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6-24

「……ねぇ、ディアス」


 リーシェがディアスに言う。


「魔人に堕ちても、あなたはきっと変わってない。ここであなたに会えたのがその証明」


 リーシェは周囲を見渡し、村の周囲で柱に縛りつけられた村人達の凄惨せいさんな姿を思い出して。


「だっておかしいわ。こんな辺境の村で魔人を匿い、さらには魔人堕ちを増やしてたなんて。ここは街道からも遠くて人の往来はほとんどない。魔人と魔人堕ちが喰らう人間の確保ができないもの。これは何らかの陰謀いんぼう。私の知ってるあなたなら、きっと止めに来ると思った。……だからこそ、お願い。私達の手で────」


「断る」


 ディアスはリーシェの言葉を遮った。


「どうして? だってあなたはもう……。その身体普通じゃないわ。今だってディルクの放った剣をかわすことも防ぐこともできなかった。その身体、もう限界なんでしょ? それでもまだ、あなたは戦うの?」


 ディアスがうなずくと、ディルクは鼻で笑って。

 

「ひどい悪あがきだな、ディアス」


「悪あがきしかできない人間だからな。じゃなかったら俺は冒険者にはなれなかったさ」


「そうか。だがそれももう終わる」


 ディルクは宙に浮かぶ剣の切っ先をディアスに向けた。

その剣を放とうと。


「待て」


 だがキールが制止する。


「そいつをどうしようと私は構わんが、そいつと契約している魔物の捕縛をヨアヒム様に命じられている。その捕縛が完了するまで討伐されては困る」


「そうか────」


 ディルクはキールには目もくれず。

4本の剣を操り、ディアス目掛けて放って。


「残念だったな」


 キールはディルクが言い終えるより早く。

閃光と共にディルクの放った剣を阻むように結晶の壁を生み出した。

ディルクの剣がその壁に阻まれる。


「貴様」


 キールは身にまとう鎧に激しく光を明滅させてディルクを睨んだ。


「────あなた、勇者なんでしょ」


 エミリアがディルク言った。

エミリアはその顔を苦悶くもんに歪め、ディルクの剣によって受けた傷を押さえて。


「その男は罪もない村の人達に濡れ衣を着せ、私の家族にも酷い仕打ちをした。ディアスなんかよりも、真っ先に倒すべきよ」


「小娘が」


 苛立たしげにエミリアを睨みながらも、キールはエミリアから数歩距離を取る。


「…………」


 ディルクはエミリアを半眼はんがんで横目見ると、結晶の壁越しに再びディアスを見た。


「子供2人と旅をしてると聞いてはいた。魔人堕ちの親を持つ身寄りのない子供と、魔人堕ちして社会から受け入れられない子供。2人とも聞き分けが良さそうだし、一緒にいて楽だったろ。頼れる相手がいない子供2人だ。お前との信頼関係もいらない。ただお前が庇護ひごを与えてやれば、2人はお前を必要としてくれる」


 ディルクは阻まれた剣を手元に手繰たぐり寄せた。

手を剣へとかざし、その手を引いて。

青白い結晶の壁面に突き立てられていた剣がディルクの手元へと戻る。


「誰かに必要とされたい。お前はその欲求を簡単に満たせるから2人と旅をしていた」


「……ケケケ。言われちまったな、ブラザー」


 アムドゥスがディアスに耳打ちした。

ディアスはディルクとアムドゥスを交互に睨む。


「ケケ、そんな目で見んなよ。俺様は前に言ったぜぇ? 今の付き合い方のままだったら2人は離れるってな。お前さんが嬢ちゃんとくそガキに好意を抱いてないとは言わねぇし、善意で仲間にしたのは分かってる。だがその付き合い方は不誠実だ。少なくとも俺様の目にはそう見えたぜぇ?」


「不誠実?」


 ディアスはディルクを警戒しながらアムドゥスにいた。


「だってそうだろ? 無条件で自分を必要としてくれる存在。そう思ったからお前さんは2人と一緒にいられた。じゃなかったらそれまでの7年間のように一時の行動は共にしても、仲間にはしなかったろ? ケケケケケ」


 ディアスはアムドゥスの声に耳を傾けなら、ディルクの操る剣を注視ちゅうししていた。

4本の剣が一直線に並び、その切っ先はディアスに向けられる。


「ブラザーは元々落ちこぼれとしての劣等感が根底にある。誰からも必要とされてないんじゃないか。その不安と向き合って、他者との信頼関係を築こうとはしなかった。ケケ、まぁせっかく得た勇者の名とその力を失なっちまったのが、元々のブラザーの悪いところに拍車はくしゃをかけさせたんだろうがなぁ」


「…………」


「ケケ、ブラザーに悪気はなかった。ただ気付いてなかっただけだ。ただ可愛がるだけでいいペットじゃなく、嬢ちゃんとくそガキは人間だって事になぁ。だからこそ自分で気付いて欲しかったが」


 ディアスは息をついた。

震えそうな吐息を意識して一定に保って。

そして無意識に、目を伏せてしまう。


「────よそ見かよ」


 ディルクは再び剣を放った。

連なる4つの刃。

光をまとって加速する剣の切っ先が結晶の壁へと突き刺さって。

いで後続の剣がその柄を打ち、その刃をより深く突き立てる。


 さらに3本目の剣が2本目の剣の柄を打って。

そして4本目の剣が柄を押し込むと、ついには先端の剣が結晶の壁を破った。


「ディアス兄ちゃん!」


 アーシュは剣の操作をしながら叫んだ。


 ディアスの眼前にはディルクの射出した剣の切っ先が迫る。

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