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6-20

 エミリアはハルバードにまとわせていた赤い輝きを放った。

大きな弧を描いて拡散する光の刃が周囲の魔物の身体を斬り裂き、後方へと吹き飛ばす。


「シャル!」


 エミリアが呼ぶと牡牛おうしの首が咆哮ほうこうを上げた。

それに重ねるように、乙女が慟哭どうこくの声を漏らす。


 いでエミリアにこたえて疾駆しっくする異形の魔物。

シャルは魔物の群れの中を、左腕で大きな戦斧せんぷを豪快に振るって。

行く手をさえぎる魔物を次々と叩き伏せた。

そして乙女の両腕が白いハルバードを軽快に操り、魔物を次々に斬り伏せる。


 シャルの前方には、口から火の粉と黒煙を吐く竜。

その隣には頑強なゴーレム。

シャルの右側からは雄々(おお)しいミノタウロスが2体。

左側には銀色に輝くスライムの姿があった。


 ドラゴンの喉奥からは明々(あかあか)とした炎が膨れ上がった。

 ゴーレムは腕を顔の前で交差させ、体を丸めると全速力でシャルへと突進。

2体のミノタウロスはそれぞれ戦斧せんぷ棍棒こんぼうを振りかぶって。

スライムは丸い体の側面からいくつもの触手を伸ばす。


 シャルは大きなひづめで地を踏み締めると、その巨体を大きく左へとねじった。

そのまま左へと旋回し、遠心力を乗せて。

シャルはドラゴンの顔面目掛けて長大な戦斧せんぷを投げ放つ。


 凄まじい空気のうなり。

いでグシャリと鈍い音。


 ドラゴンの顔が潰れ、顎が大きく裂けた。

投げ放たれた戦斧せんぷがドラゴン頭から首、胴までをぐちゃぐちゃに潰しながら切断。

その体が大きく後ろにると、傷口から炎が噴き出す。


 シャルは戦斧せんぷを投げると、すかさず体を右にひねって。

ひづめを地面に叩きつけ、旋回の勢いを殺した。


大きく振り乱された、乙女の髪と牡牛おうしたてがみ

 シャルはその濃紺の毛の合間から、ゴーレムの巨体が迫ってきているのを捉える。

 

 地響きのような足音を響かせながら。

硬質な身体とその質量をもってシャルへと巨体をぶつけるゴーレム。


 シャルはその攻撃を受け止めた。

左腕でゴーレムの体を受け止めると、すかさず牡牛おうしの頭から伸びる大きな角をその体の下へと滑り込ませて。

いでその超重ちょうじゅうな身体をしゃくり上げる。


 宙に持ち上げられたゴーレムの巨体。


 シャルは左から迫るミノタウロスの1体に向かってゴーレムを投げ落とした。

ゴーレムに押し潰されたミノタウロスは、体をあらぬ方向に折り曲げて。

身体から自身の骨が何本も突き出し、内臓が口からこぼれる。


 もう1体のミノタウロスは構わず得物を振り下ろそうと。

だが、その視界を塞がれた。

ミノタウロスの頭蓋ずがいがミシミシときしみを上げて。


シャルはその左腕でミノタウロスの頭を鷲掴わしづかみにすると、その体を勢いよく持ち上げた。

同時に乙女は白のハルバードを構える。


 起き上がろうとしているゴーレム。


 シャルはその頭部にミノタウロスの頭を叩きつけた。

頭蓋ずがいを砕かれて脳漿のうしょうを散らすミノタウロスと、その勢いに頭部をもぎ取られるゴーレム。


 そのかたわらでは白い閃きが舞った。

乙女は迫り来るスライムの触手を次々と斬り伏せる。


 シャルは銀のスライムに向き直ると、その左腕を払った。

触手の何本かをまとめて掴むと、その体をグンと引っ張る。


 引き寄せられるスライム。

だがスライムはその身体を波打たせると、瞬く間に薄く広がった。

シャルに覆い被さり、頭からその体をみ込む。


 スライムは強くシャルの体に取り付いた。

毒液を分泌してその体を焼こうと。

だがスライムの身体は刹那せつなの間に風船のように膨れ上がって。

いでその身体が弾け飛んだ。

大気を震わせる咆哮ほうこうと共に、赤い波紋が拡散。

バラバラにされたスライムの小さな破片が辺りに散らばった。


 シャルはかがむと、下肢かしに力を込めた。

いでその巨体が跳び上がると、先ほど戦斧せんぷを投げ放って倒したドラゴンの上に着地。

ぐしゃりという音と共にその身体をさらに原形をとどめない、ただの肉塊にくかいへと変えて。

そしてシャルは突き立てられていた戦斧せんぷを引き抜き、振りかぶる。


 エミリアとアーシュはシャルの後ろからディアスのもとへと向かっていた。

蹂躙じゅうりんされた魔物の亡骸なきがら

それらが散乱する中を2人は走る。


 ディアスは必死に剣を振るって。

だが甲冑の戦士は容易くその剣を払い、ディアスに傷を与えていた。


 甲冑の戦士は反撃する度に動きを止め、ディアスの次の動きを待っていた。

そしてディアスが攻撃に出る度にその攻撃をいなし、斬りつける。


「…………くそ」


 ディアスが呟いた。

金属の乾いた音を響かせる、思うように動かない自身の身体を忌々《いまいま》しげに見る。


「…………」


 甲冑の戦士は剣を構えたまま、ディアスの様子をうかがっていた。

柄に添えていた左手を離すと、手振りで出せと促す。


真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)が欲しいのか。やめておけ」


 ディアスが言うと甲冑の戦士は首を左右に振った。

いでまた手振りで示す。


 だがディアスは甲冑の戦士を睨んだまま動かない。


 戦士は突如とつじょ、鞘を手に取ると空中にほうった。

その鞘目掛けて剣を一閃。

鞘を真っ二つに斬り裂く。


「ケケケ、ついに我慢の限界かぁ?」


 アムドゥスの声。

アムドゥスは空中から甲冑の戦士に向かって急降下。


「喰らいなぁ! 俺様の必殺技をっ!」


 アムドゥスが片翼を肥大化。

その姿に甲冑の戦士は身構えて。

だがアムドゥスは戦士の剣の間合い寸前にまで迫ると、突如とつじょ方向を変えた。


「────『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』!」


 その時、複数の風切り音が連なって。


 甲冑の戦士は飛来する剣に気付くと、それらを迎撃するために剣を振るう。


 切り払った複数の剣の先。

そこからおどり出たエミリアがハルバードを振るった。


 甲冑の戦士はハルバードをいなそうと。

だがエミリアは火花を散らす刃を強引に振り抜き、甲冑の戦士を押し飛ばす。


「ケケケ、無事かぁ? ブラザー」


 アムドゥスがディアスの肩に止まる。


「必殺技はどうした」


 ディアスは肩のアムドゥスを横目見ながら言った。


「ケケ、大して魔力も残ってねぇのによく言うぜぇ! 俺様が1発撃っただけで永久魔宮化しちまうような状態だろ」


 ディアスは今もその身体をむしばむ自食の刃の進行が止まらないのを感じながら。


「試してもいいぞ」


 ディアスがそう言うと、アムドゥスはやれやれと肩をすくめる。 


「ディアス兄ちゃん!」


 アーシュは斬り払われた剣を操作しながら呼んだ。


 甲冑の戦士は周囲に視線を向けた。

エミリア、シャル、アーシュ、そしてディアスとアムドゥスを見て。

戦士は1歩後退する。

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