6-15
キャサリンはドラゴンの吐く紅蓮の炎とゴーレムの拳を睨んで。
「『防御魔象』!」
キャサリンは、すかさず燃え盛る炎を一時的に防いだ。
魔力で編み上げられた半球状の盾が炎を遮る。
だが魔力の盾に走る亀裂。
そしてキャサリンへと振り下ろされる、巨大な拳。
キャサリンは杖を宙に放り投げた。
空いた両手でゴーレムの殴打を受け止める。
激しい衝撃にキャサリンの足元が陥没し、長い三つ編みがひるがえって。
「『筋力強化』────」
キャサリンは受け止めると同時に自身にバフを付加。
だがその顔が苦悶に歪んだ。
ゴーレムの圧倒的な力に、その全身が軋む。
「『魔象強化』!」
キャサリンは付加したバフを強化。
その全身の筋肉に熱と力がみなぎり、ゴーレムの攻撃をかろうじて抑えた。
次いでキャサリンは全身の筋肉の緊張を保ったまま、目線だけを動かして。
その視線の先には炎を阻む魔力の盾。
その盾は砕け散り、キャサリンに向かって炎が押し寄せる。
「うぉぉおおおおっ……!」
キャサリンは僅かにゴーレムの拳を押し返して。
次いで即座に身を引いた。
地面を蹴り、横に転がる。
その隣に打ち付けられる大きな拳。
地面が大きく穿たれて。
そしてそこに紅蓮の炎が迫る。
キャサリンはゴーレムの腕を盾にしてドラゴンの炎からその身を守った。
「やーね。野太い声出ちゃったん」
キャサリンは下肢に力を込めると、跳び退いて。
「『治癒活性』」
魔物から距離を取りつつ、回復のスペルアーツを自身にかける。
キャサリンはそのまま駆けながらディアスの方へと視線を向けた。
「俺の剣、返してもらおうか」
ディアスは、真白ノ刃匣を携えて向かってくる甲冑の戦士を赤く光る瞳で睨んで。
燃え上がる瞳。
その背後から無数の剣が逆巻いた。
その剣は歪に形を変えると宙に舞う。
甲冑の戦士目掛けて疾るいくつもの剣。
『刀剣蟲』は縦横無尽に軌道を変えて戦士を取り囲んだ。
その刃が正面から。
左から。
右から。
背後から。
そして頭上から。
突いて、薙いで、振り下ろして、斬り上げて────
甲冑の戦士は兜の隙間から視線を素早く切って。
挙動が加速。
そしてその姿が、消えた。
次いで白い剣閃の残像と共にその姿を再び現す。
地を踏み締める音と共に。
甲冑の戦士は純白の大剣を振り抜いた姿で。
そして幾重にも重なった甲高い音と共に『刀剣蟲』が四方へと吹き飛んだ。
「ソードアーツ────」
弾いた剣の先から。
甲冑の戦士へと躍りかかるディアスの姿。
その手には歪な姿をした剣。
その剣の持つ魔力を斬撃へと変換して。
「『数多ある斬擊の1つでしかなくとも』」
放たれたソードアーツ。
「────スペルアーツ『速度強化』!」
そこにキャサリンのバフを受けて。
「『その刃、熾烈なる旋風の如く』!」
さらにディアスは剣の操作による加速を上乗せする。
甲冑の戦士は迫る刃を凝視した。
意識を集中させ、研ぎ澄まして。
ディアスの揺れる髪の1本1本を数えられるほどの。
コマ送りのようなその視界の中にあってなお、その斬撃は速度がある。
そして、威力がある。
さらにディアスの背後からは再び無数の剣が生み出されつつあって。
甲冑の戦士は、真白ノ刃匣でディアスのソードアーツをいなそうと。
それには精密な挙動を求められた。
完璧にいなして次の動きへと繋げられなければ、刹那の間に1つ、2つと数を増やすディアスの刀剣を捌き切れない。
だが甲冑の戦士の身体はキャサリンのスペルアーツによる減速のデバフが健在であり、アーシュの剣の操作も生きていて妨害を受けていた。
なのに、それでもなお────
ディアスは放ったソードアーツをいなされて。
すかさず無数の刀剣を連ね、甲冑の戦士へと放った。
さらに朽ちていく剣を捨て、次の『刀剣蟲』をその手に呼び寄せる。
甲冑の戦士は続けざまに剣を振るった。
無数の火花。
その閃光と共に残像が浮かぶ。
「『数多ある斬擊の1つでしかなくとも』……!」
おびただしい量の刃を操りながら、再び放たれるソードアーツ。
ディアスは剣の操作による加速を上乗せして。
だが甲冑の戦士は再び放たれたその斬撃もいなした。
ディアスが最初のソードアーツを放ってから一呼吸の間の攻防。
そして甲冑の戦士がその大剣を振り抜く。
その刃がディアスを捉えて。
肉を断たれ、自食の刃を砕かれたディアス。
その身体が後ろに吹き飛ばされる。
甲冑の戦士は息をつくと、真白ノ刃匣の切っ先をディアスに向けて構えた。
ピタリ、とその身体が静止して。
次いでその姿が消えたかと思うとディアスに肉薄。
ディアス目掛けてその刃を突き出す。




