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7-8

「違うよ。おれ達は魔人じゃ、あー…………」


 アーシュは否定しようとしたが、隣に立つディアスとエミリアを横目見ると言葉に詰まった。


「ケケケ。そこで詰まるんじゃねぇよ、クソガキ」


 苛立たしげに呟くアムドゥス。


 そして案の定、冒険者達はディアス達に対する不信感を強めて。


「なんだ? なんでそこで言葉に詰まる?」


「本当にこいつら魔人なんじゃないのか!?」


「やっぱりそうか!」


「魔人を殺せ!」


 冒険者達が武器を構えようと。


 その刹那せつな

ディアスは無言で短剣を振りかぶった。

その剣の魔力を解き放つ。


「ソードアーツ『虚ろなる者、(アパリショ)その手に求めて(ン・グラスプ)』」


 振り下ろされた刃。

宙に残された歪な剣閃けんせん

そこから無数の腕が現れた。

魔宮の幻覚によって赤く染まった腕が伸び、今にもディアス達におどりかかろうとしている冒険者をかすめて。

その腕は魔宮の床を叩きつけると姿を消す。


「俺達は冒険者だ」


 ディアスが言った。

いで周囲を見回し、冒険者達に視線を返す。


「今のソードアーツはその証明だ。敵意はない。そしてそもそも俺達は後続だ。この広間に入ってきてから、この場所を動いていない」


「先に魔宮に入った冒険者を襲うのは私達には無理よ。そんな動きを見せれば誰かが見てるんじゃないかしら」


 頬に手を添えながら言うキャサリン。


 その時、悲鳴が響いた。

冒険者達は後ろを振り返り、ディアス達も遠くに目を向ける。


「くそ、またやられた!」


「ちくしょう」


「どこにいやがる?!」


 ディアス達の場所からは直接見えはしなかったが、その周囲の冒険者の反応からまた犠牲者が増えたのが分かった。


「私達はたくさんの冒険者に見られてたもの。これで私達の疑いは晴れたかしらね」


 キャサリンはそう言うと素早く視線を切り、冒険者達の視線をうかがう。


「……ごめんなさい」


 アーシュが言葉に詰まった事を謝罪した。

申し訳なさそうにディアスとエミリア、キャサリンを見る。


「気を付けないとダメだよ。アーくん」


 エミリアが言った。


 冒険者の一部は未だにディアス達の様子をうかがって。

だがほとんどの冒険者達はまた周囲に視線を走らせていた。

どこに潜んでいるとも知れない敵を探す。


「こいつ、今俺に斬りかかろうとしやがったぞ!?」


 その時、広間の一角で声があがって。

目を向けると大剣使いの冒険者が囲まれていた。


「違う、誤解だ! 俺は斬りかかろうなんてしてない!」


 大剣使いは必死の形相で否定する。


「おい皆、こいつが魔人だ!」


「だから違う!」


「私も彼がさっきも怪しい動きを見せたように感じました」


「やはりそうか!」


「だから、違うんだ……!」


 大剣を持った冒険者は必死に周囲に視線を向けた。

だが返ってくるのは鋭い視線。

魔宮の幻覚によって赤く発光して見える眼は、その威圧感を増す。


 冒険者はすがるように他の冒険者を見るが、皆一様に疑惑の眼差しを向けていた。

周囲を囲む冒険者達は武器を構えながらにじり寄る。


「本当に違う! 違うんだ! 話を……聞いてくれ!」


 大剣使いがどれだけ叫ぼうとも、冒険者達はその足を止めない。


「ああ、くそ! ソードアーツ────」


 疑いの目を向けられた冒険者は得物である大剣を振りかぶった。

その剣の魔力を解き放って。

振り下ろされた刃からは三日月型の斬擊がはしる。


「ほら! ソードアーツだ! これで俺は魔人じゃ────」


 大剣使いの冒険者は必死の形相の中に、僅かに自分が魔人ではないことを主張できたという安堵あんどにじんだ。

思わず笑みをこぼしそうに。

だがその表情が突然、凍りついた。


 青ざめた冒険者の視線の先には、三日月型の斬擊波に巻き込まれて傷を負った冒険者の列。

無我夢中で放たれたソードアーツの刃は、多くの冒険者を巻き込んでいた。

その斬擊波の軌道上には無傷な者も大勢いたが、中には致命傷になっている者も見える。


「貴様……! よくもっ!!」


 胴を両断された仲間を抱いて。

1人の冒険者は憎悪に満ちた瞳で大剣使いの冒険者を睨んだ。


「違う。違うんだ。俺は……悪くない。悪くない!」


 大剣使いは得物である大剣を取り落とした。

鈍い音をあげ、大剣が床に転がる。


「俺は冒険者だった! ソードアーツを見たろ!」


「ああ、見たぜ。お前のソードアーツで何人もやられるとこをな!」


「冒険者の俺を疑ったのが悪い! 俺を疑ったやつが……こいつが悪いんだ!」


 大剣使いは最初に疑いをかけてきた冒険者を指差した。


 大剣使いに指を向けられた冒険者は剣を構えて。


「黙れ。味方殺しの裏切り者!」


 冒険者は自分を指し示すその腕に向かって剣を振るった。

閃く刃。

いで大剣使いの腕が飛沫しぶきを上げながら宙に舞う。


「あぁあ…………!」


 大剣使いは尻餅をついた。

苦悶くもんに歪む表情で切断された腕を押さえながら後ろへと後ずさる。


「冒険者である俺に疑いをかけて! 人を斬るのにもためらいがない! ソードアーツを使った俺を! こいつだ! こいつを殺せ! こいつが魔人だ! 殺せ!」


 大剣使いは声を張り上げ、早口で言った。


 その大剣使いの頭上には大きく振りかぶられた剣。


「殺した奴らに、死んでびな」


 冒険者は大剣使い目掛けて剣を振り下ろす。


 眼前に迫る鋭利な刃を前にして。

大剣使いは自分の死を覚悟した。

目を固くつむる。


「────『その刃・(ソード・)風となりて(ウィンド)』!」


 その時、鋭い風切りの音と共に。

アーシュの投げ放った剣が加速し、大剣使いに振り下ろされようとしている剣を弾いた。


 アーシュはすかさず投げ放った剣に意識を這わせ、そのコントロールを得て。


「人間同士で殺し合うなんて間違ってるよ!」


 アーシュは叫びながら剣を操り、周囲の冒険者を牽制けんせいする。

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