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5-19

「ソードアーツ『秘された凶刃、そ(プルーヌ・イクス)の姿を知る者はなし(スターミネイト)』」

 

 剣に走る溝から光が漏れ出して。

ディアスは『回炎の亜竜(ロタ・フランマ)』に向けて剣を振るった。

刃を叩きつけると同時に幅広の大きな剣身けんしんの根元が開き、柄を引くとその中から細身の赤い刃が現れる。


 ディアスは爪先を軸に回りながら、その刃を引き抜いた。

同時に幅広の分厚い刃が細身の刃の軌道とは逆に移動して。

剣を振るうとその剣閃が交差。

ディアスは続け様に剣を振るう。


 左右対称の軌道の尾を引く、青と赤の無数の斬擊。


 さらにディアスが剣を掲げると、青白い鱗をまとった剣身けんしんが細身の赤い刃を包んだ。

再び1つとなった剣は形を変え、その刃は大鎌へと変わる。


 ディアスは渾身の力で刃を振り抜いた。

青と赤の剣閃の軌跡が混じり合い、紫色しいろの閃光となって弾ける。


 その最後の一撃は『回炎の亜竜(ロタ・フランマ)』の首を刈り取った。

首の断面から炎が漏れるとズタズタになった巨体が崩れ落ちる。


「威力は申し分ないが、案の定モーションが長いな」


 ディアスは呟きながら剣をおろした。

紫色しいろの残光をまとう刃が、元の形へと戻る。


 弓を構えていたリザードマン達は『回炎の亜竜(ロタ・フランマ)』が敗れたのを見て後ろへと後退。

矢を放って牽制けんせいしながら薄闇の先へと消えた。

放たれた矢をディアスとアーシュが処理すると、辺りが静寂に包まれる。


「…………ひとまず終わったかしらね。お疲れ様。スペルアーツ『治癒活性(キュアー)』」


 キャサリンがスペルアーツを唱えるとディアスを緑色の光が包んだ。

赤く焼けただれて皮の剥けた肌がみるみる治癒していく。


「アーくん、ナイスナイス」


 エミリアはアーシュに歩み寄って。


「けけけ、よくできましたー」


 背伸びをすると笑いながらアーシュの頭を撫でる。


 アーシュは少し気恥ずかしそうにしているが、エミリアになされるがままになっていた。


「アーシュガルドちゃんもお疲れ様。サポートに徹してからの動きは良かったと思うわよ。エミリーの投げたハルバードの軌道を曲げたり、エミリーの足場を空中に作ったのは遠隔斬擊(ストーム系)の剣技を使う人ならではの戦術よね。良くやったわ」


 キャサリンはアーシュを抱き寄せた。

頬擦りしようと顔を寄せて。

だがアーシュは手でキャサリンの顔を押さえると無言で抵抗する。


「ウフフ、恥ずかしがっちゃってー」


 キャサリンはトンとアーシュの額を小突いた。


「痛っ」


 アーシュは小突かれた額を押さえ、不満げな眼差しをキャサリンに向ける。


「…………投げた軌道を変えて、か」


 ディアスが呟いた。


「そうだ、ディアス兄ちゃん!」


 アーシュはディアスの方へと視線を向けて。


「おれ、剣を遠距離でも捉えてそのまま操れるようになったよ! まだ一瞬ではできないけど……。でもこれで『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』ももっと使える、ように…………なった……よ…………?」


 嬉しそうな表情を浮かべて話していたアーシュの表情からは笑みが消え失せ、困惑の色が浮かんだ。

その視線の先にはムスっとしたディアスの顔。


「ああ、凄いな」


 投げやりにディアスが答えた。

平坦な声音とは裏腹に、その顔は見るからに不機嫌そうに見える。


「え、え? ディアス兄ちゃん、おれ何か悪いことした……?」


 おろおろとアーシュがたずねた。


「ケケケ、気にすんなクソガキ」


 アムドゥスはアーシュに声をかけると、ディアスのフードの中からアーシュの肩へと飛び移って。


「ケケケ、どうやらクソガキは同じ魔力なし(落ちこぼれ)じゃなかったみたいだなぁ、ブラザー?」


 アムドゥスは翼で口許を覆うとクスクスと笑う。


「けけ、そういうことか」


 エミリアが困ったように笑いながら呟いた。


「え、どういうこと?」


 首をかしげるアーシュ。


遠隔斬擊(ストーム系)の才能がブラザーよりクソガキのがあったってことよ」


 アムドゥスは未だにクスクスと笑っている。


「…………あ。ディアス兄ちゃん、もしかしてできないの?」


 アーシュはそう言うと、しまったと口を塞いだ。


 案の定ディアスはさらに不機嫌そうになって。

展開したままだった無数の刀剣がディアスの背後でうごめき、ガチャガチャと音を立てている。


「ちょっと、ディアスちゃん、怒っちゃやーよっ」


 キャサリンがウィンクをした。


「…………アーシュ」


 ディアスはキャサリンを無視してアーシュに歩み寄った。

歪な笑顔を浮かべながらアーシュの頭に手を置く。


「…………やーよっ」


 キャサリンが再びウィンクするがディアスは見向きもしない。


「もう、無視しちゃや────」


「やるじゃないか」


 ディアスはキャサリンの言葉を遮り、アーシュの頭を撫でた。

アーシュはディアスに頭を撫でられた事に最初びっくりしたが、その顔はまんざらでもない様子で。

だがディアスは無言でわしゃわしゃとアーシュの頭を撫でて。

さらに無言でくしゃくしゃと頭を撫で続けて。

そしてアーシュの髪がぐしゃぐしゃになるまで、ついには乱暴に頭を擦る。


 ディアスはそこで大きく息をつくと。


「やるじゃないか」


 再びそう言ってポンポンと頭を撫でると、『回炎の亜竜(ロタ・フランマ)』の死体に近づいていく。


 アーシュはぐしゃぐしゃにされた髪を手ぐしで直しながらディアスを目で追った。


 ディアスはおもむろに『回炎の亜竜(ロタ・フランマ)』の首の断面へと手を差し込むと、その中に埋まったそれを握って。

そしてゆっくりと引き抜いていく。

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