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6-22

 キールはエミリアが迫るとたじろいで。

小さなうめき声を漏らすと、身にまとう結晶の鎧に光を明滅させた。

逆巻さかまく炎のような荒々しい鎧の上を光が幾筋も走り、その光が一点に集中。

いで閃光と共に。

キールを中心に、幾重にも折り重なる青白い結晶が展開される。


 エミリアは光が集束するのを捉えるとすかさず後ろに跳んだ。

結晶の展開を回避して。

着地と同時に、折り重なる青白い結晶へと視線を向ける。


 その視線の意図をみ取って。

周囲の魔物の殲滅せんめつを終えたシャルはキールに向かって突進した。

たてがみを振り乱し、地響きのような足音をとどろかせてその巨体が駆ける。


 キールは迫り来る強大な魔物を。

いでその足元を見た。

鮮血の涙によって赤く染まった大地。

俗にボス部屋と呼ばれる、バフ効果とその効果を最大限に受けられる強大な魔物の現界に必要不可欠な領域。


 キールは青白い結晶に包まれた剣の切っ先を地面に突き立てた。

キールの全身をめぐる光が剣の刃を走り、地面を伝って。

その光はシャルの足元で弾ける。


 その光は血涙けつるいを飲み込み、それを青白い結晶へと変質させた。

その侵食はまたたく間に拡がり、ジャルまでもを飲み込もうと。


「────『緋色の咆哮(スカーレット・ハウル)』!」


 エミリアは赤い光をまとったハルバードの柄を地面に打ち付けた。

それと同時にシャルは大気を震わせる咆哮ほうこうを響かせて。

それは赤い波となって拡散し、目前に迫った結晶を粉砕して巻き上げる。


「エミリアと同じ攻撃が使えるんだ」


 アーシュはディアスを支えながら呟いた。


「ケケ、逆だぜぇ?」


 アムドゥスは額の瞳でその戦闘を観察して。


「あのボスの使う技を嬢ちゃんも使えるってのが正しい。額の大小それぞれの角は、あのミノタウロスの力と女の力の象徴みてぇなもんだ。嬢ちゃんはあの角で同調してその力を引き出してる」


「……アムドゥス、エミリアの魔力は?」


 ディアスがいた。


「ケケケ、ブラザーの懸念けねん通りだぜぇ。あの魔宮を展開してからすでに6割近い魔力を消耗してる。燃費の良さも嬢ちゃんの魔宮の長所だったが、今の構成は燃費度外視の攻撃的な振り分けだ。今までと同じ、展開域を最小の1にしてるからなんとかなってるが、長期戦は不利だ」


「やっぱりおれが加勢かせいした方がいいんじゃないの?」


「やめときな。あのヒゲがどう動くか分からねぇし、1度結晶に飲まれたら今回の戦闘ではひとまずその得物は使用不可だ。コレクターの手下まで動き始めたんだ。ブラザーは今もう戦えねぇし、何かあったときはクソガキが頼りなんだからなぁ」


「分かった」


 アーシュがうなずく。


 シャルが結晶の侵食を止めると、乙女の両目から流れ出る血の涙が足元に拡がった。

再び真っ赤な鮮血が足元を覆い尽くし、それはボス部屋としての効力を取り戻す。


「移動式な上に破壊もままならんとは」


 キールはシャルの足元に広がるボス部屋を見て苦々しく呟いた。


「せめて今一度ソードアーツを放つだけの魔力さえあれば、あんな小娘とその魔物程度!」


キールは後ろに下がろうとろうと。

だがエミリアとシャルがそれを許さない。


 連ねる結晶を跳び越えてキールへと迫るエミリア。

その剛腕で長大な戦斧せんぷを振るって結晶を破砕はさいしながら迫るシャル。


 それぞれの刃がキール目掛けて振るわれて。


────刹那せつな、風切りの音。

光をまとい、遥か彼方から飛来する4つの刃。


「『その刃、疾風となりて(ソード・ガスト)』」


 エミリアは素早く視線を切り、眼前に迫った刃全てを捉えて。

エミリアはそれらを斬り払おうと。

だが放たれた刃の軌道が直線ではない事に──その軌道が操作されている事に気付いた。

1つ1つを斬り払う事をやめ、すぐさまハルバードに赤い光の奔流ほんりゅうまとわせる。


「『緋色の咆哮(スカーレット・ハウル)』!」


 赤い衝撃が波紋のように拡散し、迫り来る剣を頭上へと吹き飛ばした。


 だが舞い上げられた剣は一様にその切っ先をエミリアへと向けて。


「『その刃、降り(ソード・)頻る豪雨たらん(スコール)』」


 いでその刃に光がまとうと射出。


 エミリアは咄嗟とっさにその刃を防ごうとするが、間に合わない。


 すれ違うようにその刃先をかすめ、エミリアの体を斬り裂く刀剣。

その刃を受けると、エミリアは傷口から痺れを。

焼けるような熱を。

その部位の感覚の消失を。

そして急速に体から力が萎えていくのを感じる。


「毒、か」


 エミリアは『在りし緋の咆哮(シャルフリヒター)』の展開を止めた。

魔宮を失い、シャルの姿がエミリアの影へと戻る。


 エミリアは宙を駆ける4つの剣を睨んだ。


「『その刃、(ソード)暴虐の嵐となりて(テンペスト)』」


 その刃はいで旋回。

高速の斬擊となってエミリアを襲う。


遠隔斬擊(ストーム系)の剣技!?」


 アーシュは目を丸くして。


「『その刃、(ソード・)嵐となりて(ストーム)』!」


 だがすかさずアーシュは剣を操作。

アーシュの操る剣がはしった。

それはエミリアに襲い掛かる刃を迎え撃とうと。

だがアーシュの操る剣は容易く弾かれる。


 ディアスはその瞳に灯る赤い光を燃やして。


「待ちな! ブラザー!」


 アムドゥスの制止も聞かず、ディアスは無数の刃を展開。

展開された刃の側面から次々と新たな刃が形成され、エミリアに迫る4つの剣へと伸びる。


 4つの剣は軌道を変えて『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』の刃を回避。

だがディアスは回避と同時に連なる刃を操り、その軌道の先へと刃を先回りさせた。

その4つの剣を絡めとる。


「…………くそ」


 ディアスは舌打ちと共に言った。

その視線の先には数人の人影が躍って。

その人影はキールとディアス達の間に降り立つ。


「よう、死に損ない」


 先頭に立つ青年がディアスに言った。

その男はふわふわとした桃色の髪とみどり色の瞳を持ち、顔に走る大きな傷痕が片目を塞いでいる。


 青年はじっとディアスの瞳を見つめると、侮蔑ぶべつするような眼差しを向けた。


「何者だ、貴様ら」


 キールは突如とつじょ現れた青年とその仲間を見てたずねた。


「俺達か?」


 青年はキールの方へと肩越しに振り返って。


「堕ちた5人目に代わる7人目。の勇者、そのご一行様よ」


 藤色のマントをはためかせ、青年は皮肉ったような笑みを浮かべる。


「ディルク…………」


 ディアスは顔に傷のある青年──ディルクを睨んだ。

いでそのかたわらに立つ、顔を隠した女性に視線を向ける。


「ディアス、本当に魔人堕ちになっていたなんて」


 その女性は悲しげな眼差しを布と布の隙間からディアスに向けていた。


「リーシェ、なのか……?」


 ディアスが名前を呼ぶと、肢体のほとんどを覆い隠した女性──リーシェがうなずく。

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