7-2
スカーレットはぼんやりと平原の方を眺めていたが、その先に数人の人影を見つけて。
「ねぇシアン、あれ人よね」
スカーレットが目を凝らしながら言った。
「うん。旅人か冒険者か……。こんな何もない平原にいるなんて変だけど」
そう言って怪訝な眼差しを向ける。
「どうした? シアン」
恰幅のいい冒険者が訊ねた。
次いでその視線を目で追う。
「ありゃ旅人か? まさか魔人なんてことはねぇよな」
人影に気付いた冒険者が呟く。
スカーレット達を乗せた荷馬車はそのまま走り去って。
後方に視線を向けると、荷馬車の1台が列を逸れたところで停車。
その荷馬車に乗っていた冒険者と、平原を歩いてきた人達がやり取りしているのが見える。
「────いいぜ、乗ってきな。夜通し走って明日の昼前には街道に出る。ちょいとばかし狭いが、そこは我慢してくれ」
冒険者が言った。
「ありがとうございます」
フードを目深に被ったディアスが会釈する。
ディアス達が乗り込むと、荷馬車は再び走りだした。
長い荷馬車の列に加わる。
「ねぇ、申し訳ないんだけど食料と衣服を分けてもらうことってできるかしら。もちろんお金は払うわ」
キャサリンが荷馬車に乗り込んでいた冒険者達に訊ねた。
「粗末なもんで良ければ」
そう答えると冒険者の1人が積み荷の木箱に手を伸ばした。
蓋を開けると、その中には保存食が詰まっている。
「だが服は俺の代えのシャツとか布の切れっぱししかねぇぞ。ちなみに他の奴らはあてにすんな。年単位で同じ服を着てるような奴らばっかりだ」
「……そのようね」
キャサリンは周囲から漂う汗くさい臭いに鼻を曲げながらうなずいた。
エミリアは目を見られないよう注意しつつ、譲り受けたシャツを着て。
かなり大きくてぶかぶかだったが、おかげで太ももの中程までをカバーできた。
その上から再びマントを羽織り、マントについたフードを目深に被る。
「俺みたいなおっさんのシャツで悪いな。女の冒険者がいりゃもう少しましな服もあったかもしらねぇが」
「ううん、ありがと。それにこのシャツちゃんと石鹸の匂いがするし、とっても綺麗だよ。けけけ」
シャツをくれた冒険者にエミリアが礼を言った。
キャサリンは他の荷馬車にも視線を向けて。
「……本当に女性冒険者が見当たらないわね」
「全くいないってわけじゃないが、ほとんどは男だったはずだ」
別な冒険者が答えた。
「みんな前衛職に見えるけど、バッファーやヒーラーは足りてるのかしら」
「このキャラバンはステータスの基礎値が高い冒険者を集めてる。必然的に男が増える。バッファーに関しては足りてるよ。むしろそのバッファーの能力を最大限活かすためにこんなむさ苦しい大所帯になっちまった」
冒険者の1人がそう言うと笑い声をあげる。
「あんたらが来てくれてある意味良かったよ。女の子が2人も乗ったからな。他の荷馬車と比べてだいぶ華やかだ」
キャサリンは冒険者の言葉にうふふと笑って。
「女の子だなんてもうっ。お上手なんだからー」
キャサリンは声を弾ませながらそう言うと、ぱちんとウィンクした。
「いや、あんたじゃねぇよ」
真顔で冒険者が否定する。
「またまたー」
キャサリンは再び渾身のウィンク。
「…………おえっ」
それに冒険者は無言のまま嘔吐いた。
「おえー」
「おっえ」
「うっぷ」
他の冒険者達も次々に吐き気を催す。
「ケケケケケ」
ディアスのフードの中で、アムドゥスが声をひそめながら笑った。
「俺が言ってるのはそっちの2人だ」
冒険者はそう言ってエミリアを。
次いでアーシュを顎で指した。
「え、おれ男だよ?」
アーシュが言うと、冒険者達はじっとアーシュの顔を見つめる。
「言われてみりゃ眉毛が若干男くさい……か?」
「俺には女の子にしか見えないけどな」
「おい坊主、ちょっと下脱いでみてくれよ。ホントに男なら減るもんじゃねぇし、いいだろ」
「良くないよ!」
アーシュは必死に首を左右に振った。
次いで困ったようにディアスに視線を送る。
「あまりうちの仲間をからかわないでくれ」
ディアスが言った。
「すまんすまん」
冒険者の1人が謝る。
「そういえば街道の方に向かってるようだが、このキャラバンはどこに向かってるんだ?」
ディアスが訊いた。
「街道をそのまま突っ切って、東の谷に向かう」
「なんでもそこに5つ以上の巨大な魔宮が合わさった広大な複合魔宮が出現したとかで、この大所帯はその攻略のためだ」
冒険者が答える。




