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5-25

「でも、やるしかない。全部を同時に倒すよりは可能性があるもん」


 エミリアはアーシュを横目見て。


「アーくん、ハルバードを!」


 いで駆け出すと共に手を伸ばした。


「…………」


 魔人の男は困ったようにエミリアを見る。


「困った……母さんだ。みんな、離れないで」


 魔人の男の意思に応え、エミリアの行く手を阻むように骸骨の魔物達が立ち塞がった。

無数の魔物の姿が魔人の男と人々を覆い隠す。


 アーシュはエミリアのハルバードを操作し、その得物をエミリアへと渡した。

エミリアはハルバードの柄を掴むと、それを大きく振りかぶりながら。


「顕現して────」


 エミリアは魔宮を展開しようと。

だがそれを察知し、骸骨の魔物はエミリアへと躍りかかった。

エミリアに向けて振り下ろされる赤い鎌。

エミリアはハルバードで受け止めようとするが、その攻撃は彼女の斧槍ふそうをすり抜ける。


 そしてすり抜けたと同時にそれは実体を持った。

不鮮明でおぼろげだった輪郭が鮮明に浮かび上がり、鋭い切っ先かギラリと光る。


「『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』!」


 アーシュの投げ放った短剣が加速。

その刃は大きく弧を描き、鎌の側面を捉えるとその軌道をずらして。


 エミリアは体をよじりながら振り下ろされた鎌をかした。

すれ違い様にハルバードを振り抜く。


 振り切った斧槍ふそうの刃が魔物の後頭部を砕いた。

すぐさま魔人の男のいる方へと視線を戻して。

その瞳の赤の輝きが燃え上がる。


「あたしの『在りし日の咆哮(シャルフリヒター)』!」


 一瞬でエミリアの魔宮が魔人の男の魔宮を塗り替えた。

エミリアを中心に床の景色が剥がれ落ち、その下から石畳が現れて。

いで黒い燭台しょくだいとそこに灯された紫の炎が浮かび上がる。


 魔宮の展開と同時にエミリアは力を増して。

強く床を蹴り、魔物の身体をすり抜けながら魔人の男に迫った。


 いつでも実体化した鎌が襲ってきてもいいように警戒は怠らない。


「────!」


 だがエミリアが数体目の魔物をすり抜けている最中さなか

エミリアと身体を重ねたまま、魔物は突如として実体化した。

その脊柱せきちゅうあばらがエミリアの胸と腹を貫く。


「母さんが……魔物の身体を通り抜けて、いる時。魔物もまた母さんの中に、その身体が……ある。無防備なのは。不利なのは母さんだ」


 魔人の男はため息を漏らしながら首を左右に振って。


「痛い、だろう。……ごめんね。でも暴れる……母さんが悪いよ。さぁ、傷の治療を。ついでに身体も弄ろう」


 エミリアを取り囲む骸骨の魔物が次々と実体を持った。

黒いもやの中から単眼の顔を覗かせ、脊柱の先にある鈎爪かぎづめのように並ぶ鎌を構える。


 エミリアは周囲に視線を走らせた。

その影が形を変えながら瞬く間に膨らむ。


「エミリア!」


 アーシュは剣全てを投げ放った。


「回れ、廻れ、舞われ……『その刃、(ソード・)嵐となりて(ストーム)』!」


 渦を描く刃。


 だがそれらを前に、魔物が身にまとう黒い靄が色濃くなった。

その身体がアーシュの操る剣をすり抜けて。

いでまた実体化すると鎌を振るって剣を叩き落とす。


 その時、赤い軌跡が一筋。

その目に灯る赤い光をたなびかせながら、ディアスが疾走。

その瞳の輝きが強まって。


「顕現しろ、俺の『千剣魔宮インフェルノ・スパーダ』!」


 ディアスの背後から無数の刃が現れた。

次々と現れた刃の側面から別な刃が突き出し、枝葉のように拡がる。


 それはエミリアの周囲にいる魔物を、たがわぬ位置で斬り裂いた。

斬り裂いた頃にはまた実体のない身体へと変わっていた魔物。

その身体の断面は煙のように揺らめいている。


 ディアスはさらに刃を振るい、魔物の身体を霧散させようと。

だが、ディアスの真下から赤い閃きが交差した。

魔宮の床の中に潜んでいた魔物が実体化と同時に鎌を振るい、ディアスの展開した剣を断ち斬る。


 ディアスとの接触を断たれ、エミリアの周囲に拡がっていた刃はちりと消えた。

骸骨の魔物はすぐにまた断たれた身体を繋ぎ、何事もなかったかのように実体化する。


「直接……触れてなければ現界できない剣。不便な能力だね」


 魔人の男は居並ぶ魔物達の隙間からディアスの能力を観察しながら言った。

髭を撫でながらその姿を見つめる。


 魔人の男の視線とは異なり、エミリアの方を凝視するアーシュ。

危機の前に晒された仲間の姿を。

だがそれよりもその影に注視していた。

魔物のそれへと変わった影。

だがそれは影のまま、実体化することはない。


「エミリアのボスが現れない……?」


 アーシュは不安げな眼差しをエミリアの方へと向け続ける。


 エミリアは彼女の身体を貫いて実体化した魔物の姿を睨んでいた。

その目に灯る光が素早くまたたき、片目からは血の涙が流れる。


 その真っ赤な血が影に滴り落ちると、その影は──血の涙を流しながら眼を固くつむっていた魔物はその眼を開いた。

その影が質量を持って現れる。

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