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6-6

 エミリアは右に、背を向けて歩いていく見張りの姿を見つけた。

だがクレトはどんどん先へと走っていって。

エミリアとアーシュは極力足音を忍ばせながら、そのあとを追う。


 素早く視線を切り、周囲を警戒するエミリアとアーシュ。


「アーくん……!」


 声を殺しながらエミリアが呼び掛けた。


 アーシュはすぐ、その場に半ば這うように姿勢を低くして。

エミリアはそばにあったくぼみに身を隠す。


 目深まぶかに被ったフードで顔を隠した見張りが長いマントをはためかせ、2人の方へと歩いてきて。


 アーシュは背中に背負った片刃の剣に手をかけた。


 エミリアはその手に青のハルバードを召喚する。


「…………」


 迫る足音。

そして風のに紛れて、震えるような息遣いが聞こえた。


 1歩、2歩。

先から足音が連なる。


 さらに1歩、2歩。


 じっと体を固くして通りすぎるのを待つアーシュ。

アーシュはいくらか背の高い草の中に身を潜めていたが、意識して目を向ければ草の合間からその姿は視認できた。


 息も止め、顔も伏せたまま。

アーシュは目だけを上に向けて、見張りのを動きを注視する。


────その時、ガサガサと葉の擦れる音。


 見張りは音のした方へと振り向いた。


その先にはクレトの姿。


 クレトは見張りの視線に気づくと顔を強張らせた。

慌てて走り出す。


 逃げ出すクレトを見て、見張りが走り出した。

周囲を巡回していた他の見張りもその2人に気付く。


 クレトはたちまち見張りに取り囲まれて。


「お兄ちゃん! お姉ちゃん!」


 クレトが叫んだ。


 その言葉に、見張りは周囲をきよろきょろと見回して。

見張り達はクレトをじりじりと追い詰めながら、数人がその輪から外れて周囲の探索に動く。


 エミリアは視線を素早く切り、遠くの大きな納屋の先に石畳の道を見つけて。


「アーくん、クレトを助けてあっちまで走るよ」


「……分かった!」


 エミリアの視線を追って納屋の方を睨むと、アーシュは剣を抜いた。

片刃の剣を輪刀りんとうへと変形させる。


 2人は一斉に駆け出した。


 エミリアはハルバードを振りかぶり、アーシュは輪刀りんとうを操作すると先へと飛ばす。


 さらに続け様に剣を抜くアーシュ。


 アーシュは剣を操り、クレトを取り囲む見張り達の方へと放った。


 突如、飛来した剣に見張り達は驚いて。


 数人の見張りがいち早くエミリアとアーシュに気付くと、マントの下から刃渡りの短い剣を抜いた。


 その間にもアーシュは剣を操作すると、クレトの周囲に刃を旋回させた。

見張り達を退ける。


 そして襲い掛かってくる見張り達。

彼らは剣を振りかぶりなら向かってきた。


 エミリアはフードの陰からその剣を睨んで。


「────遅いよ」


 エミリアは体をよじりながら跳躍。

見張りの持つ剣を弾いた。

その勢いを殺すことなく旋回し、四方へと跳びながら斧槍ふそうを振るう。


 甲高い音と共に、次々と宙に舞う剣。


 体勢を崩した見張り達の間をすり抜け、エミリアとアーシュはクレトのもとへ。


 エミリアはそのままクレトの体を持ち上げ、脇に抱えると走り出した。

アーシュも剣の操作を続けながらそのあとに続く。


 エミリアは納屋を回り込み、石畳の道へと出た。


「アーくん、クレトを」


 エミリアはアーシュの体を軽々とほうった。

アーシュが受け止めるが、そのまま勢いに負けて尻餅をつく。


「顕現して────」


 その間にもエミリアは瞳を赤々と燃やして。


「あたしの『在りし日の咆哮(シャルフリヒター)』」


 展開されるエミリアの魔宮。


 だがエミリアはすかさず魔宮を閉じた。

残ったのは穿うがたれた大きな穴。

エミリアはそこに渾身の力でハルバードを振るい、さらに空間を作って。

エミリアは手振りで来いと促す。


 アーシュはすかさずクレトの手を引いて、そこに飛び込んだ。


 エミリアもそこに降りるとハルバードを消した。

腕で体を支えると足を天に向けて。


「『在りし日の咆哮(シャルフリヒター)』!」


 展開される石畳の魔宮。

上下逆さまに展開されたそれをエミリアは蓋代わりにした。


 見張り達は納屋を回り込むと左右に視線を走らせて。

だが見えるのは石畳の道と同化した、裏返しのエミリアの魔宮だけ。


 複数の足音が魔宮の上を行き来する中、エミリアとアーシュ、クレトは声を殺してじっと待つ。


 徐々に息苦しくなる密閉空間の中で、エミリア達は見張りがいなくなるのをじっと耐え続けた。


「────あ」


 暗闇の中。

どれだけの時間が過ぎたかも分からない中でアーシュが声を漏らした。


「ディアス兄ちゃん達が動いた」


 操作を継続している剣の位置を感じ取るアーシュ。


「もう日が暮れたのかな」


 エミリアは自身の魔宮を見上げる。


「…………」


 クレトは無言のまま。

頭上を塞ぐ魔宮と、エミリアのフードの陰から漏れている赤い光とを交互に見ていた。

ポケットの中に手を入れ、その中身を転がす。

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