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5-34

「俺達のせいでお前は死ぬんだぞ」


「うん。でも……仕方ない。元から、1度は捨てた……命。必要としてくれる……人がいて、そのために生きてきた。でも、死のうと思ったあの日にきっと死んでたんだ。家族と過ごす静かな……日々はとても穏やかで、楽しくもあったど。でも楽しい事と生きる事、死ぬ事は……別なんだ」


「ケケケ、要は死にたかったんだなぁ? なら怨む事もねぇか」


「どう……だろうね。ただあの日から今まで……生きてきたこの時間は、オマケのようなものだった。いつ死んでもいいと、思っていたのは事実だ」


 魔人の男がそう言うと、その体にすがるその人は顔を歪ませた。


「ごめんね」


 魔人の男はその人に向かって言うと、その手に握る剣の柄をディアスに突き出す。


「どうせ死ぬ。あと……少しでこの胸の魔結晶しんぞうは砕けて死ぬんだ。なら、あとは……生きる人に何か残したい」


「…………」


 ディアスは警戒しながらも構えていた剣を置いた。

男の差し出す剣を手に取る。


「ありがとう」


 魔人の男が言った。


 魔宮の床に入った亀裂がさらに深くなり、ついには床が次々と抜け落ちていく。


 穴の底を覗くと、その先には深い闇だけがあった。


「底が見えない。この魔宮は落とし穴の底じゃなく、途中にあったのか」


 ディアスが言うと魔人の男はうなずいて。


「そう。かかったら……助からない深い深い、落とし穴。地層の裂け目……と魔宮のトラップとが、たまたま重なったもの。そこに落ちるはずだった人達を助けて…………でも、この高さだからね。どうしても落下で身体はぐちゃぐちゃになる。それでも……生きられるよう身体を、弄るけど」


「ディアス!」


 エミリアが叫んだ。


 ディアスが振り返ると、エミリア、アーシュ、キャサリンの近くにまで崩落が拡がっていた。


 エミリアはハルバードに寄りかかりながらなんとか立っているが、アーシュは意識を失ったまま、キャサリンも膝をつき、杖で体を支えている。


「あっち……だ」


 魔人の男が指を指して。


「あの、先が洞窟と……繋がってる」


 魔人の男はいでエミリアを見た。


「母さん、食べ……て。母さんが力……を取り戻さないと助からない。崩落に、巻き込まれる」


 その時、魔人の男は自身の胸の中の魔結晶アニマが砕ける音を聞いた。


「時間切れ……だね」


 そう呟くと魔人の男の身体が塵となって崩れていく。


 同時に魔宮の崩落がさらに早まった。


 ディアスは男から受け取った剣を腰に下げて。

刀剣を連ねると、その刃で真白ノ刃匣(マシロノハゴウ)を飲み込んで収納。

すかさずエミリア達のもとに駆け寄った。


 『刀剣蟲ラーミナ』に他の装備などの回収をさせながら、アーシュの身体を抱き起こす。


「ディアスちゃん! 私も、私も!」


 キャサリンが言った。

声音は少し冗談めかしていたが、その顔色や姿から満身創痍まんしんそういなのが分かる。


 エミリアは頸椎けいついを折られて命を落とした人々を見た。

その顔から表情が消えると、魔力の補充を始める。


 エミリアは急いで魔力の補充を進めて。

最後にそれを飲み込むと口許くちもとをぬぐった。

最後に手を合わせるとキャサリンのもとに駆け寄る。


 エミリアはキャサリンを見て。


「…………」


 いでキャサリンに腕を回し、その体を持ち上げた。


「……けけ、ディアスじゃなくてごめんね」


 目線は合わせずに言うエミリア。


「……いいのよ。ありがとう、お願いするわ」


「ケケケ、急ぎなぁ!」


 アムドゥスが言った。


 ディアスは残された人々を肩越しに振り返った。


「諦めな、ブラザー。そもそも連れてったところで居場所なんかねぇだろうよ」


「……それでも」


「諦めな」


アムドゥスはディアスの顔を覗き込んで続ける。


「お前さんの青臭い正義感だけじゃ何もできやしねぇよ。今は生き延びるのが先決だぜぇ?」


「ディアス」


 エミリアはキャサリンに肩を貸しながらディアスのもとへ。


 そしてエミリアは首を左右に振った。


「ディアスちゃん、彼らはもう死んでるのよ」


 キャサリンが言った。


「生体活動の有無じゃなく、ね。誰があんな姿になった人を受け入れてくれるかしら。ほとんどが受け入れられやしないわ。戻っても、彼らにも彼らの帰りを待つ人達にも辛いものになるわよ」


「…………だが」


 ディアスは人々を見つめて。

いで歯軋りをすると顔を背けた。

その目が見ているのは魔人の男が指した方向。


 ディアス達は崩壊する魔宮を駆け抜ける。


 すでに視界は光源を失って闇に包まれていた。

刀剣蟲ラーミナ』が上から降ってくる瓦礫を斬り払って。

またその身体を床に並べディアス達の足場をになっている。


 ディアス達を魔宮の端にたどり着いた。

側面に空いた穴に飛び込む。


 その背後で轟くような音が響き渡り、魔宮が完全に消え去った。

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