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ディアスは剣身に走る溝を目で追う。
「ケケケ、変形もするし分離もするぜぇ。区分は魔剣だが同時に双剣のカテゴライズにも入ってる」
アムドゥスが言うとディアスは剣を数回振って。
「だが好きな時に分離や変形ができるわけじゃないな。
『刹那の閃き、天を衝かんと』や『穿て、流れ落ちる楔』と同じ、モーション固定型のソードアーツの動作の中にそれらが組み込まれてると見た」
「ケケ、正解だ」
「となるとモーションの長さが気になるな。あまり長いものは隙になるし、確認の必要がある。あとはどっちがこれを持つかか」
ディアスはアーシュを見ると、エミリア達の方へと戻る。
「おっきな剣だね。盾みたい」
アーシュが言った。
興味深げにディアスの持つ剣を見る。
「ディフェンダー、防御に向いた前衛向けの剣だ。ソードアーツはおそらく連擊型」
「連擊型かぁ、使ったことないな」
アーシュはそわそわとしながら剣を見つめている。
「使うか?」
「え、いいの!」
アーシュの顔に笑顔が広がった。
だが次いで、うーんと唸って。
「でもいいや。前衛向けの剣なら、おれじゃなくて前衛もできるディアス兄ちゃんのがいいだろうし。その代わり、次に見つけた剣はおれのね!」
「分かった」
ディアスがうなずく。
ディアス達は探索をしつつ、さらに魔宮の先へ。
道中で他にもいくつか宝箱を見つけたが、目当てとなる武器はなかった。
換金できそうな素材だけを回収していく。
そしてキャサリンは足を止めて。
「はいはーい。この辺りからが6層よ」
「え、そうなの?」
キャサリンの言葉にアーシュは周囲を見渡して。
周囲は岩肌が剥き出しになった洞窟で、壁に並ぶ松明は青白い炎を灯していた。
薄暗い通路の先へと目を凝らすと、所々に石造りの柱や石畳が点在している。
「でもここには階段なかったよ?」
首をかしげるアーシュ。
ディアスは周囲を警戒しながら。
「魔宮の階層は常に仕切られてるわけじゃない。通路の傾斜なんかで下の階層の判定になるエリアへと繋がることもあるし、別階層のフロアが拡大して階層を股がって通路に繋がる事もある」
「へー、そうなんだ」
「あたしが見た魔宮の中にもそういうのあったよ。通路の先が崖になってるやつ。その攻略の時は、あたしまだ檻に入れられて運ばれてた時だったんだけど、運び手が手滑らせて檻ごとあたしの事落としちゃったんだよ! ひどいよねー」
エミリアはそう言うと、けけけと笑う。
「どお? ディアスちゃん。魔力は溜まってるかしら?」
キャサリンがディアスに訊いた。
その目はディアスの携える新しい得物を見ている。
ディアスは探索の過程で何度もリザードマンに振るった剣を見つめて。
「7割前後ってところか」
「そう。できれば6層に入る前に溜めておきたかったわね」
「こればっかりは仕方ない」
そう言うとディアスは肩をすくめる。
────刹那、風切りの音が連なること6つ。
ディアスとエミリアは素早く視線を切った。
それぞれの得物を振るって。
次々と放たれたそれをいなし、斬り払う。
それは魔物の骨を加工した大きな矢。
いなした矢が岩肌に深々と突き刺さる。
「リザードマンね!」
キャサリンは矢の飛んできた方向を睨みながら言った。
「スペルアーツ『光弾魔象』」
キャサリンの指先から放たれた閃光が薄闇の中を駆け抜けた。
壁にぶつかると大きな音と共に弾け、潜んでいたリザードマンを浮かび上がらせる。
弾けた閃光はすぐに消え去ったが、その姿をディアス達は捉えた。
鎧で全身を固めた重武装のリザードマンの一団。
リザードマンは闇に溶け込みながら再び矢を放った。
その緩やかな弧を描く矢の軌道の下を、近接武器を構えたリザードマンが走る。
体を低く低く。
まるで床に伏せるようにして駆け抜けるリザードマンの先陣。
あり得ないほど前へと倒した体を支えるのは、蛇のように左右に波打ちながら床を這う太い尾。
それが体のバランスを保ちつつ、その体を前へ前へと押し出す。
ディアスとエミリアはリザードマンの動きを見て力量を測ると、その目に灯る赤の輝きを強めた。
「顕現して、あたしの────」
「顕現しろ、俺の────」
同時に魔宮の力を発現させる。
「『在りし日の咆哮』……!」
「『千剣魔宮』!」
周囲の空間を塗り変えて現れたのは石畳の空間。
ディアスの背にマントのように連なったのは無数の刀剣。
「俺は矢を」
「あたしはリザードマンを」
ディアスとエミリアが同時に言った。
ディアスは再び放たれた矢の前へとその身を躍らせた。
体をよじりながら跳躍し、連なった刃を振り抜いて。
リザードマンの放った矢を斬り伏せる。
その下を潜り抜け、エミリアが前へ。
エミリアの影が形を変えながら肥大化すると実体を持った。
エミリアはシャルと呼ぶ牡牛の頭を持つ巨体の魔物と共に、迫り来るリザードマンを迎え撃つ。




