6-17
ディアスは足に取り付いたスライムを見下ろして。
毒によって身体を侵すそれを睨むと、取り付かれた箇所を自食の刃に喰わせた。
得た魔力によって生み出すのは長大な刃。
その刃の切っ先が頭上から迫るドラゴンの腹を貫く。
さらにディアスはドラゴンを貫いた刃の陰に跳んだ。
ミノタウロスとゴーレムの攻撃が刃に阻まれて。
だが2体の攻撃はその刃を砕いた。
砕けた刃が飛散する。
ディアスは飛んでくる砕けた刃をかわしながら再びキールに向かって走った。
同時にマントのようにたなびく連なった刀剣を操り、背後の魔物を牽制する。
「私と魔物をぶつけるつもりか?」
キールは向かってくるディアスと魔物の群れを見て呟いて。
「私は貴様の思惑通りになどならん」
キールはにやりと笑った。
その手に握る結晶に包まれた剣に灯る、明滅する光。
その光が走ると、ディアスの目前に青白い結晶でできた壁が直下立つ。
その壁は高く、ディアスを囲むように展開されて。
魔物の群れが追ってくる後方だけが開け放たれていた。
そこに魔物がなだれ込んでくる。
薄く、透き通った結晶の壁。
その壁越しに交わるディアスとキールの視線。
そして、その壁面に僅かに反射する景色。
そこに躍る影をディアスは捉えた。
その影は一瞬で消えて。
ディアスは連ねた刀剣を操り、即座に防御の体勢を────
だが、間に合わない。
鋭い閃き。
音もなく斬撃が走り抜けて。
そして1拍の間を空けて斬り裂かれた刀剣が崩れ落ち、ディアスの背から鮮血が噴き出す。
ディアスは顔を苦悶に歪めながら振り返った。
同時に体を捻り、爪先を軸に旋回。
連ねた刃を振るう。
ディアスが振り向くまでに一閃。
次いで3度刃が閃いて。
さらにディアスの上体が背後を向くまでに6度。
そしてディアスが刃を振り切るまでに幾筋も剣閃が走った。
甲冑の戦士は振り抜いた剣を構え直した。
それは細かい装飾の施された直剣。
一見その剣身は鋼のようだが、刃先が光を受けると紅く反射する。
「ディアス兄ちゃんっ!」
アーシュは魔物の群れを掻い潜りながらディアスを追っていた。
両手にそれぞれ握った剣に魔力を蓄えながら、『刀剣蟲』を自身の周囲に旋回させて。
だがその眼前にひしめくのはA難度以上の魔宮のボスクラス。
経験も浅く、装備も十全ではないアーシュではその魔物の群れを容易には突破できない。
「スペルアーツ『活性治癒』────」
キャサリンのスペルアーツ。
緑色の光がディアスの周囲を漂って。
「『魔象強化』!」
キャサリンは先に回復のスペルアーツを発動させてからその効果を高めた。
「キール・クロスブライト!」
次いでキャサリンがキールに言う。
「いいのかしら? そこの2人を放っておいて」
キャサリンは目で礼服の男と甲冑の戦士を指して。
「エミリーや村の人達に対するあなたの行いは私怨でしょうけど、魔物の捕縛はあなたの意思ではなく上からの命令でしょ?」
キャサリンが言うと、キールはキャサリンに視線を向けた。
キャサリンは続けて。
「その魔物は今ディアスちゃんと契約してるわ。ディアスちゃんの身に何かあれば、その魔物は死んでしまうわよ。まずはそっちの2人の排除からすべきじゃないの?」
キャサリンはちらりと礼服の男を横目見た。
目配せすると、キャサリンはすぐにキールに視線を戻す。
「この私に意見するなよ、低級冒険者」
そう言うとキールは、蔑むような目でキャサリンの長い三つ編みと身に纏うドレスを見た。
「…………キール・クロスブライト様」
礼服の男が声をかけた。
「我々はそれぞれがコレクターの命を受けております。私は彼の魔結晶を、あちらの御仁は彼の生成した魔剣をそれぞれ回収しなくてはなりません。貴方様もギルドの人間ならコレクターを敵に回すことの不利はご理解いただけるかと。彼の身柄、こちらにお譲りいただけませんか?」
キールは礼服の男を睨んで。
「その男にも思うところはあるが、そいつの身柄をそちらに任せる事については構わない。これ以上私の邪魔立てをしないというならな。…………だがそこの下級冒険者の言った事が本当なら、それは私の職務に差し支える」
「彼と契約している魔物、ですか」
礼服の男はふむ、と口許に手を当てて。
「ちなみに、その魔物は今どちらに……?」
礼服の男は周囲を見回した。
キールも視線を走らせる。
見えるのはディアスと甲冑の戦士、魔物、アーシュ、そして横たわるクレトの姿だけ。
その時、礼服の男の背後から青い閃き。
物陰に潜んで機を窺っていたエミリアは、青いハルバードを礼服の男目掛けて振り下ろした。
その全身をアムドゥスが包み、非力な少女が自身の得物を振るうのを補助している。
礼服の男はエミリアの攻撃をかわした。
「アムドゥス!」
「あいよ、嬢ちゃん」
エミリアの呼び掛けに応え、アムドゥスは礼服の男へと襲い掛かった。
不定形のまま礼服の男に覆い被さる。
「嬢ちゃん! 左腕の黄色いやつだ!」
アムドゥスが叫んだ。
エミリアはすかさず男の左の腕甲から魔結晶を剥ぎ取った。
「貴様……! それはライヒェ様の……!」
礼服の男は魔結晶を奪われたのに気付くと、声を荒らげる。
エミリアはその胸に空いた穴へと、奪った魔結晶を押し込んだ。




