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1-12

 ダンジョンが展開されていた跡にはぽっかりと大穴が空いていた。

冒険者達は穴の底で周囲を見回し、次いで上を見上げて。

頭上に広がる星空の静けさが戦いの終わりを実感させる。


「…………終わった、のか?」


「やった! 倒したぞ!」


「助かった……!」


「早く手当てを!」


「負傷者はこっちに運べ!」


 冒険者達はあわただしく動き始めた。

負傷者の救護と共に残留魔宮生成物ざんりゅうまきゅうせいせいぶつの探索を始める。


 ディアスは2人の魔人の亡骸が白く結晶化したのを確認すると、その胸に手を伸ばした。

ディアスが触れたところから砂のように崩れ、中から『魔結晶(アニマ)』が現れる。


 ディアスは『魔結晶(アニマ)』を白い砂の中から拾い上げると、それをふところにしまった。


「────待て待て待て! 落ち着くんだ!!」


 突如とつじょとして響いた必死な男の声。

ディアスが振り向いた先には体を引きずりながら後ずさるキールと、彼ににじり寄るエミリアの姿があった。


「ケケケ! ありゃ殺されたな!」


 アムドゥスがたのしげに言いながらディアスの肩に降りてきた。


 周囲の冒険者も2人に視線を向ける。


「貴方はあたしを騙した」


 エミリアがキールに向かって一歩踏み出して。


「貴方のせいで友達や村の人が何人も死んだ」


 エミリアがさらに一歩。


「貴方のせいであたしは────」


 輝きを増すエミリアの瞳。

エミリアがさらに一歩を踏み出すと、そこから彼女の魔宮が展開されて。


「こんな化け物になった」


 エミリアの影が瞬く間にその姿を変え、巨大な魔物が現れた。

牡牛おうしの頭を持った半人半獣の魔物。

その手に握られた戦斧せんぷの刃が月明かりを受けてギラリと光る。


「悪かった。私が悪かった! 待遇を改善しよう。これからは狭いおりに収容はしない。個室を…………それも私が使うような特別待遇の豪華絢爛ごうかけんらんな部屋を与えるぞ。望むなら好きな物を買い与えてやる。どうだ? 悪くない話だろう……? お前は生まれながらの魔人じゃない。人としての心が残っているのなら、ここで私を殺すべきではないぞ」


 キールが言葉をつむぐたびにエミリアの顔には嫌悪が浮かんでいった。

冷ややかな眼差まなざしでキールを見下ろす。


 その視線に耐えかねたキールはエミリアを睨み返して。


「…………ふざけるなよ。魔人風情まじんふぜいが! この私を! 見下ろしおって……!!」


 キールは怒鳴り声をあげた。


「騙される方が悪いのだ! 利用される方が悪いのだ! むしろこの私の役に立てたことを誇るべきなのだ!」


「言いたい事は…………それだけ?」


 エミリアは無感情にたずねて。

だが赤く灯る瞳には激しい怒りが燃え盛っている。

 

 エミリアの背後で魔物は戦斧せんぷを振りかぶった。


「おい! 誰か私を助けろ! おい!」


 キールは周囲の冒険者に助けを求めたが、冒険者達はその場から動かない。


「なぁ、あんた! 魔人のあんただ。あんたの力ならこの小娘を倒せるだろう? 待遇は保証する! 私を助けろ!」


 キールはディアスに助けをう。


「おっさんはああ言ってるが、どうするブラザー?」


 ディアスは肩に止まったアムドゥスを横目見ると、無言のままキールとエミリアの2人に視線を戻した。


 無言を解答として受け取って。

アムドゥスはケケケと笑い声をあげる。


「待ってくれ、私は死にたくない。私はまだ死ぬべき人間ではないのだ」


 エミリアに向き直って命乞いをするキール。

だがエミリアは答えない。


「死にたく、ない!」


 キールが悲痛な声をあげて。

その顔が死の恐怖に歪む。


「あたしは今も覚えてる。貴方のせいで死んだ皆もそう言って死んでった」


 エミリアが言うと、彼女の背後で斧を振りかぶる魔物が咆哮ほうこう

柄を強く握りしめ、魔物は戦斧せんぷを振り下ろす。


「ぎゃぁぁぁああああ……!!」


 響き渡る絶叫。


 そして轟音と共に石畳が大きく陥没した。


「────でも、あたしは貴方を殺さない」


 エミリアの視線の先にはスレスレで振り下ろされた分厚い戦斧せんぷの刃と、恐怖のあまり気を失って泡を吹くキールの姿があった。


「貴方は弱者だ。狩られる側だ。貴方は一生、魔人の影におびえながら地べたをいずって生きればいい」


 エミリアは展開していた魔宮を消した。

それと同時に従える魔物もその姿を消す。


「それがあたしの、貴方への復讐」


 エミリアはそう告げてキールに背を向けた。

次いで周囲の視線に気づくと、視線から逃げるように走り出す。

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