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5-30

「させるな!」


 ディアスの声を受け、『刀剣蟲ラーミナ』は赤い8つの目を一斉に向けた。

キャサリン達へと襲いかかる魔物を捉えると軌道を変えて。

翼を広げるとはねを羽ばたかせて加速する。


 無数の斬擊が波のように押し寄せ、骸骨の魔物を飲み込んだ。

その実体化した身体を斬り裂きながら、キャサリン達から遠ざけるように押し流す。


 いでその銀色の水面みなもに沈んだ魔物が見たのは巨大な剣閃。


 ディアスは『刀剣蟲ラーミナ』を連ねて長大な剣にすると、その剣を振るった。

実体化していた魔物の胴を両断する。


 同時にまた剣の魔物が宙を舞い、敵に向かって幾度となく刃を振るった。


 すぐさま骸骨の魔物は実体化を解除。

その身体の輪郭が不確かなものとなって。


 だが『刀剣蟲ラーミナ』は四方八方に飛び交い、魔物の身体を散らすように斬り裂いていく。


 その間にディアスがキャサリン達のもとに駆け付けた。

魔人の男とキャサリン達の間に立ち、魔人の男を睨む。


「……凄い、パンチだった。他の……みんなが受けてたら、死んでたかも」


 魔人の男は体を起こした。

その顔は大きく歪に歪み、片目が大きく腫れ上がっている。


「あんたの顔が無くなるまでの最初の1発だったもの。殺す気で殴るのは当然よ」


 キャサリンが言った。


 魔人の男の周囲に浮かぶ骸骨の魔物と亡霊の魔物。

それらが受けた傷が陽炎かげろうのように揺らめいた。

だがいよいよ『補完』によって補えなくなってきた傷が増え、その身体は欠損が目立ち始める。


 魔人の男が怪我を負い、彼の操る魔物がダメージの蓄積を見せて。

魔人の男が家族と呼ぶ人々はその姿を見つめていた。

そのうちの1人が床を這い、魔人の男に近寄る。


 他の人々と異なり、その1人は魔人の男を心配しているように見えた。

必死に床を進むと魔人の男の体にすり寄る。


「やぁ、────」


 魔人の男はその人を名前で呼んで。


「ごめん……ね。負けるかも、知れないや」


 そう言うとすり寄ってきた人の背中を撫でる。


「君も、家族……も、守れないかも知れない」


 魔人の男は最後にポンポンと頭に手をやると、ふらふらと立ち上がった。

その周囲に魔物が集結すると、握っていた剣の切っ先をディアスに向ける。


「それ……でも、頑張るよ。みんなを……死なせは、しない」


「死なせはしない?」


 ディアスが呟いた。


「すでに、家族の……みんなには、最も共存に適して……ると思う形に、姿を変えさせている。この魔宮の外では……きっと、生きられない」


「まさか魔宮の力で生きてるのか」


「ケケケ、そいつは違うぜぇ」


 アムドゥスが言った。


「あの身体ですもの。元の生活には戻れないってことね」


 キャサリンが続けて言った。


「ケケ。観測の結果、あいつらはどんな姿になろうと人間だ。一部循環器が大きく異なってるがなぁ」


「でしょうね」


 キャサリンは身体をいじられた冒険者達のなれの果てへと視線を向けて。


「魔人は人間の血肉を食べることで魔力を取り込む。それ以外は魔力にならない。だからさっき血を吸う代わりに面倒を見てるっていう口振りから、彼らの血が人間のもののままだと分かるわ」


 いで周囲にいる人達を見た。


「もちろん、家族になれなくてお食事になってる冒険者がたくさんいるなら話はまた変わってきちゃうでしょうけど」


 キャサリンはそう言うと魔人の男が家族と呼ぶ人達に次々に視線を移し、数を数えた。

いで『刀剣蟲ラーミナ』の1つを手に取って。


「だから、こうさせてもらうわね」


その刃をなんとか振り上げると、周囲にとどまっていた魔人の男の言う『家族』を斬りつける。


 斬られた元冒険者は真っ赤な鮮血を吹き出した。

キャサリンは数回、剣を振るって。

次々と鮮やかな赤が床一面に広がる。


「キャシー! 何してるの?!」


 真っ先にエミリアが声を上げた。


「キャサリン、何をしている」


 いでディアスは言いながら手を伸ばすと『刀剣蟲(ラーミナ)』を握るキャサリンの腕を掴んだ。


 キャサリンはディアスやエミリアには目も向けず、広がった血溜まりを見て。


「……ねぇ、この中にアーシュガルドちゃんと適正のある血液はあるかしら」


 キャサリンがアムドゥスにいた。


「ケケケ、左奥のやつが適合するな」


 アムドゥスが答える。


「なんの話だ」


「アーシュガルドちゃんを助けるための話よ」


 ディアスにキャサリンが言った。


「どうせ彼らはもう帰る場所なんてないもの。ならせめて有効活用しないと」

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