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「そういえば、君たちはどうしてここにいるの?」
「えーっと……」
アーシュが訊くと、クレトは目を泳がせた。
その様子にエミリアは怪訝な眼差しを向ける。
「しー、だよ。クレト」
小さな女の子が言った。
クレトは女の子を横目見るとアーシュに視線を戻して。
「ないしょ。男のやくそくなんだ!」
クレトはそう言うとポケットの中を探った。
中身は出さずに確かめて。
ジャラジャラと硬い物が擦れる音が聞こえる。
「それより、わるものをやっつけてくれるんでしょ」
クレトは部屋の出入口へと駆けて。
「来て! あんないする!」
そう言って部屋を出ると、バタバタと階段を下りた。
「待って! クレト」
エミリアが言ったがクレトの返事はない。
「はやくいったほうがいーよ」
「はやくはやく」
違和感のある平坦な声音で2人を急かす子供達。
「ケケ、なんだか怪しいぜぇ? 嬢ちゃん」
アムドゥスがエミリアの耳許で言った。
「分かってる。でも」
「放っておけない、かぁ?」
「うん」
エミリアが答えると、アムドゥスはフードの中で肩をすくめる。
「エミリア」
アーシュが声をかけた。
「…………アーくんはここで待機してて。アムドゥスはディアス達に状況を。あたしはクレトを追う」
「ダメだよ」
アーシュは首を左右に振る。
「クソガキが正しい。嬢ちゃん1人になるのは最悪の状況だ。ここは敵の罠の中なんだぜぇ?」
「でもどれも必要だよ。ここの子供達を放ってはおけないし、ディアス達に連絡もしないとならない。そしてクレトも、放っておけない」
「ガキ共がここに逃げ延びてたのはおかしいと思わねぇかぁ? あんだけ小さいガキ共が率先して難を逃れたとは考えにくいよなぁ、ケケケケケ」
「ごめん、アムドゥス。それでも、あたしは」
「嬢ちゃん、ガキ共に見てみな」
エミリアはアムドゥスに言われて子供達に視線を向けた。
「どうだぁ? やつれてるか?」
アムドゥスに訊かれて、エミリアはフードの陰で目を丸くする。
「事が始まったのは10日以上前だ。最初から隠れてたにしろ、途中から逃げ出したにしろ、そこのガキ共にそんな雰囲気があるかぁ?」
「けけけ、ないね」
エミリアが小さく笑いながら答えた。
「嬢ちゃん、ガキ共もグルだ。どう言いくるめられてるかは知らねぇがなぁ。家族の無事とかと引き換えか、はたまた嬢ちゃんを悪者に仕立てあげて協力させてんのか。なんにせよ、信用はできねぇ」
「エミリア。ひとまず状況を伝えて、それでディアス兄ちゃん達の考えを聞こうよ」
アーシュはそう言うと、部屋の出入口へと視線を向けて。
「クレトくんは、おれが追うよ」
アーシュは腰の短剣を抜いた。
次いで操作すると短剣を浮かせる。
「持ってって。どこまでできるか分からないけど、この剣の操作をおれは続ける。その切っ先で俺の方向を示すから、ディアス兄ちゃん達と合流したらそれを目印にして。おれもエミリア達と合流したいときはその短剣のある場所を目指すから」
「アーくんを1人で行かせられないよ。危険過ぎる」
「じゃあ、その剣を俺様によこしな」
アムドゥスがエミリアのフードから飛び出した。
その姿を見て子供達がそれぞれ、様々な表情を浮かべる。
「そこのガキ共は放っておけ。んで嬢ちゃんとクソガキの2人で行きな。俺様はこの剣を1度、ブラザーに届けて状況を伝えてくる。んで嬢ちゃんの位置を感じて合流。ブラザー達もその短剣がありゃ、こっちの位置が分かるから動きようがあるだろ」
「この子達を放っていくなんて」
「ケケケ、どうせグルなんだ。あのクレトってガキもどう動くか読めねえしな。あのキールって野郎に報告でもされたら厄介だ。そこのガキ共の御守り《おもり》の優先度は高くねぇ。あのガキを追うなら急ぎな」
「アムドゥス、お願い」
アーシュはアムドゥスに短剣を託した。
「ケケケ。あいよ、クソガキ」
アムドゥスは1度子供達を一瞥。
次いで廃屋を出るために、この部屋をあとにする。
「皆はここでちゃんと待ってるんだよ。約束できる? じゃないと俺達、わるものをやっつけに行けないんだ」
アーシュが子供達に言った。
子供達がこくこくとうなずく。
「行こう、エミリア」
エミリアとアーシュも部屋をあとにすると、階段を下りた。
クレトがどこに消えたのか、周囲を見回して探す。
「こっちだよ!」
クレトの声。
エミリアとアーシュは振り返った。
その先には体を曲げて物陰から顔を覗かせているクレトの姿。
エミリアとアーシュがクレトのもとへ行くと、その先には家の裏口があって。
こちらも板張りをされているようだが、ドアの下の所が外れていて、外に出られるようだった。
クレトはエミリアとアーシュが追ってきてるのを確認するとすかさず扉の下の穴を潜って外へ。
「待って、クレト」
エミリアの制止の声はクレトには届いていない。
エミリアとアーシュはクレトを追って廃屋を出た。
見張りがいないか周囲に視線を向ける。




