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6-25

 アーシュは剣を操作してディアスを守ろうと。

だがディアスはそれよりも早く、その目を赤く燃やして。

ディアスの足元から長大な刃がいくつも直下そそり立ち、ディルクの剣を弾いた。


 同時にディアスの身体が軋みを上げる。


「ディアス兄ちゃん!?」


 アーシュはディアスの首筋から頬にまで侵食した自食の刃を見て。


「待って! それ以上はダメだよ! アムドゥス、エミリア!」


 アーシュは剣を操り、ディルク達を牽制けんせいしながらディアスの手を引いた。


「キャサリンさん!」


 アーシュは周囲を見回しながらキャサリンを呼ぶ。


「アムドゥス、あたしと契約して!」


 エミリアが言った。


「あたしとアーくん、アムドゥス、キャシーで協力すれば逃げられる」


「逃げられる? 逃がさねぇよ」


 ディルクが手振りで仲間に指示を出して。

その指示を受け、ディルクとリーシェが伴っていた数人の冒険者が剣を抜いた。

その剣が浮かび上がり、いで『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』の掛け声と共にディアス目掛けて放たれる。


 その本数は5。


 アーシュは素早く視線を切った。

その切っ先を。

その剣身を。

その鍔を、柄を。

アーシュの意識がなぞって。

迫り来る剣を次々とアーシュは自身のコントロールに。

そして放たれた剣がぴたりと静止する。


 その剣が緩やかにアーシュの周囲へと移動。

その周囲を旋回する。


「剣のコントロールを……奪われた?」


「あんな子供が?!」


 ディルクの隣で冒険者が驚嘆きょうたんの声を漏らした。


「『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』の射出後のすきを突かれたな。だがそうか、目視での剣の捕捉と操作ができるのか。それも射出された複数の剣を。なかなか見込みがあるんじゃないか」


 ディルクはアーシュと、アーシュの奪取だっしゅした剣を見て言った。


「『その刃、(ソード・)嵐となりて(ストーム)』!」


 アーシュは元々操作していた剣に、冒険者からコントロールを奪った剣を加えて。

いくつもの剣が高速で旋回。

それぞれが異なる軌道を描き、ディルク達に襲いかかっる。


「『その刃、(ソード・)暴虐なる嵐となりて(テンペスト)』」


 ディルクはアーシュの『その刃、(ソード・)嵐となりて(ストーム)』を、自身の放った『その刃、(ソード・)暴虐なる嵐となりて(テンペスト)』で迎え撃った。


 ディルクの視線が走る。

その瞳は四方八方から迫る剣を捉えて。

刹那せつなの間に次々と視線を切るディルク。

前方から。

右から。

回り込むように右後ろ。

背後と頭上。

左。

地面を這うように。


 それと同時にディルクの4本の剣が瞬く間に加速。

いで重なるように甲高い音が連なった。

ディルクは自身が操る剣の倍以上の数の剣を容易くさばく。


「見込みはある。だが俺の相手をするのは早かったな。遠隔斬擊(ストーム系)で俺と勝負しようなんて100年早い」


 ディルクが言った。


 アーシュは弾かれた剣の操作を再開しようと。

だがそれらの剣はすでにディルクの操作下にあり、アーシュのコントロールを受け付けない。


 アーシュは悔しそうに唇を噛んで。

いでかぶりを振るとディルクに言う。


「待ってよ。だって2人はディアス兄ちゃんと仲間だったんだよね。お兄ちゃんとお姉ちゃんの2人しか助からなくても、それでも2人は助かったんだよね……?」


「そうだな。俺達はディアスとパーティーを組んでた。黒骨の魔王の魔宮ではディアスに助けられた」


「だったら」


 ディルクは半眼でディアスを見つめて。


「なぁディアス、俺達は仲間か?」


「いいや。俺達は……そういう関係じゃない」


「…………」


 ディアスが言うと、ディルクは口許くちもとに薄く笑みを広げて。

だがその瞳に宿るのはもちろん喜びではなく。

そして怒りでも、憎しみでもなかった。


「ほら、な」


 ディルクは短く溜め息を漏らして。


「…………もういいや」


 ディルクは心底疲れたように呟くと、きびすを返した。

キールに視線を向ける。


「あとはあんたに任せるよ。魔物の捕縛のためにディアスはまだれないんだろ。どうぞ、好きにしてくれ」


 ディルクはひらひらとキールに向かって手を振った。

いで肩越しにディアスに視線を戻して。


「じゃあな。お前と言葉を交わすのはこれで最後だ。ここで捕まろうと殺されようと、ここを逃れようとな」


 ディルクは剣を操作。

仲間の剣をそれぞれのもとへ戻し、アーシュの剣と『刀剣蟲(ラーミナ)』を地面に突き立てて。

そしてディルクは平坦な声音で続ける。


「あとは礼を言ってなかったな。あの時助けてくれてありがとう。助かった。さよなら」


 最後にそう言い残すと村の中心の方へと歩いていくディルク。

その後ろをリーシェと仲間の冒険者達が続いた。


 リーシェは最後に何か言いたげにディアスを見たが、目を伏せるとその言葉を飲み込んだ。

そのまま背を向けて去っていく。


「待て。どこへ行く」


 キールがディルクにいた。


「……村の中心だ。そこに村の人間が集められてるんだろ。あんたのその処刑の正当性が証明されるまでこの村の人達はこっちで預からせてもらう」


 ディルクは答えると手振りで仲間に指示。

仲間の冒険者は、散り散りに逃げた見張りをしていた村人を追うため散開さんかいする。


「そやつらは大罪人だ」


「へーそう。でも、ここは大人しく引き下がった方が身のためだぜ?」


 ディルクはそう言うと頭上を見上げた。


 キールがその視線を追って空へと視線を向けて。

その先に浮かぶそれに気付く。


 ディルクとキールの様子を見て、ディアス達もそれに気付いた。


 それは空に浮かぶ巨大な建造物。

複数の棟に分かれた建物がそれぞれ上下に揺れながら浮遊していた。

白亜の城壁がそれらを囲むように、まばらに浮かんでいる。


そしてそれらの中でも一際大きい建物のふちには1人の人影。

その男は腕を組んで仁王立ちし、ディアス達を見下ろしていて。

短く刈り揃えられた白髪に厳格な顔立ち。

その紫色の瞳はディアスに鋭い視線を向けている。


「なに、あれ……」


 アーシュが言った。


「ラーヴァガルドの孤児院と、そこの院長──【嵐の覇王】と呼ばれた遠隔斬擊(ストーム系)最強の使い手だ」


 ディアスが答える。

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