6-14
「そう言われておとなしく渡すとでも? ライヒェ」
「シャシャシャ、思われへんな」
鏡の先で金色のコートの男──ライヒェが笑いながら答えた。
「せやから相応の準備はさせてもったわ。わいのコレクションの中から2等級までの魔結晶を解放して部下に持たせた。わいの自慢のコレクション、存分に楽しんでくれや」
礼服の男の両腕には複数の魔結晶が嵌め込まれた大きな腕甲。
それぞれのスロットに装着された魔結晶が妖しい光を放ち、そこから召喚された魔物がその背後でひしめいている。
ディアスはキールを警戒しつつ、次々と魔物に視線を移して。
そこにはドラゴン、スライム、ゴーレム、ミノタウロス、トロールと様々な魔物の姿。
それも全て上位種の個体ばかりだった。
既知のものから知らない種までいたが、ディアスは記憶と経験からそれらの強さをおおよそ推察する。
「ディアス兄ちゃん────」
アーシュはディアスに指示を仰ごうと。
だがアーシュがキールから視線を外したその一瞬に。
キールはすかさず動いた。
明滅する光を集束させる。
「アーシュ!」
ディアスの呼び掛けに、すかさず真白ノ刃匣を操作するアーシュ。
それと同時にキールは集束させた光を放った。
地を駆ける閃光がディアスやアーシュ、さらには礼服の男と甲冑の戦士、背後の魔物にも迫る。
「………私の邪魔立てをするなら、誰であろうと容赦はせん」
キールは礼服の男と甲冑の戦士を見て。
「そこの魔人堕ちと小僧ごと、まとめて屠ってくれる」
アーシュは真白ノ刃匣で自身とディアスと守った。
甲冑の戦士は、キールの放った光を無効化する純白の大剣を見て。
すかさず跳躍して迫る光を回避すると、宙に浮くその剣の柄を掴んだ。
「え」
咄嗟の事に驚くアーシュ。
そして礼服の男も華麗にキールの放った光を回避した。
明滅する光から結晶が展開される様を、落ち着いた眼差しで横目見る。
幾重にも折り重なった花弁のような結晶が大きな鏡を飲み込んでいた。
そこに映るライヒェの姿にノイズが走り始めて。
「……んや、わ……が観戦で……のは、ここまでや。ほな、回収……せたで」
途切れ途切れにライヒェの声が響くと、礼服の男は会釈して。
「御意」
礼服の男が短く答えると、鏡に映っていた映像が消えた。
次いで鏡が結晶ごと砕ける。
甲冑の戦士は真白ノ刃匣の柄の感触を確かめていた。
次いで刃の根本の方にあるもう一つの柄も掴む。
アーシュは真白ノ刃匣から甲冑の戦士を振りほどこうと素早く剣を振って。
だが戦士はアーシュの操作を力ずくで抑え込んだ。
純白の大剣を構えると、アーシュの操作では微動だにしなくなる。
「過程はよく分からないけど現状は最悪、ね」
キャサリンは視線を走らせて。
キール、サモンアーツを使う礼服の男、召喚された魔物の群れ、ディアスの剣を奪った甲冑の戦士を順に見た。
「出し惜しみしてる暇はなさそうね。計画に支障が出るけど、それは仕方ない」
キャサリンは杖を掲げる。
「スペルアーツ『魔象強化』、『速度弱化』!」
キャサリンはブーストをかけたスペルアーツをキールと礼服の男、甲冑の戦士、魔物の群れに付加。
「ディアスちゃん、アーシュガルドちゃん、今よ!」
「顕現しろ、俺の────」
「回れ、廻れ、舞われ────」
ディアスの瞳に燃え上がる赤い輝き。
アーシュの操作によって旋回を始める剣。
「『千剣魔宮』!」
「『その刃、嵐となりて』!」
幅広の刃がディアスの足元から地面を這うように伸びた。
その側面から無数の切っ先が突き出す。
さらにアーシュの操る剣も襲いかかって。
だがキールは付加されたスペルアーツを結晶化させて無効化。
薄氷のようになったそれがサラサラと崩れた。
キールは青白い結晶を纏った剣を構える。
甲冑の戦士はスペルアーツによる減速を受けて。
受けたはずなのに。
さらにはアーシュの操作が未だに生きている真白ノ刃匣を自在に振るった。
素早い剣閃が走り、迫り来るディアスの刃を次々と斬り裂く。
礼服の男は目に見えてその動きが遅くなっていた。
だがその顔はいたって冷静。
男は腕甲に嵌め込まれた魔結晶に魔力を流し込んだ。
腕甲がその魔力を増幅し、男は魔物を召喚する。
現れたのは銀色に輝く巨大なスライム。
スライムはディアスの『千剣魔宮』をその体で阻んだ。
滑らかに揺れていた身体が硬質化し、直下たつ刃が砕ける。
キールはアーシュの操る剣を弾くと共に閃光を放った。
弾かれた剣が結晶に飲まれて落下。
さらに甲冑の戦士は飛んできた剣を容易くいなして。
スライムは硬質化を解くとアーシュの剣を飲み込んだ。
次いで再び硬質化するとその剣を拘束する。
ディアスとアーシュの攻撃は完全に防がれた。
「スペルアーツ────」
キャサリンはさらにスペルアーツを放とうと。
だがキャサリンに魔物が襲いかかった。
ドラゴンがキャサリン目掛けて燃え盛る炎を吐き、ゴーレムが巨大な拳を振りかぶる。
そして甲冑の戦士は瞬く間にディアスに迫った。
キールは剣の切っ先を地面に突き立て、結晶のドームに魔力の供給を再開する。




