肉塊にくかいを撒き散らし、エミリアはなおもハルバードを振るい続けて。

だがエミリアが押しとどめているのは波紋状に拡散した魔物の群れの一角に過ぎない。


 第1波、第2波、第3波と押し寄せる魔物の軍勢に押し負け、壁際に追い詰められた冒険者達が必死に最後の抵抗をしていた。

中には単騎でエミリアのように魔物の群れを打ち負かす猛者もさや、緻密な連携で戦線を維持している者達もいるが、それも魔物に取り囲まれて身動きがとれなくなる。


「スペルアーツ『筋力強化(ストレングス)』、『速度強化(アクセラレイト)』!」


 キャサリンが自分の周囲の冒険者にバフを付与。

遠方でもちらほらとスペルアーツの光がまたいているのが見えて。

だがその数は同じ規模での攻略と比較したときに、あまりにも少ない。


「ちょっと! バフもヒーラーもやっぱり足りないじゃない! これでよく最大限にバフを発揮するための構成だなんて言って前衛ばかり集めたわね?!」


 キャサリンは叫びながら、エミリアの打ち漏らした魔物目掛けて自慢の鉄拳を振るって。

その頭を叩き潰すと、傷を負った冒険者に向けて回復のスペルアーツをかけた。

すぐさま別な魔物に向き直り、その顎にジャブを数回。

いで流れるようにアッパーへと繋ぐ。


「ディアス兄ちゃん!」


 アーシュは先ほどディアスが射出した剣に意識を走らせ、そのコントロールを得た。

魔宮の天井に突き刺さっていた剣を抜き、それをディアスのもとへと届ける。


 ディアスは左手に握る剣で魔物を斬り伏せた。

いで右手を伸ばし、アーシュから剣を受け取って。

ディアスはすかさず爪先を軸に旋回。

両手に握る剣を操作して加速させ、魔物をまとめてぎ払う。


「ディアス!」


 エミリアがディアスを呼んだ。

ディアスが振り返ると、魔物の群れを蹂躙じゅうりんするエミリアの赤い瞳と目が合った。

その瞳は輝きを強めていて。

ディアスはエミリアの呼び掛けの意味を察する。


「ケケケ、嬢ちゃんに魔宮を展開させんのかぁ?」


 アムドゥスがディアスにいた。


「やむを得ない。このままだと冒険者が全滅する」


 ディアスは迫る魔物の胴を両断すると、再びエミリアに視線を向けて。


「エミリア、頼む」


 ディアスの言葉を受け、エミリアの瞳に灯る赤の光が強く燃え上がる。







「────『奮起の印(アルマ)』」


 今いる土地から寄せ集め、冒険者達から借り受け、己の体内で練り上げ、そして増幅して。

ギルベルトは自身の得物である宝杖剣ほうじょうけんを掲げ、その術式を発動した。

渓谷から飛び降りる前に冒険者達に付加した『加護の印(スクード)』の術式をしるべにしてそのバフを付加する。


 冒険者の体に新たに浮かび上がる、今の世界では使われていない文字。

その文字が体に刻まれた瞬間、冒険者達は自身の能力が飛躍的に高まったのを感じた。

得物を一振りすれば魔物の体が千切れ、二振りで粉々に吹き飛ぶ。


 追い詰められていた冒険者達は一気に攻勢こうせいに出た。

魔物の群れを駆逐くちくしていく。


「ずいぶんと時間がかかってしまった」


 ギルベルトは冒険者達を見つめながら言った。


「本当はもっと早く術式の発動ができるはずだったが、私の想定以上にこの複合魔宮の難度は上らしい。他の冒険者達が多くやられてしまったために、力を早く練られなかった」


「ギルベルト様、大丈夫ですか……?」


 ギルベルトのかたわらに立っていたスカーレットがいた。

スカーレットが不安そうに見上げるギルベルトの顔色は蒼白になっている。


「ギルベルトさん、本当に大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ。スカーレット、シアン」


 ギルベルトがうなずきながら答えた。

いで片眼鏡モノクル越しに自分の隣を見る。


 スカーレットはギルベルトの様子を見て首をかしげて。


「ギルベルト様、時折なにもないところを見てるけど、なんなのかしら」


 本人には聞こえないよう小声で呟く。


「なにもないところを見るなら、ねぇちゃんの胸でもいいと思うけど────」


 すかさずスカーレットは足を振り上げた。

だがその蹴りは当たらない。


「どうしたんだい? スカーレット。シアンがまた何か言ったのかい?」


「いえ! なんでもないんです!」


 慌てて振り上げた足をおろして。

スカーレットは両手を左右に小さく振りながら言った。


 その時、ギルベルト目掛けておどる赤い影。

冒険者達の列をすり抜け、無数の脚をうごめかせるその魔物は花弁のような口を大きく開く。

 

「愚弟!」


 スカーレットが叫んだ。

それと同時に短槍の切っ先が魔物を捉えて。


「任せてよ、ねぇちゃん!」


 すかさず槍を袈裟けさに。

いで右手を支点に槍を反転。

柄の先の石突きを打ち付け。

さらに横()ぎ。

最後に槍を振り下ろして。


 リズミカルな槍(さば)きを受け、魔物は短い声をあげると動かなくなる。


「ギルベルト様、ご無事で?」


 恰幅かっぷくのいい冒険者がドスドスとその巨体を走らせてギルベルトに駆け寄った。


「ああ、見ての通り無事だよ。シアン、助かった」


 礼を言うギルベルト。


 だか身動きを止めていた魔物が再び鎌首をもたげ────


「愚弟、よけなさい」


 スカーレットは言うのと同時にボウガンの引き金を引いた。

そこから放たれた青い矢が魔物の頭部に突き刺さって。

魔物は矢を受けた箇所から凍りつき、今度こそ動きを止める。


「お見事」


 恰幅かっぷくのいい冒険者が言った。

いでギルベルトに視線を戻して。


「魔物の掃討そうとうもほとんど終わりました。このまま先へ向かいましょう」


 ギルベルトは周囲の状況を確認。

そして上へと続く大階段に視線を向けるとうなずく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ