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6-1

 その瞳に宿るのは、激しい怒り。

ぎゅっと唇を噛み、赤く燃える瞳はそれを凝視して。


「あたしの、せいだ……!」


 怒りに声を震わせながらエミリアが呟いた。


「それは違う、エミリア」


 ディアスが否定したが、エミリアは首を左右に振る。


「こんなことになるなら、あのとき殺しておくべきだったんだ…………」


 エミリアはその場にうずくまった。


 アーシュは困った様子でそれとエミリアとを交互に見るが、事情が分からないので何も言えない。


「あの男、性根が完全に腐りきってるようねぇ」


 キャサリンが言った。


 ディアス達は今、とある街のギルド支部の中にある掲示板の前に立っていた。

そこに貼り出された書面に周囲の冒険者達も視線を注いでいる。


「ひでぇやつらもいたもんだ」


 冒険者の1人が呟いた。


「村ぐるみで魔人をかくまうばかりか、魔人堕ちをたくさん生み出してたなんてな」


「今回の一件は常軌じょつきいっしてる」


「だが公開処刑だって言って毎日、日替わりでこんなもん送ってこられてもなぁ」


 冒険者がパンパンと掲示板の貼り紙をはたいて。


「名前、年齢、職業…………毎日1人処刑してはその情報を貼り出す。見せしめにしたってやりすぎだぜ」


「もう何人処刑されてるんだ?」


「こっちに届くのが3日遅れくらいだから、今日で6人になるんじゃないか」


「…………俺は当然のむくいだと思うよ。故意に魔人を増やすなんてあってはならないことだ。どうせこいつらは罪人なんだし。むしろこれくらいやってくれた方がスカッとするよ」


「にしてもそんだけ魔人がうじゃうじゃいる村を簡単に制圧するなんて。さすがはクロスブライト家だ」


 貼り紙を眺めながら言葉を交わす冒険者達。


「…………こんなの、でっちあげなのに。村の皆は、いい人ばかりなのに」


 エミリアが拳を強く握った。

いでディアスを見上げる。


「……ああ、行こう」


 エミリアが言葉を発するよりも先に、ディアスが答えた。


 ディアス達はそこを離れた。

ギルド支部を出る。


「んー、言うまでもないことだと思うけど、あえて言うわよ」


 キャサリンはディアスを。

いでエミリアに視線を移して言った。


「これ、間違いなく罠よ。狙いはエミリー」


「うん。分かってるよ」


 エミリアが答えた。


「ディアスちゃんは止めるべきじゃないの?」


「いいや。むしろ先を急ぐべきだ」


「この間今後の予定を決めたばかりじゃない。まだ装備も整ってないのに。アーシュガルドちゃんからも言ってあげてよぉ」


「ディアスにいちゃんとエミリアが行くって言うなら、おれはついていくだけだよ」


「罠なのよ? 危ないのよ?」


 キャサリンは歩きながら屈むと、小声で。


「私達は、肉体が欠損しても生きていたら再構築できる魔人とは違う」


 キャサリンは『魔人』という言葉を口にすると周囲に視線を走らせて。

いで上体を起こす。


「……リスクが違い過ぎるのよ? 目的を優先すべきだと人間の立場から主張するわ」


「でも、その村の人達は悪くないんでしょ? だったら助けないと」


「んもうっ。ここはこのパーティーの賢い御意見番の意見を聞きましょうか」


 キャサリンはディアスのフードを見た。


 そのフードの中でアムドゥスはケケケと笑って。


「俺様も行くのは反対だぜぇ?」


「だろうな」


 ディアスはフードの中のアムドゥスを横目見る。


「ブラザーには時間がねぇ。寄り道なんてしてる猶予はねぇんだ。お前さんの力がなきゃ黒骨の魔宮の踏破とうははできねぇ。そうなるとネバロのところに俺様も帰れなくなる。それは御免だ」


「だろうな」


「だが、言ったところでブラザーが聞かねぇのも分かってるぜぇ。ケケケケケ」


「……だろうな」


 ディアスはそう言うと、微かに口角を吊り上げる。


「御意見番からのありがたい御言葉は?」


 キャサリンがいた。


「鳥頭に難しい事は分かんないってさ」


「ヤダ。なにそれポンコツぅ」


「非常時の鶏肉だ。それ以上を期待す────ったい」


 話している途中でディアスは唐突によろめいた。

眉をひそめながらため息をついて。

いで、こめかみを数回さする。

 

「危険なのは本当だから、キャシーはあたし達に付き合わなくてもいいんだよ?」


 エミリアの言葉にキャサリンは首を左右に振って。


「やーね。このパーティーの一員としてお供するって、この間言ったじゃない」


「無理はしない主義なんでしょ。今回のは明らかに無理になると思うけど」


「なーに? この間の事、まだ怒ってるのぉ?」


 キャサリンが頬に手を添えながらいた。


 エミリアはキャサリンの言葉に首を左右に振って。


「ううん。あの時、無理をしないでって言ったのはあたしだし、結果的にアーくんを助けてくれたのもキャシーだもん。結局魔力欠乏になっちゃうまで頑張ってもらったし。嫌味な言い方に聞こえたなら、ごめんなさい」


「いいのよー。エミリーが純粋に心配してくれただけなのに、私もいらない事を言ったわ。ごめんなさいねぇ」


「キャシーは早くギルド本部に戻りたいって言ってたのに、ごめんね」


「いいのいいの。私の師匠がそっちの研究をしてて詳しいから、ディアスちゃんとエミリーの治療に何かしら力になれればと思っただけだから」


 キャサリンはディアスと、手袋をはめたエミリアの右手を見る。


「永久魔宮の研究をしてる人なんだっけ」


 アーシュがいた。


「魔人全般について研究してるけど、一番は永久魔宮ね。永久魔宮化した魔人をその魔宮から救い出す方法を調べてるのよ」


「永久魔宮化から人を助け出す方法か。それが見つかったら────」


 アーシュはとある方向の空を見て。


「お母さんも、もしかしたらお父さんも助けられるのかな」


 小さく呟く。







 ディアス達が村に向かってから数日が経ち、ディアスたちは近郊の町で借りていた馬車を降りた。

土地勘のあるエミリアの案内で街道を避け、獣道を通って徒歩で村に向かう。


「今のところ待ち伏せの気配はないわね」


 キャサリンが言った。


「今のところは、な」


 ディアスはエミリアに続いて木々の間を進む。


「念のため俺とエミリアは町には入らないで待機してたが、それ以前の道中から見張りがいたかもしれない」


「……ディアス、もうそろ抜けるよ」


 エミリアが言った。


 ディアス達は村のある平原にさしかかって。

だが村の周囲に立ち並ぶそれを見て言葉を失った。


 その数は、10以上。

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