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6-2

 それは新たに立てられた支柱に縛り付けられた村人達。

素性を晒し、その身体を陽光と雨風にさらして。

彼らは四肢を欠損していた。

そしてあらわになったその胸には、罪人を意味する刻印が痛々しく刻まれている。


 エミリアは思わず飛び出そうと。


 だがディアスはエミリアの手をとって制止した。

振り返るエミリアに、よく見ろと目で示す。


 エミリアが再び村の方へと目を向けると、フードとマントで身体を隠した人影があった。

そのマントには大きくギルドの紋様が描かれている。


 その数は見える範囲で3人ほど。


 その素振そぶりから、周囲を警戒しながら巡回しているのが分かる。


「キールの手下か」


 ディアスが言った。


 ディアス達が様子をうかがっていると、見回りは思った以上に多い事が分かった。

一定の間隔で次から次へと姿を現しては物陰に消えていく。


「さすがに正面突破はしないわよねぇ?」


 キャサリンがくと、ディアスはうなずいて。


「エミリア。極力、人目につかない道はあるか?」


「周りは平原だし、村は広いけど建物はまばらでほとんどが畑。隠れられそうな物陰はほとんどないよ」


「……エミリア、あの川は?」


 アーシュが指を指した先には、村の先から平原を横切るように小川おがわが流れていた。


「あの川の深さはどう?」


 ディアスは小川おがわに目を凝らす。


「結構浅いよ。左右はほとんど畑で、道から離れてるのがほとんどだけど。でも今はまだ作物が育ってないから遠くからでも見えちゃう」


「でも、おれとエミリアなら背もそんな高くないし、大丈夫じゃないかな」


 アーシュが言った。


 キャサリンはアーシュを見ると、ディアスに視線を移して。


「罠の中に2人だけで行かせるのはさすがに危険過ぎないかしら。道から外れた場所に見張りを待機させてる可能性もあるわよ」


 ディアスは少し思案すると、フードの中にいるアムドゥスを見る。


「アムドゥス」


「あいよ、ブラザー」


 ディアスが呼び掛けると、アムドゥスはフードの中から出た。

バサバサと翼を羽ばたかせ、空高く舞い上がる。


「アムドゥス、気を付けてね」


 遠ざかる背中を見送りながら、エミリアが言った。


 アムドゥスは高くまで上昇すると、村を上から偵察して。


「ケケケケ、やっぱ見回りの数が多い」


 アムドゥスが呟いた。


 上空から見下ろすと、皆一様に同じマントとフードを身にまとう彼らの動きがよく見える。


 そしてその流れを目で追っていくと、村の中心にある広場に集められた村人達の姿も見つけた。


 力なくうなだれる人々。

彼らは鎖につながれて。

そしてその視線の先には拷問を受ける1人の村人の姿がある。


 支柱に縛られた若い女性の前には、巡回している者達と同じフードとマントをまとう人影がいた。

その人影が女におもむろに手を伸ばす。


 そしてその手が、女の腕に触れると小さく閃光が走った。


 すでに肘から先を失っていた女性。

さらに触れられた箇所からその肌が青白い結晶に飲まれて。

結晶がその肩口まで拡がると、いで先端からバラバラと崩れ落ちる。


「ケケケ。どっかで見たような能力だなぁ」


 アムドゥスは目を細めながら言った。


 いでアムドゥスは再び、鎖に繋がれている村人達に視線を向ける。


 短髪の若い男。

髭をたくわえた老人。

息も絶え絶えな老婆。

目を固くつむり、耳を塞いでうずくまる女。

頭を丸めた、がたいのいい男。

細身で、ボサボサ髪の男。

拷問を受けている女性を凝視している初老の女。


 他にも青年から老人まで幅広い年代の村人がいた。


「…………あん?」


 だが彼らを見てアムドゥスは首をかしげた。

村の周囲の支柱に縛られた村人にも視線を向ける。


「いねぇな」


 アムドゥスは呟くと、ぐるりと旋回してディアス達のもとへ。


 アムドゥスはディアスの肩に降りた。


「状況は?」


 ディアスがいた。


「ケケ。警戒が厳しいが、上から見た感じ見張りは道を大きく外れた場所にはいねぇな。嬢ちゃんとクソガキに限定されちまうが川からの進行、いけそうだ」


 アムドゥスが答えると静かにうなずく、エミリアとアーシュ。


「そんで村の中心に村人が集められて、その前で今まさにお楽しみの真っ只中だぜぇ。ケケケケケ」


「やーねぇ。とことん晒されるわけね」


 キャサリンは身震いした。

その顔には嫌悪が広がる。


「アムドゥスは2人とそのまま行ってくれ」


 ディアスは肩に乗るアムドゥスを見て言った。


「ケケケ、いいのかぁ? 俺様の距離制限を使って、潜り込んだ嬢ちゃんのところに強制転移して強襲する手もあるんだぜぇ?」


「距離制限に…………強制転移?」


 キャサリンが呟いた。

その顔が険しいものとなる。


「…………説明はいいわ。だいたいどういうものか察したから。でもそう、離れられる距離に限度が……あるのね」


 キャサリンは頬に手を添えて。


「あと、アムドゥスはエミリーの魔宮の魔物じゃないって聞いたと思ったけど。その距離制限はエミリーを中心にするの?」


「うん。元々アムドゥスはディアスの魔結晶アニマと契約してて、ディアスが魔人堕ちさせられた時についていく事になったみたいなんだけど。でも前に契約をあたしに上書きさせたの。あたしならアムドゥスに魔力を供給してその力も使えるようにできるし」


「聞いてない話が多いわね」


 キャサリンは目を泳がせながら言った。

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