表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

156/397

5-21

 アーシュは体を大きく回しながら輪刀りんとうを投げた。

剣を操作すると回転する速度を上げて。

アーシュは輪刀りんとうをオオトカゲに向けて飛ばす。


 オオトカゲは大きな縦長の瞳をアーシュの放った剣に向けた。

巨体を覆う濃い緑色の鱗が逆立ち、頭から尾にかけて伸びる2列のトサカが左右に大きく揺れて。

威嚇いかくするように野太い声を発しながら、太い前足を持ち上げて輪刀りんとうを払う。


 オオトカゲの湾曲わんきょくした鉤爪きぎづめ輪刀りんとうの回転する刃とぶつかると火花が散った。


 払いけられたアーシュの剣。

だがその回転する勢いは衰えてはいない。


 アーシュは剣を操作し、オオトカゲの背後へと刃を移動させた。

その首筋へと輪刀りんとうをぶつける。


 その攻撃はオオトカゲのトサカを斬り裂いたが、硬質な鱗にぶつかると弾かれた。

だがアーシュは再び刃を首筋へと強く押し付けて。

回転する輪刀りんとうが火花を散らしながら鱗を削っていく。


 オオトカゲは悶えてその巨体を前後左右に揺するが、アーシュの操る刃はオオトカゲの首筋を捉えて離さなかった。


 ついには輪刀りんとうの刃は深緑色の硬質な鱗を断ち切り、その下の肉を斬り裂いていく。


「やった! この剣なら硬い相手にも攻撃が通る!」


 アーシュが言った。


 オオトカゲは肩ごと首筋を壁や柱にぶつけるが、アーシュの操る輪刀りんとうはなおも離れない。


 いでオオトカゲはその長い尾を振り回し、輪刀をはたいて。

平たい顔の側面についた大きな瞳がギョロりと回って、視界の隅に回転する刃を捉えた。

輪の中へと尻尾の先を差し込むと、首筋から輪刀りんとうを引き剥がす。


 オオトカゲは尾を操り、ディアス達目掛けて輪刀りんとうを投げ返して。

だがアーシュはその軌道をすぐさま変えた。

回転する刃がオオトカゲの顔を走り、片目を斬り裂く。


 回転する輪刀りんとうはそのまま悶えるオオトカゲの身体を走り、鱗と鱗の隙間に刃を滑り込ませた。

鱗をき分けて肉を斬り裂く。


 怒気混じりの咆哮を上げるオオトカゲ。


 その身体を走り抜けた輪刀りんとうが宙に舞い、急降下すると再びオオトカゲに襲い掛かる。


 オオトカゲは大きく口を開くと、鋭い刺がびっしりと生えた舌を繰り出した。

その舌で輪刀りんとうを巻き取ろうと。


 だがアーシュはオオトカゲの舌を目掛けて短剣を投げ放つ。


「『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』!」


 アーシュの声と共に加速する短剣。

その切っ先がオオトカゲの舌を貫いた。


 大きな口から伸びていた舌が力なく垂れ下がり、その舌の先端がハリを失うと備えていた刺がだらりと横になる。


 アーシュは『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』で射出した剣を再びその意識で捉えた。

飛び去る剣の柄を。

つばを。

そしてその刃を意識がなぞると、そのコントロールを得る。


 アーシュは輪刀りんとうと短剣の双方を操り、オオトカゲに次々と攻撃を繰り返した。

回転する刃で鱗と鱗の隙間をこじ開け、そこに短い刃を突き立てていでいく。


 オオトカゲはアーシュの攻撃から逃れようと後退した。

足をバタバタと後ろに踏み出し、その巨大を壁や柱にぶつけながら下がっていく。


 なおも輪刀と短剣はオオトカゲを斬りつけ、斬り裂いて。

そしてアーシュは高速回転する輪刀りんとうに魔力が溜まったのを感じた。

その剣を手元へと素早く引き戻し、回転を止めると柄を掴む。


 アーシュは輪刀りんとうを振りかぶりながら、その魔力を解放して。


「ソードアーツ────」


「ケケ、待ちな! クソガキ!」


 ソードアーツの発動を制止するアムドゥス。


 その視線は後退するオオトカゲの後方、床のある一角を見つめて。

そしてオオトカゲがそこを踏むと、ガゴンと音が響いた。

いでオオトカゲの足元から床の崩落が瞬く間に拡がり、オオトカゲの巨体は深い穴へと飲み込まれる。


「魔物が罠にかかっちゃった」


 呆然とするアーシュ。


「アーくん! 前!」


 その時、エミリアが叫んだ。


 アーシュはエミリアの声を聞いて迫ってくる崩落に気付いた。

オオトカゲの起動した落とし穴のトラップは拡がり続けて。

それはオオトカゲのいた周囲はおろか、柱や壁を飲み込みながらディアス達の目前にまで迫っていた。


「アムドゥス!」


 ディアスが呼んだ。


「ケケ、任せな!」


 アムドゥスは答えると姿を変えて。

頭に被った獣の頭蓋骨から左右に枝分かれした大きな角が伸び、その体躯はみるみる大きくなった。

巨大な翼を羽ばたかせ、アムドゥスは飛び上がる。


 その背や脚にしがみつくディアス達。


 崩落はなおも拡がり、辺り一帯が大穴へと変わった。


 ディアス達は深い穴の先へと視線を向ける。


「アムドゥス、このまま降りれるか」


 ディアスが言った。


「ケケケ、下層へのショートカットか! いいぜぇ」


 アムドゥスは答えると、ディアス達を連れて徐々に下降していく。


 ディアス達は穴の底へと着いた。

周囲には明かりがなく、暗闇の中でディアスとエミリアの赤い瞳だけが光を放っている。


「スペルアーツ『光弾魔象バレッド』」


 キャサリンの指先に目映まばゆく輝く光の球が浮かんだ。

キャサリンはその手を掲げて周囲を照らす。


 ディアス達の降り立った空間は広大で、キャサリンの灯した明かりでは果てが見えなかった。


「んー、どうするの? ディアスちゃん」


 キャサリンがいた。


「けけ、ずいぶん広いね」


 エミリアは周囲をぐるりと見回して。

だがその先には深い闇が広がっているだけで、何も捉えることはできなかった。


「…………」


 ディアスはこの空間に冷たい空気が満ちているのを感じると、アムドゥスに視線を向けた。


「アムドゥス、ここはどこだ?」


「どこって、魔宮の7層じゃないの?」


 アーシュはディアスの言葉に首をかしげる。


「アムドゥス」


 ディアスが再び呼び掛けた。


 アムドゥスは額の眼で周囲を見回して。


「ケケケ、『創始者の匣庭(ディザイン・ヴェルト)』による観測を完了。ブラザーの読み通りだ。ここ、上の魔宮とは別の魔宮だぜぇ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ