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◼️-4

「ふむ、ちょうどいいじゃないか」


 ヨアヒムが言った。


「私の依頼する討伐対象の1人がその魔人堕ちした少女と行動を共にしている。いいになるかもしれない」


「行動を、共にしている?」


「ああ。キールも見たはずだ。ソードアーツを操る魔人の男。その男を討伐し、連れている魔物を捕縛してもらいたい」


「……あいつか」


 キールは眉根を寄せた。


「なるほど。ではそれが終わり次第、次の魔人討伐に移りましょう」


「ありがたいが、もう1つの方は準備がかかる。なにせ相手が相手だからな。今はそちらの討伐の準備を進めるため、『議会』をあざむいて『誰も知らぬ冒険者( クリフトフ )』を総動員している」


「あの『議会』をあざむく? それほどの相手なのですか?」


 キールの問いにヨアヒムはうなずいた。


「6人の魔王のSSS(トリプルエス)ぐSS難度判定の魔人だ。ゲーセリスィの力を持ってしても一筋縄ではいくまい」


 いでヨアヒムは火筒ほづつを腰に下げて。


「だが必ず障害となる相手だ。すでに『議会』の中にもやつの息のかかった者が紛れ込んでいる。ゆえに『議会』の力は頼れない。勇者をぶつける算段もしているが、私とキール、そして私の友と『誰も知らぬ冒険者( クリフトフ )』による討伐になるものとあらかじめ覚悟をしておいてくれ。それと────」


 ヨアヒムはキールのまとう鎧を見る。


「ゲーセリスィの力。あまり衆目にはさらして欲しくはない。ゲーセリスィと『議会』の繋がりは知られてはならないのだ」


「かしこまりました、ヨアヒム様」


 キールは答えると身にまとっていた結晶の鎧を解いた。

青白い結晶が薄く剥がれ落ちて。

失った足の代わりとなる結晶の足を残して崩れ去る。


 ヨアヒムの連れていた『誰も知らぬ冒険者( クリフトフ )』が周囲に散った結晶の欠片に手を向けた。

青白い結晶がその手に吸い込まれていく。


 瞬く間に辺りから結晶が消えた。

残されたのは所々穴の空いた床板とそこに走る焼け焦げた跡、そして首から上のない使用人の亡骸だけ。


 ヨアヒムは取り残しがないのを確認するとうなずいた。


「それでは私はこれで失礼するよ」


「わざわざご足労いただいたのに、なんのおもてなしもできず」


 キールが頭を下げる。


「もてなしはあったろう? 噂に名高いクロスブライトの『地を駆ける陽光(グロウ・ソード)』をこの目で拝めたのだから、な」


 ヨアヒムの言葉にキールはさらに深く頭を下げて。


「ヨアヒム様に対する無礼、深く、深くお詫び申し上げます」


 ヨアヒムはキールを見下ろすと意地の悪い笑みを浮かべた。


「かまわん。私は寛容な人間だ。お前の剣など見せ物程度にしか思ってはいない。処罰も報復も不要だ」


 そう言ってキールを嘲笑あざわらう。


 いでコツコツと靴音を響かせて。

連れてきた護衛の2人と共にヨアヒムは帰っていった。


 その後ろ姿が見えなくなるまでキールは頭を下げて。

時折その背を覗き見て、早く消え失せろと願う。


 しばらくするとキールは顔を上げた。

同時に舌打ちを漏らす。


「………若造風情が」


 そう言い捨てて。


 だがいでキールは高笑いを響かせた。


「まぁいい。まぁ、いいのだ。そんなことより今は魔人の討伐と魔物の捕縛。そしてなによりあの小娘への、報復だ」







 そこは深い深い地の底。

大地を覆う魔宮のはるか下に拡がる広大な空間を1人、歩く。


 巨大な大剣をぶんぶんと振り回して。

その腰まである銀髪と黒のワンピースの裾が揺れた。

裾から覗く滑らかなももが、剣をいで踏ん張る度にぐっと締まる。


 剣の黒い切っ先がなぞると、建ち並ぶ四角い塔が切断。

切断面の上を、高くそびえる塔が滑って。

いで次々と轟音を響かせて倒れていく。


 規則正しく並んだ塔といくつもの柱に挟まれた道を進んでいった。


「ふんふんふーん」


 鼻歌混じりに、あてもなくを進める。


「まだかな、まだかな」


 楽しそうな声で言った。


「早く、早く」


 満面の笑みを浮かべている。


 だが、唐突に歩みを止めて。


「あはっ、見つけちゃった」


 先程とは違った表情かおわらった。

自身の身の丈の数倍はある長大な剣を構える。


 その視線の先には、巨大な『せいめいたい』が鎮座していた。


「次は負けないし、逃がさない」


 赤く光る人懐っこい瞳を爛々(らんらん)と輝かせて言った。

片腕とは思えないほど軽々と、大剣を振りかぶって。


「ソードアーツ────」


 その剣に魔力を供給し、その力を解き放つ。

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