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6-28

 崩れていく焼け焦げた肢体。

それを見てディアスとアーシュ、アムドゥス、そして誰よりもキールが顔色を変えて。


 キールは剣を振りかぶり、剣身けんしんを覆う結晶に蓄えた光を今一度放とうと。


 だがそれよりも早く。

焼け焦げた巨体の胸を突き破る青い刃。

青のハルバードが内側から胸を穿うがち、そこからエミリアが飛び出した。


「ケケケ! 自分と重ねるようにボスを召喚して、その身体を盾にしやがった!」


 アムドゥスが笑う。

 

 エミリアは着地と同時に焼けた大地を蹴り、キールへと疾走。


 キールは向かってくるエミリアに向かって剣を振るった。

放たれた光の刃が刹那せつなの閃きとなって。


 エミリアはそのまたたきと同時に横に跳んだ。

その横を光が走り抜け、次いでそのわだちほむらが上がる。


 キールは剣の切っ先を下に向けた。

明滅する光が刃へと集まって。

キールは剣を地面に突き立てようと。


 その時、エミリアは強く地面を踏み締めた。

体をよじり、腕をしならせて。


 投げ放たれた斧槍ふそうが勢いよく回転しながら宙を駆けた。

いでザンと小気味良こきみよい音。

剣を握ったまま、キールの右腕が宙に舞う。


「────っ?!」


 わずかな間を空けてキールは片腕を失った事に気付いた。

思わず自分の肩へと視線を向けて。

その背後では結晶の壁にエミリアのハルバードが突き刺さる音。

そしてドサリとキールの腕がかたわらに落ちる。


「あ、あぁ…………!」


 震える声音でうめき声を漏らすキール。

その肩の傷からはおびただしい量の流血。


 いでキールは慌てて正面に視線を向けた。

そこには目前に迫る赤い光が2つ。

その眼光が光の尾を引いて。

エミリアは跳躍した勢いのままに、キールにおどりかかる。


 焼けただれた小さな手がキールの首へと伸ばされて。

キールは左手に光を集束させ、エミリアの手を慌てて払いのけた。

同時に閃光が走り、エミリアの手が結晶に包まれる。


 キールはすかさず視線を切った。

もう一方のエミリアの腕が、ディルクの剣の毒によって動かないのを素早く確認する。


 思わずほくそ笑むキール。


 そしてその顔を睨むエミリア。


 エミリアはその視線を下へとおろした。

キールの首筋を捉えて。

いでその首に喰らいつく。


 エミリアは獣のようにキールの首を喰いちぎった。

同時にキールの体を蹴り、後ろに飛び退く。


 喰いちぎられたキールの首筋から噴き出す血潮ちしお


 キールは残った左手で肩を押さえ、いで首筋と交互に傷を押さえた。

だが流れ出る血が、瞬く間に地面に大きな血溜まりを作る。


 キールはうろたえながら後ずさった。


 その先には口許くちもとを真っ赤に染めたエミリアの姿。

燃え盛る炎を背にしたエミリアの表情は逆光で読みとれない。

だが赤く浮かび上がるその双眸そうぼうには、畏怖いふを覚えずにはいられなかった。

キールの背筋を冷たいものが走る。


 エミリアはゆらりと体を揺らしながら、1歩前へと踏み出した。


「ま、待ってくれ」


 キールが言った。


「…………」


 エミリアは答えない。

獲物を追い詰めるように、じりじりと前へと進んでいく。


「来るな」


「…………」


「来るな!」


「…………」


「頼む、来ないでくれぇ!」


 懇願こんがんしながら後ろへと下がるキールだが、その背がドンとぶつかった。

背後を横目見たキール。

その先には自身が生み出した青白い結晶の壁。

キールはその壁を凝視して。

そして目の前にエミリアの気配を感じる。


「私が悪かった! 今度こそ心を入れ替える! 待ってくれっ……! 嫌だ! 私は死にたくない! それも、生きながら喰わ────」


 そこでキールの言葉が途切れた。

キールはその喉笛を喰いちぎられて。

必死に叫びを上げようとするがそれは声にならない。


 もだえ苦しむキール。

地べたを這い回り、必死に逃れようと足掻あがいた。

だがその体は徐々に動きが鈍くなっていく。


 その姿を冷たい目で見下ろすエミリア。

彼女は粛々(しゅくしゅく)を進める。


 その姿を無言で見つめるディアスとアーシュ、そしてアムドゥス。


 だが耐えかねたアーシュが駆け出した。

斬り落とされたキールの腕。

その手が握る剣を手に取ると、エミリアとキールのもとに走る。


「エミリア!」


 アーシュはエミリアの肩を掴んだ。

だがエミリアは答えない。


「エミリア!!」


 アーシュは強引にエミリアの肩を引いた。


「ごめん、アーくん。見ないで」


 エミリアはアーシュに顔を向けずに言った。


「こんな姿、あたし見られたくない」


「こんな事しなくていいよ」


 アーシュはかぶりを振りながら言った。

その紫色の瞳からは涙がこぼれる。


「ダメだよ。こいつをあたしは許せない。こいつは苦しんで苦しんで。自分の行いを悔やんで悔やんで死なないとダメなの」


 アーシュはぶんぶんと首を左右に振った。


「アーくんは知らないんだよ。こいつがどんなに酷いやつなのか。こいつのせいでたくさんの人が殺された。だから────」


 アーシュはエミリアの言葉を遮り、その体を強く抱き寄せて。


「こいつは酷いやつだ。おれが知らない事もきっといっぱいある。でもさ」


 アーシュはエミリアの顔を横目見て続ける。


「エミリアがこれ以上苦しむ必要は、ないよ」


 アーシュはエミリアの顔を。

くしゃくしゃに歪んで涙を流しているエミリアの顔を見て言った。

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