7-4
「俺のパーティー、か」
ディアスはディルクとリーシェを思い出して呟いた。
「ケケケ、あんときの2人かぁ?」
アムドゥスはディアスの胸中を察して。
「ケケ、だが驚いたなぁ。特に男の方がブラザーにキレてたのは。あいつは誰よりもブラザーに感謝すべきだろ。そしてブラザーの今の境遇を知って謝罪もなしだ。……まぁ関係がこじれたのは十中八九ブラザーのせいだろうがなぁ、ケケケケケ」
「こじれるもなにも、あいつとは初対面の時から反りが合わなかった。あいつは俺を嫌ってたし、俺もあいつは好きじゃなかった」
「だがお前さんは最後にあいつの目を見ただろぉ?」
ディアスは別れ際にディルクが見せた眼差しを思い出す。
「ああ。だが、あいつがなんであんな目をしたのかは俺には分からない」
「ケケ、次会ったら訊いてみたらどうだぁ? 自分のことをどう思ってるのかって」
アムドゥスの言葉にディアスは小さく首を振って。
「それはできないだろうな。仮に答えが返ってきても嫌いだって言われて終わりだよ」
「……そういうところなんだよなぁ」
アムドゥスは肩をすくめると、やれやれと頭を振った。
「────そういやあんた」
冒険者の1人がキャサリンに声をかける。
「なによ。私のオンナ心は大きく傷つけられたのよ。これ以上私になにを言うつもりかしら?」
キャサリンは目をうるうるとさせながら冒険者を睨んだ。
「いや、ちょっと知ってる冒険者に顔が似てるなと思って。あんた、名前なんだっけ?」
「目をうるうるさせてるのに謝罪も可愛いねの言葉もなしなの?! あり得ないんですけど!」
キャサリンはエミリアのマントの裾を引っ張って。
「エミリー、この人達最低だわ。もう口利かないでね」
「けけけ……」
エミリアが困ったように笑うが、キャサリンは冒険者を睨み付けたまま。
「あー、悪かったよ。あんたも可愛い女の子……? だ」
「疑問系じゃないの!」
キャサリンはぷんぷんと頬を膨らませて怒る。
冒険者達はその姿に怖気立ち、顔を歪めた。
「…………んで、あんた名前は? 俺の記憶違いじゃなければ確か【魔物砕き】の■ャ────」
冒険者は記憶の中の名前を口にしようと。
だが、発音した頭文字の音が消えた。
それに困惑の表情を浮かべる冒険者。
「キャサリン」
キャサリンは名前を告げると、前のめりに冒険者に詰め寄って。
「私は可愛い可愛いキャサリンちゃん、よ」
キャサリンは鋭い眼光で冒険者の目を見つめて。
次いでパチンとウィンクした。
周りの冒険者にも視線を向ける。
「皆も私のことはキャサリンちゃんて気軽に呼んでいいわよ」
「…………」
周りの冒険者はキャサリンに答えない。
「呼んで、いいわよ?」
「あ、ああ。短い間だがよろしく頼むよ、キャサリンちゃん」
「キャサリンちゃん」
「よろしくな。キ、キャサリンちゃん」
キャサリンからの圧を受けて冒険者達が恐る恐る呼んだ。
ディアスとエミリアは、よしよしとうなずいているキャサリンを見つめて。
音の消失に疑問を持ったディアスとエミリア。
気付かなかったアーシュ。
そしてその意味と意図を理解しているアムドゥスはケケケと笑った。
それからディアス達を乗せた荷馬車は休むことなく走り続け、朝を迎えて。
朝日の眩しさにアーシュは顔をしかめた。
ゆっくりと目を開けるアーシュ。
そのすぐ隣にはフードを目深に被ったまま、寄り添うように眠るエミリアの姿。
アーシュとエミリアはディアスに体を預けてもたれ掛かっていて。
アーシュはよだれを手の甲で拭うと顔を上げた。
ディアスがその視線に気付く。
「おはよう。ディアスにいちゃん」
半眼のとろんとした目でアーシュが言った。
「おはよう、アーシュ」
ディアスが答える。
「起きたか、坊主」
冒険者の1人が、アーシュが起きたのに気付くと食料の詰まった木箱から干し肉の入った包みを取り出した。
「ほら、食え。腹ごしらえだ」
「ありがとうございます」
アーシュは差し出された干し肉を受け取ると、それを食べ始める。
アーシュは干し肉を食べながら周囲に視線を向けた。
気付けば荒涼とした平原から景色は変わり、荷馬車は大きな河川沿いを走っていて。
周囲は青々とした木々が立ち並び、小鳥のさえずりがちらほらと聞こえる。
アーシュはぼんやりと穏やかな風景を眺めながら干し肉を口に運んで。
だがふと、河を流れているそれに気付いた。
「ディアスにいちゃん!」
アーシュが声をあげる。
ディアスと冒険者達はアーシュの視線を目で追って。
そしてエミリアもアーシュの声で目を覚ますと、穏やかな流れの河川に目を向ける。
そこには、人の胴が流れていた。
さらに上流へと視線を移すと、その先からも大量の人の身体。
バラバラになった肢体が河を赤く染めながら流れてくる。




