7-12
突然目の前に現れ、視界を埋め尽くす魔物の群れ。
鎌首をもたげた魔物は花弁のような口を開き、そこから粘液を滴らせた。
そして迫り来る、鋭い切っ先を備えた無数の脚。
冒険者達はその姿に顔を歪めて。
だが次いで多くの冒険者がにやりと笑う。
冒険者達は次々に自身の得物を振るった。
振り下ろされた剣が。
突き出された槍が。
叩きつけられた棍が。
薙ぎ払った鎌が。
打ちすえた手甲が。
魔物の身体を斬り裂き、貫き、潰し、刈り取り、打ち砕く。
「姿さえ見えりゃこっちのもんよ!」
「よくも仲間を、やってくれたな……!」
「覚悟しなさい」
「このまま皆殺しにしてやるっ!」
すでにこの広間に入ってから半数をやられた冒険者達。
だが物量で圧倒的に勝る魔物の群れ相手に、臆することなく挑んでいく。
ディアスは剣で迫り来る魔物の脚を薙ぎ払い、その頭を斬り飛ばして。
「アムドゥス」
「ケケ。すまねぇが実体化しても情報が撹乱されてて読み取れねぇ。こんだけ複雑な観測情報の妨害は初めてだ」
ディアスの呼び掛けにアムドゥスが答えると、ディアスは自身の経験と勘から魔物の強さにおおよその当たりをつけた。
だが次いでため息を漏らす。
「……エラー、観測不能、妨害。最近役に立ってなくないか?」
ディアスは横から飛び込んできた魔物を、口から胴にかけて両断して。
肩をすくめ、視線は向けずにアムドゥスに言った。
「ああん? 俺様が観測要員としてしか動けないのはどこのどいつのせいだぁ? 誰かさんが人をちゃんと喰って、魔力が枯渇なんてしてなけりゃ俺様はこんな雑魚ども蹴散らしてやれたんだよなぁ!」
「あまり声を張るな。気付かれ────」
ディアスは気配を感じて。
見上げた先には魔物の姿。
その魔物は天井から、花弁のような口を向けてまっ逆さまに降ってくる。
ディアスはすかさず剣の切っ先を頭上へと突き出した。
切っ先、剣身、鍔、そして柄を握る手と腕までが魔物の口に飲まれる。
魔物は体内を斬られて痛みに悶えた。
ムカデのような身体がぐねぐねと高速で揺れ、鋭い脚を振り乱して。
だがその口はディアスを喰らおうと、花弁のようなそれをわきわきと動かす。
「『その刃、疾風とならん』」
ディアスは魔物に飲まれた剣をその体内で射出。
魔物の身体を貫き、光を纏った刃が現れると天井へと突き刺さった。
身体を貫かれた魔物は絶命し、その長い巨体を横たえる。
ディアスは魔物から腕を引き抜くと、素早く視線を切った。
右から2体。
正面から1体。
左下から2体。
さらに背後からも魔物が迫る気配を感じて。
「『その刃、熾烈なる旋風の如く』!」
ディアスは体をよじりながら跳んだ。
同時に剣を振るい、剣の操作によってその刃を加速させて。
一閃。
二閃同時。
そして四閃。
閃いた刃の剣閃が残像となり、次いでディアスに襲いかかった魔物は青い血飛沫をあげて倒れる。
ディアスは魔物の亡骸がひしめく床へと着地した。
再び頭上を見上げると、雨のように魔物が降ってきているのが見えて。
その光景に他の冒険者から短い悲鳴が漏れる。
「アーシュ」
「うん、ディアス兄ちゃん!」
ディアスの呼び掛けにアーシュが答えた。
すでに抜き放っていた複数の剣が宙に舞う。
「スペルアーツ『武装研磨』」
宙に舞うアーシュの剣にキャサリンはバフを付与。
その剣身に黄色い光が纏った。
「『その刃、嵐となりて』!」
アーシュの操る剣が高速で旋回し、降り注ぐ無数の魔物を捉えた。
その身体を覆う甲殻はアーシュが思っていたよりも硬く。
だがアーシュは剣の軌道をすぐさま修正し、節を狙って刃を疾らせる。
だが魔物は空中でその体を絡め、より集まって大きな球状に固まった。
アーシュは『その刃、嵐となりて』で刃を振るい、それを削っていく。
斬り裂かれ、バラバラと崩れ落ちる魔物の残骸。
だが幾重にも重なった魔物の1割も屠る前に、その塊は床へと到達。
途端に弾けたと思うと、赤い大波となって冒険者達に襲いかかる。
魔物の群れは冒険者に覆い被さり、飲み込み、絡めとり、そしてその体を引き裂きながら進んだ。
エミリアはその手に青のハルバードを召喚。
瞬く間に眼前に迫る魔物の群れをフードの陰から睨んで。
斧槍を大きく振りかぶる。
エミリアは大きく踏み込み、腰を捻り、上体をよじり、両腕を振り抜いて。
その一撃は何体もの魔物の胴を断ち斬った。
エミリアはすかさず重心を傾け、ハルバードの勢いを殺さぬよう旋回。
その速度を上げなら重厚な刃を振り回し、魔物の群れを蹴散らす。




