表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/397

6-13

 アムドゥスは額にある第3の瞳でエミリアを観察。

エミリアの今の状態を把握した。


 エミリアの胸に空いた小さな穴。

そこから自身の手で抜き取った魔結晶アニマをエミリアは砕いて。

散乱する魔結晶アニマは彼女のもの。


 アムドゥスは慌てて羽ばたき、エミリアのもとへ向かう。


「嬢ちゃん!」


 アムドゥスはエミリアの正面へと降り立った。


「いくらなんでも無茶苦茶だ!」


 エミリアは憤慨ふんがいするアムドゥスに視線を向けて。


「ごめんね、アムドゥス。あたしに何かあれば、契約してるアムドゥスも危ないのは分かってた」


「ケケケ、その通りだ。危うく俺様が俺様でいられなくなるところだったぜぇ?」


「本当にごめんなさい。でもこうするしか、思い付かなくて。前にディアスが魔結晶アニマを剣で無力化して力を取り戻してたから、あたしも魔結晶アニマを無力化すれば一時的にでも人に戻れるんじゃないかって」


「ケケ。人に戻ったところで、スペルアーツが使えるとは限らなかったろ。そもそも嬢ちゃんは習得してたのかぁ?」


 アムドゥスは再び形を変えて。

今度は自らの意思で形を失い、エミリアの胸の傷をその身体で埋めた。


欠損した箇所をアムドゥスが補おうと。

だが心臓の代わりをしても、エミリアの身体は徐々に塵となっていく。


「くそ」


 エミリアの胸から3つの瞳を覗かせて。

どこからともなくアムドゥスの苛立たしげな声が響いた。


「うん、人間だった頃に習得はしてなかったよ」


 エミリアは答えて。


「だから『活性治癒キュアー』が使えるかは賭けだった。でもスペルアーツはその意味と音節によって感染する情報の魔物だってディアスが言ってたから。…………けけけ、うまくいったよ」


 安堵の表情でクレトを見下ろすエミリア。


「嬢ちゃん、このあとどうするつもりだ」


 アムドゥスがいた。


「あたしはクレトが助かれば、ひとまずそれで良かったから…………」


 エミリアは色を失い、塵となって崩れていく左手を見る。


「この魔結晶アニマを新しくエミリーのものに、ってできたら良かったのだけど」


 キャサリンは、キールがクレトに手渡していた魔結晶アニマを手に取った。

その魔結晶アニマを見つめて。


「私も見た目からおおよその予想はできるけど。どうかしらアムドゥス。この魔結晶アニマのタイプは」


 アムドゥスはエミリアの心臓の代わりを続けながら、瞳に意識を集中。

虹彩こうさいに7色の光が走る。


「ケケ、ガーゴイル系の中規模魔宮だなぁ。難度はA。悪くはねぇもんだが、系統が一致しねぇ」


 アムドゥスが言うと、エミリアはクレトをそっと寝かせた。

崩れかけの手で青いハルバードを握る。


「キャサリン、バフをちょうだい」


 エミリアが言うとキャサリンは首を左右に振って。


「エミリー、あなたまさか戦うつもりなの? その身体でなんて」


「まだあいつは生きてる」


 エミリアの瞳に怒りの色が浮かぶ。


「あいつは倒さないといけない。あたしがあいつを生かしたからこんな事になってる。あたしが、やらなくちゃいけないの」


「エミリー」


 キャサリンは鋭い眼差しをエミリアに向けて。


「今のあなたに魔人堕ちの力はない。死にかけの、ただの女の子なのよ。私かバフをかけても、そのステータスはたかが知れてるわ。やめなさい。足手まといにしかならないわ」


「それでも、あたしは」


 エミリアはハルバードを持ち上げようと。

だが少女の膂力りょりょくでは持ち上がらない。

かろうじて柄の先だけが持ち上がった。

エミリアはそれも引きずってでも進もうとする。


「やめときな、嬢ちゃん」


 アムドゥスが言った。


「身体の崩壊が早まるぜぇ?」


「…………だって。全部あたしのせいなんだよ?! 村のみんなが何人も見せしめに殺されて、クレトも死ぬかもしれなかった!」


 エミリアの白い前髪の隙間から、涙を溜めた琥珀色の瞳が覗く。


 その時、地面が大きく揺れた。

エミリア達はよろめいて。

さらに続けざまに大きな揺れが襲うと、外から複数の悲鳴が聞こえる。


「何事なの!?」


 キャサリンはエミリアを見て。


「エミリーはアムドゥスと坊やと一緒にいて」


 キャサリンはそう言うと結晶のドームに開けられた穴へと走り出した。

その穴から飛び出す。


「────久しぶりやなぁ、ディアスはん」


 覚えのない男の声を聞いて、キャサリンは振り返った。


 その先にはキールとディアス、アーシュの他に礼服姿の男と、甲冑に身を包んだ戦士の姿。

その2人の間には巨大な鏡が浮かび、その背後には無数の魔物がうごめいている。


「なによこれ」


 キャサリンが思わず呟いた。


「お久しぶりです」


 口調は丁寧だが、ディアスは鏡に映る男を睨みながら言った。


「そない恐い顔せんといてや」


 鏡に映る金色のコートを羽織る男は、ニヤリとそのギザギザの歯をいて笑って。

いで鏡越しに視線を左右に走らせる。


「はーん、取り込み中んとこすまへんなぁ。しばらく顔も出さんと、心配になってもうて────てのはうーそ。単刀直入に言うわ」 


 男はその目を細めて。


「あんさんとの契約は終了(しゅーりょ)。その胸ん中に埋まっとる魔結晶アニマ、もらいに来たんや。わいの部下におとなしゅう渡してくれへんか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ