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6-30

「ディアス!」


「ディアス兄ちゃん?!」

 

 エミリアとアーシュはディアスに駆け寄った。


 アーシュはディアスの体を揺さぶろうと。

だがディアスの背に置いた手を前後に揺すったが、その体は微動だにしない。


「え?」


 アーシュは手から伝わる感触がおよそ人のものではないことに困惑する。


 いでアーシュは剣の操作を使用。

すでにディアスの身体のほとんどを構成する自食の刃を操って。

なんとかその体を抱き起こしたが、その体からはギチギチと耳障りなきしみがあげる。


「なにこの身体……」


 エミリアはアムドゥスに視線を向けた。

視線の先からアムドゥスが滑空かっくうし、エミリアの肩に着地する。


「アムドゥス、ディアスの身体が今こんな状態だって知ってたの?」


 エミリアがアムドゥスにたずねた。


「ケケケ、そりゃあなぁ。俺様の眼にかかれば一目で分かる」


「ディアスもだけど。どうして教えてくれなったの?」


「教えたところで何も変わらねぇからだ。実際、状態が悪化してからの戦闘は常にギリギリだった。ブラザーの状態を伝えたところで、できたことがあったかぁ? ねぇだろうが、ケケケケケ」


 アムドゥスはそう言うと肩をすくめて。


「お前さんがたはよくやってるよ。これ以上何かできるとしたらそれはブラザー自身だ」


「でもその身体、工夫してどうにかなるような状態とは思えないんだけど」


「ケケケ、それをするのがブラザーだ。白の勇者サマの戦闘スタイルは、魔力なしみたいなどうしようもない欠点を逆手にとって利用する戦い方だぜぇ? こいつの選ぶ戦い方は自身の欠点を補完するか利用するもんだ。そもそもブラザーにとって魔人堕ちは、白の勇者の戦闘スタイルを阻む最大の欠点でしかねぇからなぁ。ケケケケケ」


「…………」


 アーシュは固く目をつむったディアスの顔を。

いで自分の手を見る。


「ディアス兄ちゃんが人を喰いたくないのは知ってるけど、せめて血だけならどうかな」


「ケケ、そいつはやめときな」


 アーシュにアムドゥスが答えた。


「ブラザーの今の飢餓きがはこの間の嬢ちゃんの比じゃねぇ。人間の血肉を口にしたらブラザーはそのえとかわきが消えるまで止まらねぇだろうよ。おそらく街1つ……いや、小せぇ国1つ喰い潰しちまうぜぇ? ケケケケケ。そしてそうなったらブラザーの心は折れちまう」


「アムドゥス。ひとまずほうっておいて、ディアスが目を覚ますのを待つでも大丈夫なの?」


 エミリアがアムドゥスにいた。


「ああ。今は自食の進行も止まってる。それでいいぜぇ」


「じゃあまずはここを離れないと。冒険者にもコレクターにも居場所が知られているのは危ない」


「その……エミリア」


 真剣な面持おももちのエミリアに声をかけるアーシュ。


 エミリアが振り返ると、アーシュは少し赤面せきめんしながら目を泳がせていた。

酷い火傷と傷を負った少女の痛々しい──そして一糸纏いっしまとわぬその姿を前に、目のやり場に困っていて。


「これ」


 アーシュは1度ディアスをまた横たわらせると、自分の白のマントを外した。

それをエミリアの肩にかける。


 肩から膝下までをすっぽりとマントで覆い隠したエミリア。


「けけ。ありがと、アーくん」


「エミリアは大丈夫なの?」


「うん。あたしは大丈夫だよ。火傷は再生できるし、毒はキャサリンの『解毒活性ポイズンキュアー』で解除すればいい。こっちの腕は……うん、きっとどうにかなるよ。けけけ」


 エミリアはマントの隙間から結晶に覆われた腕を覗き見ると笑った。


「そういえばキャサリンさん、どこに行ったのかな」


 アーシュが首をかしげる。


「無事なら遠くには行ってないと思うよ。ひとまずここを出ないと」


 エミリアはドーム状の結晶を見上げて。


「アーくん、頼める?」


「うん。任せといて」


 アーシュはエミリアにうなずいた。

剣を操り、その切っ先を壁に向ける。


「『その刃、(ソード・)嵐となりて(ストーム)』!」


 放たれた剣が旋回しながら壁へと向かった。

その刃を幾度となく打ち付け、結晶の壁を破る。


 アーシュは剣の操作を使いながらディアスを背負うと、半ば引きずるようにしてドームの外へ。

そのあとをエミリアとアムドゥスが続いて。


「…………」


 エミリアは最後に横たわるキールの亡骸なきがら一瞥いちべつすると外に出た。


 エミリアは外に出るとすかさず周囲に視線を走らせて。

敵となる存在がいないことを確認するエミリア。


 エミリアは弟であるクレトのもとへと走るが、そこにはすでに人影が2つ。

クレトの体を抱く琥珀色の瞳の男と、それに寄り添う紫の髪の女性。

2人はエミリアに気付くと大きく目を見開いた。


「────あら、感動の再開かしら」


 その様子を民家の物陰から覗いていたキャサリンが呟いた。


「ディアスちゃんもアーシュガルドちゃんも。そしてアムドゥスも無事みたいね。良かった」


 キャサリンはよしよしとうなずくと、目の前に立つ男に視線を戻して。


「ごめんなさいね。話を戻しましょう」


 目の前に立つ礼服の男は咳払いを1つ。


「それでは彼らの拘束はあなたにお任せしてよろしいのですな」


「ええ。くさびを打つとバレる可能性があるから困っていたのだけれど。こうして私以外の、彼の下僕(げぼく)に会えたのはラッキーだわ」


「彼は横の繋がりを作らせませんからな」


 礼服の男が言った。


「できればこういう時は他の人とも組ませて欲しいのだけれど…………。スペルアーツによる隷属れいぞくは絶対だけど穴も多いもの。徒党ととうを組まれると厄介だと思ってるのでしょうね」


「もっとも、彼が本気を出せば一声で反逆者を全滅させられるでしょうが」


「反逆者と言わず、国を1つまるまる潰せるものね。ギルドが彼に迂闊うかつに手を出せないのはのため」


 キャサリンが頬に手を添えながら言った。


「私はこのまま彼らを私達のご主人様のもとへ誘導するわ。パーティー的には今が疲弊ひへいして狙い時だけど、用意もなしに襲ってディアスちゃんが反撃、そのまま永久魔宮化してそれに巻き込まれる──なんてのはごめんだもの」

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