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「スペルアーツ『武装研磨』」
キャサリンはすかさずエミリアの青のハルバードにバフを付加した。
エミリアはリザードマンへと明滅する光を纏ったハルバードを振り下ろす。
リザードマンは横に跳び退いた。
空を切るエミリアの斧槍。
エミリアの攻撃をすれすれでかわして。
リザードマンはその手に携えた無骨な槍を構える。
エミリアは振り下ろした刃が床を打つより早く。
強引にその軌道を変えた。
体を大きくよじりながらハルバードを横に薙ぐ。
リザードマンへと再度迫る刃。
リザードマンは鋭い瞳でそれを捉えて。
強靭な尾を床に叩きつけ、その反動で上へ跳んだ。
エミリアの追撃をさらにかわして。
だがその頭上から振り下ろされる重厚な刃。
轟く咆哮。
シャルの振り下ろした戦斧がリザードマンの背を捉えた。
その体を鎧ごと砕きながら床に叩き付ける。
同時にエミリアは横に薙いだハルバードの勢いを殺すことなく旋回。
そのまま床に叩きつけられたリザードマンの首を斬り飛ばす。
宙に舞う生首。
その見開かれた眼が映すのは、自身の身の丈の半分もない小さな少女の瞳。
そこに灯る冷たい赤の輝き。
「……次」
エミリアは倒したリザードマンには目もくれず、鋭い視線を次の獲物へと向けた。
振り抜いたハルバードの勢いを強引に止めると跳躍。
姿勢を低くしたリザードマンの顔面目掛けて。
空中で斧槍をすくい上げるように振るう。
その一撃はリザードマンの顎を砕き、額を割って。
リザードマンの身体が大きく仰け反った。
エミリアは腕に力を込めるとその巨体を吹き飛ばす。
ハルバードを振り抜いたエミリア。
そして左右から彼女へと迫るリザードマンが2体。
獰猛な鳴き声と共に剣と槍、それぞれの得物を振りかぶる。
だがエミリアはまだ空中にいた。
エミリアは左右のリザードマンに視線を切るが、空中では自由が利かない。
「『その刃、嵐とならん』……!」
アーシュは剣を操るとエミリアへと襲いかかるリザードマン目掛けて剣を放った。
剣が渦を描きながらリザードマンへと向かう。
リザードマンはその刃を捉えると、一瞬の間に容易く弾いた。
すかさずエミリア目掛けて得物を振るう。
「『防御魔象』!」
アーシュの攻撃によって稼いだその一瞬の間にキャサリンはスペルアーツを発動。
魔力で編み上げられた半球状の光の盾がリザードマンの攻撃を防いだ。
「ナイス、アーくん。ありがとうキャシー」
同時にエミリアの片足が床を捉えた。
爪先で床を掴み、重心を下へと引き下げて。
深く腰を落とし、上体を大きく捻りながらハルバードを振るう。
後ろに跳んでエミリアの攻撃を回避するリザードマン。
だが2体のリザードマンが着地するより早く。
床を這うように伸びた2本の剣身。
その側面から刃がそそり立った。
鋭い切っ先がリザードマンの身体を串刺しにする。
ディアスは2体のリザードマン目掛けて跳んだ。
展開していた刃からディアスの身体が離れると、刃が霧散する。
ディアスは絶命にまでは至らなかったリザードマンにディフェンダーを振るって。
「『その刃、熾烈なる旋風の如く』」
凄まじい加速を得た剣閃。
その一撃はリザードマンの纏う鎧を砕いた。
ディアスは爪先を軸に体を回して。
さらにリザードマンの身体を包む硬質な鱗を。
そして3度目の斬擊でその肉と骨を断つ。
「ディアス兄ちゃん! エミリア!」
アーシュが叫んだ。
その目は再びリザードマンが放った矢を捉えていて。
アーシュは剣を操作して飛来した矢を斬り払うが、処理が間に合わない。
「スペルアーツ『速度強化』」
キャサリンがディアスにバフを付加。
ディアスはディフェンダーを構えて迫り来る矢を防いだ。
それと同時に、展開した剣を操作してアーシュやキャサリンの方へと向かう矢を斬り伏せる。
「シャル!」
エミリアの呼び掛けに応えて。
シャルは蹄で床を蹴るとエミリアの前へ。
その巨体を盾にしてエミリアを矢から守った。
身体に矢が何本も突き刺さるがシャルはものともしない。
雄叫びと共に筋肉が隆起すると、その矢を身体から弾き出す。
「ごめーん、ディアスちゃん。バフお待たせっ」
キャサリンが言った。
「スペルアーツ『筋力強化』、「武装研磨」」
さらにディアスにバフを付与する。
ディアスは自身のステータスの上昇を感じていた。
だがアムドゥスは額の瞳でその姿を捉えると。
「慢心すんなよブラザー。バフをもらっても剣を10本装備してた時のがステータスは上だかんな」
「分かってる」
「ケケ、ならいいが。なんせデカイのが来たからなぁ」
アムドゥスが薄闇の先を見て言った。
その先からは甲高い声と共に大きな足音が響いてくる。
「ドラゴンモドキか」
リザードマンの群れの先へと目を凝らすディアス。
「うそーん。さっきは遭遇しなかったのに」
キャサリンが言った。
「うるさいから気付かれたのかな」
アーシュがそれとなく呟くとエミリアは首をかしげて。
「え。うるさいって、それあたしのシャルの事言ってるアーくん?!」
「ええ、違うよ!?」
「確かにシャルは割と叫ぶからうるさいのは認めるけど。えー、あたしのせいなのー」
「だから違うよ!」
アーシュが慌てて否定する。
そして大きな足音と鳴き声の主が明かりの前へと姿を現した。




