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「気をつけろ! 魔人が紛れ込んでるぞ!」
1人の冒険者が叫んで。
だがディアス達がその冒険者に目を向けると、その冒険者の目が赤く発光して見えた。
次いで他の冒険者達にも視線を移すと、皆一様にその目に赤の光を灯している。
「くそ! 仲間がやられた!」
冒険者の1人が血を流して倒れる冒険者を抱き起こして。
「よくも俺の仲間を! どこだ、どこにいる?!」
「そういうお前が魔人なんじゃないのか?!」
「なんだと!」
「見知らぬ冒険者がいないか探せ!」
「俺はこいつに見覚えがないぞ」
「俺も見覚えがない。こいつが魔人なんじゃないのか!」
周囲の怒号は激しさを増していき、それに紛れて時折悲鳴が聞こえてきた。
断末魔をあげて倒れる冒険者。
ゆっくりと。
だが確実に冒険者はその数を減らしていく。
「『神秘を紐解く眼』が使える者はいないか」
「…………ダメだ。『神秘を紐解く眼』が使えない」
「私もだ。さっきから試しているが情報が得られない。この赤い視界のせいだ」
ディアスはエミリア、アーシュ、キャサリンと共に他の冒険者から一定の距離を保って。
「アムドゥス」
ディアスがアムドゥスに呼び掛けると、アムドゥスは首を左右に振る。
「すまねぇ、ブラザー。俺様の眼もダメだ。この広間いっぱいに視界を赤く染める幻覚が満たされてて、その情報が他の情報の全部を覆い隠してやがる」
「満たされてる?」
「ケケ。大抵の魔宮の幻覚は対象にかけるもんだし、それならそれを解除しちまえばいい。だが空間に幻覚が満たされてるとなると厄介だなぁ、ケケケ」
ディアスは腰に差した剣を抜いた。
剣身が不確かに揺らめく妖しげな短剣。
その短剣は魔宮の幻覚によって赤く染まって見えて。
本来は青白く光を放っているはずの剣身が、今は赤い光を発しながら揺れている。
ディアスは短剣を振るった。
空間に満たされているという幻覚そのものを斬ろうと。
「どうだ、アムドゥス」
アムドゥスは額の瞳でディアスが刃を振るったところを観察。
「ケケ、一応斬れてはいたが……ダメだなぁ、これは。幻覚の一部は消えたが、周囲の幻覚が拡がってすぐに元通りになっちまった。周囲から均等に幻覚が拡がったから、流れを見て魔人やこの幻覚の起点を探すみたいな事もできねぇ」
「ディアス兄ちゃんの真白ノ刃匣ならなんとかできるんじゃない?」
アーシュが言った。
「この空間全てを無効化はできないだろうし、剣を召喚するには魔力が足りない」
「けけ。それに召喚するところを見られたら魔人だってバレちゃうしね」
エミリアは素早く視線を切り、怪しい動きを見せている者がいないか探っている。
その時、冒険者の1人が剣を掲げて。
「なぁ! ソードアーツを使って見せるのはどうだ?! これなら魔人かそうでないかが一目で分かるぞっ!」
1人の冒険者が言った。
「ああ、確かにそれなら魔人を判別できる」
「なるほど」
「だが、いいのか……?」
「高難度の魔宮の攻略に来てるのに、そんな事でソードアーツを使う? 本気で言ってるのか!?」
「それが一番手っ取り早い手段のはずだ」
「本当にそうか? 冒険者側の戦力の消耗を狙った罠なんじゃ」
「ああ、罠に違いない。おそらくこいつが魔人だ」
「違う! 俺は魔人じゃない。むしろ否定的な奴らこそ魔人なんじゃないのか?! 正体がバレると困るから俺の意見を否定するんだろ!」
ソードアーツを使う提案をした冒険者は、近くにいた否定的な冒険者に斬りかかった。
振り下ろされる刃。
襲われた冒険者はその刃を得物で受け止める。
「本性を現したな! 魔人!」
襲われた冒険者は相手の刃を弾くと、相手に反撃に出た。
それを皮切りに至るところで冒険者同士の争いが始まって。
広間には怒号と剣戟の音が伝播していく。
「そもそもソードアーツを使って魔人かどうかを見極めるなら、わしのような鍛造剣を得物にしとるやつが不利じゃろうが!」
「そもそも魔人は1人なのか? 複数なのか? そもそも本当に魔人はいるのか?!」
「でも確かに襲われた冒険者はいます」
「この赤い視界に染まった冒険者を見て、咄嗟に斬りかかっちまったとかじゃないのか?」
疑心暗鬼に陥る冒険者達。
そのうちの1人がふと、ディアス達に目を止めて。
「なぁ、あいつら怪しくないか?」
冒険者はディアス達を剣で指して言った。
「だってそうだろ。あいつら、昨日の夜に合流した奴らだろ? それもあんな何もない荒野から。魔人が紛れ込んでるってのなら、真っ先に疑うべきはあいつらだ」
その言葉に、他の冒険者もディアス達に疑惑の目を向ける。
「ケケケ、めんどくせぇ事になったなぁ。いっつもこんなんじゃねぇか」
アムドゥスが言った。




