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7-11

「確認しに行こう。周囲の警戒をおこたらないように」


「ケケケ、人間相手でも油断できねぇからなぁ」


 ディアスが言うと、その耳許みみもとでアムドゥスが呟いた。


「うん」


「分かった」


「了解よ」


 エミリア、アーシュ、キャサリンの3人がディアスに答えた。


 ディアス達は他の冒険者を必要以上に刺激しないよう移動を開始。

他の犠牲者の様子を確認する。


 移動するディアス達には周囲から鋭い視線が向けられて。

だが別な場所から遠冒険者の悲鳴が響く度に、その視線はそちらに移る。


 すれ違う冒険者達の体に浮かぶ羅列は消耗していた。


「あの人、あんなに減ってる」


 アーシュは体に浮かんだ文字が残り1つにまで減った冒険者を見て言った。


「でも減ってるってことはそれだけ攻撃を受けてるって事だよね? 多分1度に受けてるんじゃなくて何度も。それでも気付かないのかな」


「ダメージが肩代わりされてる間は分からないんじゃないかな。あたしがアーくんを抱えて着地したときも衝撃がまるでなかったし。それにアーくん自身、ダメージを受けてるのに気付いてなかったじゃん」


 エミリアに言われ、アーシュはなるほどとうなずく。


 ディアス達は周囲の状況も見つつ歩を進めて。


「…………どれも同じ傷に見えるな」


 10人ほど犠牲者の傷を確認したディアスが言った。


「ケケ、そして妙だなぁ」


 アムドゥスはフードの陰から傷だらけの冒険者の体を見て。


「どいつもめった斬りにされてるのはいいとして、なんでこんなに色んな方向から斬られてんだぁ? 正面、左右、背後、さらには上から下までよぉ。ケケケケ」


「ねぇ、ディアス。見てて思ったけどこの傷、方向がバラバラ過ぎない? 色んな方向から攻撃されてるみたい」


 エミリアがアムドゥスと同じ疑問を口にする。


「固有の攻撃能力か、あるいは複数で襲っているのかも知れない。だが後者ならどう動いているんだ? 冒険者同士の間隔が狭い時もあったはずだが、どの死体も一様に全方位からの攻撃の痕がある」


 ディアスは過去に戦った魔人や魔物を思い出して。

今の状況に符合する能力はなったかを思案する。


「なぁ、先に向かうべきじゃないか? 今はいたずらに数を減らしてるだけだ。すでに何人も先に進んでる」


 ディアス達の側で1人の冒険者が言った。


「敵が紛れているのに先に向かうなんて危険過ぎる」


「魔物がいない今のうちにあぶり出すべきだ」


「魔物がいないと言えば、観測隊の中にすでに裏切り者がいたんじゃないか? 侵入経路はいくつかあるが、どこも魔物が湧くはずだ。こんな幻覚のギミックは報告にはない」


「複合魔宮の場所が移動していたかも知れないって話があったろ。移動が疑われていたが、再展開して内部構造が変わってるのかも知れない」


「ですが広間と通路の位置は同じに見えますが。再展開ならマップも変わるのでは?」


「広間と通路だけじゃマップに特徴が無さすぎて判別できないと思うが」


「なら1度通路の先へ行こう。それで分かるはずだ」


「待て。危険過ぎる」


「ここでじっとしてる方が危険だ」


 広間から先へと向かう冒険者と、それを引き留めようとする冒険者達。


 ディアスは彼らの話を聞いて。


「ここは本来魔物が出るフロアで、幻覚のギミックは……ないはずのもの。死角を突かれ、全方位からの攻撃…………」


 ディアスは周囲に視線を走らせた。

赤く染まった視界を睨む。


「ディアスちゃん、何か分かったの?」


 キャサリンがいた。


「キャサリン、俺の周囲に『防壁魔象(ブルワーク)』を展開して俺を死角にできるか?」


「ええ、できるわよ。でも自ら死角を作って隠れるなんて、また怪しまれると思うけど?」


「やってくれ」


「そう。分かったわ。ディアスちゃんの事だもの、考えがあるのよね」


「エミリアとアーシュは下がっててくれ。他の冒険者も」


 ディアスに言われてエミリアとアーシュが距離を取った。

他の冒険者も、ディアスをいぶかしみながらも後退する。


「スペルアーツ『防壁魔象(ブルワーク)』」


 キャサリンは杖を向けてスペルアーツの起点を作った。

次々にくさびを打ち込み、ディアスを囲う用意を整える。


「『魔象点火(イグナイト)』!」


 いでキャサリンはスペルアーツを起動。

ディアスの四方を取り囲むように魔力で編み上げられた防壁が現れ、その姿を覆い隠した。


 ディアスの姿が死角になって。

それと同時に無数の風切り。

迫り来るいくつもの刃。


「────ククッ」


 その刹那せつな、ディアスは小さく笑みを漏らす。


 ディアスを取り囲んだスペルアーツ『防壁魔象(ブルワーク)』の光の壁。

その壁に走る亀裂。


 いで剣を振り上げながらディアスが飛び上がった。

その剣が捉えたのは無気味にうごめく長いむしのような魔物。

ディアスはその魔物に向かってもう一方の手に握った剣を放とうとするが、その魔物は霧散するように姿を消す。


 魔物は姿を消した。

だが広間中に何かが這い回るような音が響きだして。

赤く染まった視界が時折歪み、異形の姿がうっすらと浮かぶ。


「おい! 今のはなんだ!」


「どうなってやがる!」


「魔物が潜んでたのか?!」


「だがあんなでかいやつ、どうやって潜んでた!」


 ディアスはキャサリンの展開した防壁の上に着地すると、広間にいる冒険者達全員に言う。


「聞け! この赤い幻覚(・・・・)そのものが魔物(・・・・・・・)だ! 視界を覆い尽くす、この広間に満たされた幻覚全てが死角をついて襲いかかってきていたんだ!」


 ディアスにその正体を暴かれて。

形を持たずに広間に充満していた魔物の群れは一斉に姿を現した。

視界を染めていた赤が集まり、現れたのはムカデのような身体と花弁のような口を持った10メートル以上の長さを持った魔物。


 その長い体が床を走り、壁を這い、天井から釣り下がり。

そして、冒険者の肢体したいに絡み付く。


 その魔物は耳を刺すような金切り声をあげ、無数の刃を備えた脚で冒険者に襲いかかった。

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