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6-23

 ディルクはディアスの『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』によって拘束されている自身の剣に意識を向けた。

絡み付く無数の刀剣を振り払い、ディルクの剣は宙に舞って。

その剣はディルクのもとへと戻り、その周囲をゆっくりと旋回する。


の勇者だと? 新たな勇者が受諾じゅだくされたなど聞いてはおらんぞ」


 キールがいぶかしげな視線をディルク達に向けた。


「だろうな。一応、俺らの院長──ラーヴァガルドの推薦としかるべき手続きはこの間済ませてあるから、もうそろそろ受理されると思うが」


「ラーヴァ……ガルド」


 キールが苦々しく呟くと、ディルクは軽薄な笑みを浮かべて。


「そんな顔すんなよ。うちはあんたんとこのヨアヒムの勢力とは対立関係にあるが、今はありがたい助っ人だろ? 別に恩を売るつもりもない。俺達の目的は────」


 ディルクは顎でディアスを指す。


「そこの魔人堕ちの討伐。それだけだ」


「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」


 アーシュはディルクとリーシェに呼び掛けた。


 ディルクとリーシェは、アーシュを。

その紫の瞳を見る。


「その目は…………」


「君、いつかの村にいた男の子だよね」


 首をかしげているディルクの隣でリーシェが言った。


 アーシュは大きくうなずいて。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんはおれの村に来たとき、ディアス兄ちゃんの話をいっぱいしてくれた! 仲間、なんでしょ…………。ディアス兄ちゃんは人を喰ってないし、悪いことなんて何1つしてない」


「それで?」


 ディルクは冷たい眼差しでアーシュを見る。


「悪人だろうとそうでなかろうと、魔人は魔人だろ? ……思い出した。お前、魔人堕ちの子供だな。討伐依頼を受けて行った森ん中の村にいた子供だ。俺らが行った頃には討伐対象が永久魔宮化しちまってて無駄足になったが」


「ディルク、そんな言い方」


「もう気を使う必要はないだろ。こいつは自分の母親が魔人堕ちだった。だから他の魔人堕ちをかばうことで母親を正当化したい。魔人堕ちにも良いやつはいる。自分の母親も良いやつだった、てな」


「違う、違うよ」


 アーシュが否定するとディルクはため息を漏らして。


「だってお前、自分の母親が良いやつだと思ってるだろ? 永久魔宮化して村の人間を危険に晒したのにさ」


「でもお母さんは、おれとお父さんを助けるために仕方なく魔人堕ちした。永久魔宮化したのは人を喰わなかったからからで」


「自己犠牲の魔人堕ち。人を喰わない信念。それがお前の母親にとっての正義だとして、自分本意の正義のために他者を巻き込み、危険に晒す。それってさ────」


 ディルクはアーシュの目をまっすぐに見つめて言い放つ。


「悪だろ」


 アーシュはディルクの言葉に目を見開いた。

唇が小さく震えて。

否定の言葉を探すうちに、その目に涙が溢れてくる。


「それでも……お母さんは」


「正義ってのは大衆のためにある。大勢の人間にとっての益となる選択と思想が正義だ。個人のために大衆をおびやかすのはその逆、すなわち悪に他ならない」


 ディルクはディアスを睨むと続ける。


「なぁ、ディアス。自分の正義を成す。聞こえはいいが、そんなものは正義じゃない。そうだろが」


「……ディルク、お前はいつだって俺の正義を否定する」


 ディアスはアーシュの支えを優しく払うと、立ち上がった。


「俺はただ、姿の見えない誰かよりも目の前にいる人を救いたい。それだけだった」


「目の前にいる人を、ね。だからお前は1人残った。黒骨の魔王から俺達を逃がすために。それで、俺達(・・)を────」


 ディルクは自分とリーシェの2人を示して。


「たった2人だけ生き永らえさせて、それでどうしたかったんだ? そして俺達を助けたあと、今度は何を助けなくて魔人堕ちした?」


 ディルクは手をかざした。

同時に剣が加速。

ディアスの肩にその刃が深々と突き刺さる。


「俺達はいつも失う側だ。魔人に家族と故郷を奪われ、次は家族同然に育ってきた仲間をまた失った。お前は何を失った? 家族がいて、故郷があって。俺達にないものをたくさん持っていたお前が。それ以上をなんで望んだ」


「お前には何を言っても意味はない」


 ディアスは肩に刺さった剣の柄を掴んだ。

その刃を引き抜いて。

金属の擦れる音とともに自食の刃の破片が落ちる。


「お前はお前の望む解答が俺の口から出なければ満足しないだろ。だが俺はそれを口にはしない」


 ディアスは引き抜いたディルクの剣を投げ放った。


「『その刃、疾(ソード・)風とならん(ガスト)』!」


 光をまとって加速する剣。


 迫り来る刃の輪郭をディルクの意識がなぞり、ディルクはその操作を得て。

いでディアスの放った刃はディルクの眼前でぴたりと静止した。


「無駄だ。遠隔斬擊(ストーム)系の剣技で俺達には勝てない。それはお前が一番よく知ってるだろう」

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