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7-9

 冒険者達はアーシュの操る剣が自在に宙を舞うのを見るとハッとして。


遠隔斬擊(ストーム系)の剣技!」


「なぁおい、あの剣技なら」


「ああ」


「そうに違いない!」


 冒険者達は目配せすると、再びディアス達に疑惑の目を向けた。


 冒険者の1人がディアス達に向かって1歩を踏み出して。

自身の得物を強く握り締め、その目はディアス達を凝視する。


「その遠隔斬擊(ストーム系)なら直接剣を持たなくても剣を振るえる」


「使ってるやつを見ないから存在をすっかり忘れてたが。なるほど、使い勝手の悪いマイナー剣技もこういう場面では役に立つと」


 ディアスは冒険者達の言わんとしてることを察した。

思わず舌打ちを漏らす。


「ケケケ、クソガキは余計な事しかしねぇな」


 アムドゥスが言った。

ディアスはその言葉を聞くと、アムドゥスを横目見て。


「アーシュは別に間違った事はしてない」


「ケケ、あいにくだが俺様は人間の道徳なんか知ったこっちゃない。行いが正しいか悪いかなんて知らねぇ。問題は俺様達の立場を悪くしたかどうかだぜぇ? ケケケケ」


「アーシュガルドちゃんは少し軽率けいそつに動き過ぎよ」


 キャサリンが言った。


「ううん。アーくんのやった事は正しかったよ」


 エミリアはそう言うとかばうようにアーシュの前に立つ。


「どういう……こと?」


 アーシュは、ぱちぱちと目をしばたたかせた。

冒険者達から刺すような視線を向けられている事に困惑する。


「しらばっくれるな!」


「仲間をかばうために尻尾を出したな」


「お前らは冒険者殺しの裏切り者の仲間。そして魔人の仲間だ!」


遠隔斬擊(ストーム系)の剣技で気付かれる事なく、冒険者を襲ったんだろう?」


 アーシュは冒険者達の言葉に、首をぶんぶんと左右に振って否定した。


「違う。おれは人間同士で殺し合うのは間違ってるって思っただけだよ!」


「黙れ! 魔人にくみする事を恥と知れ! この、裏切り者っ!!」


「違うよ! おれは」


 アーシュは否定するために前に出ようと。

だがエミリアがそれを止めて。


「無駄だよ、アーくん。さっきまでの流れは見てたよね。さっきはディアスがなんとかしてくれたけど、1度疑われたらそれを晴らすのは難しいよ」


「でも間違ってる!」


 アーシュは冒険者達に訴える。


「味方同士で争ってる場合じゃないんだよ。たくさんの人が殺されてる。みんなで協力しないと────」


「味方? 協力?」


 冒険者がアーシュの言葉を遮って。


「その味方に向かってソードアーツをぶっぱなすような奴と、そいつをかばうような奴らと協力なんてできるわけがない」


「こっちは命懸けなんだ。潜んでる敵をいち早く倒すために、疑わしい奴は排除する。当たり前の話だ」


「何も分かってないガキが、青臭い正義感を押し付けるなよ」


 冒険者達に非難を受け、アーシュはたまらず涙目になった。

鼻を大きくすする。


「本当に……俺は違うんだ」


 周囲からの怒号に紛れた弱々しい声。

大剣使いの冒険者は出血から意識が朦朧もうろうとしはじめていた。

床に伏しながら、顔だけを上げて言う。


「巻き込んだのは悪かった。どんな償いもする。だから……助けてくれ。俺はまだ、死にたくない」


 アーシュは大剣使いを見ると、キャサリンに視線を移した。


「キャサリンさん、あの冒険者さんに回復のスペルアーツをお願い」


「………」


 キャサリンは答えない。

無言のまま、周囲の動向をうかがう。


「キャサリンさん?」


「…………」


「ねぇ、キャサリンさん! 早くしないとあの人死んじゃうよ!」


 アーシュが再三呼び掛けると、キャサリンはため息を漏らして。


「ここで彼を回復したら私達と彼の結び付きをより強く疑われる事になるのよ。それにあの傷はスペルアーツで塞ぐのは難しい。自分で回復しないところを見るとポーションは持ってなさそうだし、他の冒険者から譲ってもらえるような雰囲気でもないわ」


「そんな」


 ふるふるとかぶりを振るアーシュ。

交互に視線を移し、大剣使いとキャサリンだけを見ている。


 それに対してディアスとエミリアは周囲を警戒していた。


「ねぇ、ディアス」


 エミリアが視線は向けずにディアスに呼び掛けて。


「さっきのソードアーツの事故だけど、無傷な人と傷を負った人の差ってなにかな」


 放たれたソードアーツの直線上には多くの冒険者がいたが、彼らのダメージの度合いがあまりにも大きく異なっていた事にエミリアは疑問を持つ。


「おそらく谷に飛び降りる前に付加されたものによる効果だな。谷への落下のダメージの無効化。そしてそれと同時に羅列が減った。おそらく付加されたのはダメージを肩代わりする身代わりみたいなものだ」


 ディアスが答えた。


 エミリアはうなずくと自分達の体に浮かぶ羅列に目を向けた。

その羅列の残りがディアスとキャサリンと比較して、自分とアーシュの分だけ減りが多い事に気付く。


「減りがこんなにも違う。この文字みたいなのってダメージを受けると減るで多分間違いないんだよね。アーくんはあたしが抱えて降りたから無傷のはずだし、素の防御力はあたしが一番高い。なのにあたしとアーくんがディアスとキャシーより減ってるのはなんで?」

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