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6-18

 エミリアは胸に納めた魔結晶アニマがその身体に馴染んでいくのを感じた。

胸の奥が焼けつくように熱くなり、その熱が全身に拡がって。

崩れかかっていた身体は修復され、その琥珀色の瞳は再び赤い輝きに上塗りされる。


 いでその瞳がチカチカとまたたいた。

そこに灯る光が右から左へ。

左から右へ。

エミリアは魔結晶アニマのリソースを割り振り、自身の魔宮を再構築した。

胸に宿る魔結晶アニマが過去に展開していたのは広大な迷宮と強大な力を誇るミノタウロスの上位種が闊歩かっぽするA難度の魔宮。

そのリソースから展開域を最小の1に。

残りを自身の強化とボスの戦闘力、ボス部屋のバフ効果に全て費やす。


 アムドゥスはエミリアが再び魔人の力を得たのを確認すると、すかさず元の姿へと戻った。


 礼服の男はアムドゥスから解放されると、すぐさま魔物を召喚。

魔結晶アニマを取り戻すため、エミリアを襲う。


 エミリアに向かって巨大な拳を振りかぶるゴーレム。

人の身の丈の倍以上はあるその身体は、魔宮にのみ生成される硬質な鉱石を積み上げて形作られていた。

直立すると床にまで垂れ下がる長くて大きな腕は、鉱床こうしょう岩盤がんばんを使っていて。

そこに走る亀裂や欠けた断面は銀色に光っている。


 そして風のうなりを伴って。

振り下ろされるゴーレムの拳。


 エミリアは目前に迫る、自分の体躯たいくよりも大きな拳をまっすぐ見つめて。

その手に持つ青のハルバードでゴーレムの攻撃を受け止めた。

その衝撃にエミリアの足元が大きく陥没かんぼつ

だがエミリアはその衝撃を受けても微動だにしていない。

白い前髪の隙間から、赤く輝く瞳がゴーレムを見据えている。


「ケケ。同じA難度相当の魔結晶アニマでもゴーレムのものと嬢ちゃんのものとじゃあ、そのリソースのき方がまるで違う。前の嬢ちゃんならボスを召喚してようやく倒せたレベルのゴーレムだが、今はもう敵じゃないぜぇ? ケケケケケ!」


 アムドゥスが頭上を旋回しながら言った。

額の第3の瞳でエミリアのステータスを読み取り、にやりと笑う。


 エミリアはゴーレムの拳をけて。

いで片腕だけで斧槍ふそうを振り上げた。

ゴーレムの堅牢けんろうな身体が、それだけで大きく砕ける。


 胴をえぐられ、後ろに後退あとずさるゴーレム。


 エミリアは振り上げた得物を肩に担ぐと、両手で柄を握って。

上体を反らし、腰をひねってハルバードを振りかぶった。

いでゴーレムの眼前へと跳躍。

体をよじりながら折り曲げ、ゴーレムの頭目掛けて斧槍ふそうを叩きつける。


 大きく弧を描いて振り下ろされた刃がゴーレムの頭を粉砕し、その身体を真っ二つに断ち切った。

ゴーレムの巨体が倒れると、その身体を形作っていた鉱石がバラバラに崩れて散らばる。


 礼服の男は、自身の膂力りょりょくだけで頑強がんきょうなゴーレムを軽々とほふったエミリアの力に目を見張みはった。

すかさず次の魔物を召喚しようと。


 だがエミリアは礼服の男へと迫ると、その腕甲わんこう目掛けてハルバードを振るった。

魔結晶アニマめ込まれた腕甲を砕く。


 砕けた腕甲わんこう魔結晶アニマと共に四散。


 礼服の男はいびつに折れ曲がった腕の痛みに、微かに顔を歪めていた。

男はエミリアを見て。


「殺そうと思えば殺せたでしょうに」


「あたしが、あたしの手で殺さなきゃいけない相手は別にいる」


 エミリアはキールの方へと鋭い視線を向けた。

拳を強く握り、その姿を凝視して。

だがその赤い瞳が突如、ぎろりと礼服の男に向く。


「でも、もう同じ失敗はしない。ねぇかせて。あなたは、悪い人……?」


「悪か善か。それは個人の主観によるものです。絶対の善悪はない。ただ、私の行いが多数の人にとって悪なのは否定できないでしょう」


「そう」


 エミリアはハルバードを振りかぶり────


「ですが」


 礼服の男はエミリアの鋭い瞳に真っ直ぐ視線を返して。


「私を殺すのはおすすめできません。すでに魔人ディアスはライヒェ様にその胸の魔結晶アニマを狙われる身。貴女あなたもライヒェ様の大事なコレクションを奪ってその身に宿した。ライヒェ様は彼と貴女あなた魔結晶アニマをその手にするまで諦めないでしょう」


 そう言うと礼服の男は甲冑の戦士に視線を向ける。


「さらに刀剣収集のコレクターも彼の剣を狙っている。あの戦士はその使者です。コレクター2人を相手に。この時点で貴女あなた達は詰んでいる。さらにギルドも勇者を使い、貴女あなた達を追っているとか」


「…………」


 エミリアは無言で礼服の男に続きを促した。


「そして魔結晶アニマのコレクターと刀剣のコレクター、ギルドに加えて。さらに私を殺せば第4の勢力が本格的に動きましょう。今は機をうかがっていますが、私のご主人様は執念深しゅうねんぶかいですよ?」


「ご主人様?」


 エミリアは怪訝けげんな面持ちを浮かべて。


「あなたがつかえてるのはコレクターなんじゃないの?」


「私はライヒェ様に忠誠を誓っています。ですが私はライヒェ様の意思に反しない範囲で、自身の存命のためにつかえる事を強制させられている相手がいる」


「それは誰?」


 礼服の男は小さく笑みを浮かべるとかぶりを振る。


「それは言えません。ですが私を見逃してくれるのなら、その第4の勢力に属する者かどうかを見分ける1つの指標をお教えしましょう。どうなさいますか?」


「…………分かった」


 エミリアが答えると礼服の男はゆっくりと後退を初めて。


「交渉成立。ではお教えしましょう。スペルアーツの扱いに長けた者に注意を。特殊なスペルアーツや、我々はくさびと呼びますが発動前のスペルアーツを設置する技術を持った者はその勢力に属している可能性が高い」

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