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5-24

「アーくん!」


 エミリアはアーシュに呼び掛けながらハルバードを振りかぶった。

アーシュはハルバードに視線を向けると、彼の意識がそのハルバードを捉えて。

いで投げ放たれた斧槍ふそう

回転する刃が魔人の男に迫る。


 魔人の男はエミリアの投げたハルバードを見ると、にこりと笑った。


 その時、床の下から赤い閃きが走って。

それはハルバードを弾き返した。


 アーシュは弾かれたハルバードを操作し、再び魔人の男に向けて軌道を変えようと。

だが、その視界を無数の黒い影が遮る。


床から次々と空中におどり出たのは首と両手首を鎖で繋がれた単眼の骸骨。

その頭蓋の左右からは太い角が頭から首に向かって沿うように生えていた。

あばらの下から大きく後ろに反り返った脊柱せきちゅうが頭上に伸びて。

その先には血のように赤い鎌が3つ、鈎爪かぎづめのように並んでいる。


 骸骨の魔物を黒いもやがローブのようにまとっていた。

その靄が色濃くなると、それとは対照的に魔物本体の姿がかすんでいく。


 アーシュは回転するハルバードで辺り一帯の魔物をまとめて斬り裂いたが、その身体は煙のように揺らめいたかと思うとすぐにもとに戻った。


「ディアス兄ちゃん、あれどうやって倒すの!?」


 アーシュがいた。


「やることの基本はスライムと同じだ。ゴーストと言っても完全に実体がないわけじゃない。魔力で構築された身体を、その機能が保てないぐらいバラバラに霧散させれば倒せる」


「じゃあ『その刃、(ソード・)嵐となりて(ストーム)』でぎ払えば」


 アーシュは短剣に手を伸ばす。


「いや、そっちの剣はダメだ」


「え、なんで?」


「魔力を宿してない武器じゃ魔力そのものは斬れないんだよ、アーくん」


 エミリアが答えた。

極力平静に言葉を口にしたが、その声には魔人の男に対する抑えきれない怒りがにじんでいる。


「魔宮生成物から鍛造した剣は別だが、普通の鉱物を製錬した金属の刃じゃゴーストには基本的にダメージを与えられない」


 ディアスが補足した。


「…………基本的に、てことは例外はあるんだよね? ディアス兄ちゃん」


「ああ」


 ディアスは骸骨の魔物に視線を向けて。


「さっきハルバードを弾いたろ。実体のないゴーストにはできない芸当だ。つまりあの魔物は攻撃の瞬間実体化する。その時なら通常の斬擊でも倒せるはずだ」


「うんうん。その……通り」


 魔人の男はディアスの言葉にうなずいた。


「でも今時、使い古された……特性だ。そんな弱点を放っておくほど……馬鹿じゃない」


 魔人の男は自身を取り囲む『家族』に視線をおろして。


「遊びたいのは……分かったよ。でも危ないのは、なしに……しよう。みんなに当たったら、死んじゃうかもしれない」


「あなたが彼らの心配をするの?」


 エミリアは怒気混じりの声で魔人の男に言った。


「当然……だよ? 家族の身を案じるのは、当たり……前。母さんだって、そうでしょ?」


「…………」


 エミリアは魔人の男を刺すような鋭い視線で見つめて。

その目に灯る赤の輝きがよりいっそう強まる。


「アムドゥス」


「────あいよ、嬢ちゃん」


 アムドゥスはエミリアに応えると飛び上がった。

エミリアからの魔力の供給を受け、その両翼が大きな手のように形を変えて。


「『黒き翼、宵闇を招くスプレッド・ディスペア』」


 その翼を左右同時に床に叩きつけると、そこから闇が現れた。

周囲を包む暗闇よりもなお深い暗黒。

それが渦を描きながら拡散して。

その闇は骸骨の魔物の身体を飲み込み、周囲に漂う半透明の身体をした魔物を吹き飛ばす。


「ケケケ、魔力による攻撃なら通るよなぁ?」


 アムドゥスは自身の放った闇のただ中で翼を掲げながら言った。

アムドゥスの『黒き翼、宵闇を招くスプレッド・ディスペア』が暗がりのはるか先にまで拡がった。

骸骨の魔物は闇に飲まれた箇所を失って。

黒いもやが剥がれると、残された部位が落下する。


 だがその落下はみるみる緩やかになって。

いで骸骨の魔物はその身体が陽炎かけろうのように揺らめき、再び黒いもやまとった。

そのもやの陰に失ったはずの肉体が再び形成されているのが見える。


「再生能力か」


「いいや。違うぜ、ブラザー」


 アムドゥスの額の瞳に7色の光が無数に走って。


「こいつは『補完』だ。情報の共有。ここにいる同じ種類の魔物は肉体の状態を共有してやがる! それもなんでもかんでもってわけじゃねぇ。無傷な状態、ダメージのない状態だけを伝播でんぱさせてんだ!」


「ククッ。再生能力なら再生不可能になるまでダメージを与えれば良かったが、状態の共有となると厄介だな」


 そう呟くディアスの瞳には赤い光がチカチカとまたたく。


「てことは」


 アーシュは周囲を囲む無数の魔物に視線を走らせた。

そのおびただしい魔物の数に圧倒されながら。


「これ、全部1度に同じ部位を攻撃して倒さないとダメなの……?」


「手数が足りてないわね。魔人本体を叩こうにも魔物の数が多すぎる」


 キャサリンが顔をしかめながら言った。

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