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7-10

 エミリアは他の冒険者達にも目を向けた。

素早く視線を切り、その体に浮かぶ羅列を確認する。


「…………だめ。ここから見える分だと数が少なすぎる」


 エミリアが呟いた。


 その間にも冒険者は数を減らして。

それもそのペースは徐々に早くなってきていた。

辺りには転がった死体が目立ち始める。


「確認しないと分からない事がたくさんあるが、そのためにはまず疑いを晴らさないとならない、か」


 ディアスは殺気立つ冒険者達を見て言った。


 エミリアは必死に視覚から情報を集めようと。

そこでエミリアはある事に気付いて。


「けけ、そうだよ。やっぱりアーくんじゃ──遠隔斬擊(ストーム系)じゃ誰にも気付かれずに冒険者を殺すなんて無理だよ」


 エミリアは呟くと、声を張って冒険者達に言う。


遠隔斬擊(ストーム系)の剣技じゃできない! 無理だよ! だってそうでしょ。ここからじゃ、ほとんどが死角だもん!」


 エミリアは視線を走らせるが、目が合わせられる冒険者の数は多くない。


「特にアーくんは私と同じでここにいる人達と比較して特に背が低い。誰も襲われるところは見てないんだよね? 見えない相手の死角を突いて剣を操るなんてできないよ!」


 エミリアの言葉に、ディアス達を取り囲む冒険者達は顔を見合わせた。


「だが、じゃあどうやって死角をついてる?」


「実際襲われたところは誰も見てないのは確かだ」


「やっぱり視界を赤く染めるだけの幻覚じゃないんじゃないか?」


「敵の姿を隠す。あるいは敵の姿を変えて見せる幻覚?」


 ディアス達の向けられる視線はいくらか和らいで。

疑心暗鬼におちいっている冒険者達の中で疑念を完全に払拭ふっしょくすることはできないが、それでもすぐに襲いかかられるということは回避できた。


 だが代わりにアーシュは涙目で1人の冒険者を睨んでいる。

その視線に気付く冒険者。


「なんだ坊主。俺に文句があるのか?」


 それは先ほど大剣使いの腕を斬り飛ばした冒険者。

冒険者は血に濡れた剣の切っ先をアーシュに向けた。


 アーシュは冒険者の問いに、こくりとうなずく。


「俺が何をした? そんなにあの裏切り者を殺そうとしたのが不満か?」


「…………」


 アーシュは大剣使いへと視線を移して。

それを目で追う冒険者。

だがかたわらに倒れる大剣使いを見ると、その冒険者は驚愕きょうがくした。

地に伏した大剣使いの身体には幾筋もの深い傷跡が走り、その男はすでに絶命している。


「俺じゃねぇぞ」


 思わず冒険者が言った。


「俺じゃない? お前しかいないだろ」


 側にいた冒険者が怪訝けげんな眼差しを向ける。


「あんたはその裏切り者を殺そうとしてた。位置的にもやったのはあんただ。なのになんで今、嘘をついた?」


「違う。俺は確かにこいつをろうとしたが、俺の剣はそっちの坊主の剣に弾かれた。見てたろ。見てたはずだ」


「そのあとにお前が殺したんだろ」


「違う」


「おかしくないか? あんたも他の奴らも位置取りは変わらない。間合い的に襲えるのはあんただけだ。まぁ、遠隔斬擊(ストーム系)に関して言えば間合いの制限は変わってくるが。だが別な剣が飛んできたような気配はなかった。すでに飛んできてた剣は視界の中に収めて警戒してたし」


「私もその大剣使いから視線を外した時間はそんなに長くなかった。その時間でその人を殺せたのは貴方くらいでしょう」


 別な冒険者が言った。


「というか俺はそいつの腕を斬ったが、なんでダメージが通った? 崖から飛び降りた時に減った量なんて大したもんじゃ────」


 冒険者は自身の身体に浮かんだ羅列られつの残りを確認すると目を見開いて。


「な、バカな。減ってる。それもこんなに」


 その冒険者の身体に浮かぶ羅列られつは半分以上がすでに消費されている。


 他の冒険者も羅列られつの残りを確認した。


「減ってる! 俺も減ってるぞ!」


「そんな、俺もだ!」


「俺は変わってない」


「私は半分近くに」


「少し減っているのか?」


 羅列られつの減り方はディアス達だけでなく、この広間にいる冒険者全員がバラバラだった。


 ディアスとエミリアは冒険者の反応をもとに、大まかに減りの多い場所や人の条件を絞り込む。


「場所は端の方」


「特徴としては背丈が低い人が多いのかな?」


 ディアスとエミリアが言った。


「共通するのは死角のなりやすさか」


「けけ。相手に気付かれずに襲うんなら、死角になりやすいところを狙うのは当然ではあるけど」


「だがこれだけの冒険者の数だ。その死角を縫うのは並大抵の事じゃない」


「数と言えば」


 エミリアは周囲を見回して。


「冒険者の数、減ってない? やられちゃった人達が増えてるからそのせいかな」


「ケケケ。いいや、ここにいるやつらの数は減ってるぜぇ? 生きてる、死んでるに関わらずなぁ」


 アムドゥスがディアスに言うと、ディアスは広間から先へと通じる通路に目を向ける。


「おそらくこの混乱の中にいる方が危険と判断して、単身、あるいは少数で先に向かった冒険者達がいるのか」


「私達もそうすべきだったんじゃないかしら」


 キャサリンが言った。

だが、すぐさまかぶりを振って。


「今のはなし。どうせディアスちゃん達は危険に晒されてる他の人達を置いては行かないでしょうし。ともかく、敵がどのように潜んでるか探りましょ」


 キャサリンはいで、ずたずたにされた大剣使いの傷を観察する。


「他にやられた人達の傷も同じなのかしら」

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