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ディアスは視界の隅でアーシュの操る剣を捉えていて。
「アーシュ」
ディアスはリザードマンの攻撃をかわしながら呼び掛けた。
「今は倒す事をあまり意識するな。お前の
『その刃、嵐となりて』はまだ習熟度が低い。コントロールの精度も威力もまだ硬い魔物を相手にするのには向いてない」
アーシュに言いながらリザードマンの喉元を斬り裂く。
「習熟度…………」
アーシュはディアスの言葉を受け、剣の操作を変えた。
剣を手元に引き寄せて。
自分が最も使い慣れた技へと切り換える。
「『その刃、風とならん』!」
アーシュは次々と剣を投げ放った。
剣が加速するとリザードマンへと迫る。
リザードマンはアーシュの剣をその手に握る無骨な剣で弾き、盾でいなして。
だが捌き切れなかった剣がリザードマンの身体へと突き刺さる。
鱗と鱗の隙間を狙い、先ほどまでよりも深い傷を与えた剣。
だがまだ致命傷には至らない。
アーシュは意識を集中させ、突き刺さった剣の柄を捉えた。
その柄をなぞり、鍔の輪郭を走り、剣身を包んで。
アーシュはその剣を再び操作しようと。
だがリザードマンの身体に突き刺さった剣はアーシュの操作ではびくともしない。
「遅いんだ」
アーシュが呟いた。
ディアスはアーシュの攻撃したリザードマンを斬り伏せた。
剣を一度鞘に納めると、リザードマンの身体に突き刺さった剣を抜いて。
「アーシュ」
ディアスはアーシュへと、引き抜いた剣と弾かれた剣を次々と投げ返す。
アーシュは受け取った剣を再び操作。
だが『その刃、風とならん』はもう使わない。
『その刃、嵐となりて』でディアスとエミリアのサポートに徹した。
時折うーんと唸りながらも剣を操り続ける。
そしてディアス、エミリア、アーシュの3人は後方から迫ったリザードマンの群れを掃討。
三叉路の先へと向き直った。
その先にはキャサリンと『防壁魔象』の防壁、そしてその先でひしめくリザードマンの大群の姿。
「…………スペルアーツ『魔象点火』」
キャサリンは防壁の損傷を確認しながら、破られる前に次の防壁を魔力で編み上げて。
「そっちは済んだみたいね」
キャサリンが肩越しにディアス達を振り返りながら言った。
背中に垂らした長い三つ編みが揺れる。
「ケケケ、まだずいぶんいやがるな」
アムドゥスがディアスのフードから顔をひょっこりと覗かせて言った。
「けけ、あたしが魔宮展開しようか? シャルとあたしならそんなに時間はかからないと思うよ」
エミリアはそう言うと瞳に灯る赤い光の輝きを強める。
「いいえ。ここは私のスペルアーツに、ま・か・か・せ・てんっ」
キャサリンがウィンクと共に言った。
アーシュへと視線を向ける。
「アーシュガルドちゃんには少し手伝ってもらっていいかしら」
「うん! おれにできる事があるならなんでも言って!」
少し暗くなっていたアーシュの表情がパッと明るくなる。
「ありがとぉ。じゃあ剣を操作して通路の四隅に配置してもらっていいかしら」
キャサリンに言われてアーシュは剣を通路の四隅に配置した。
キャサリンはアーシュの操る剣を起点に『防壁魔象』を次々と設置。
さらに通路の四隅にもスペルアーツの楔を打つ。
「じゃあ私達は一度このまま下がるわよ。アーシュガルドちゃんは私達に合わせて剣をまっすぐ下げてちょうだい」
「わかった」
ディアス達は大きく後ろに下がった。
遠目にリザードマンの方へと視線を向けると、リザードマンを阻む魔力の防壁はひび割れ、今にも砕け散りそうになっている。
そしてついに防壁が破られた。
リザードマンが通路へと押し寄せる。
キャサリンはリザードマンを引き付けて。
「さぁ、いくわよ! スペルアーツ『魔象強化』、『魔点火象』!」
リザードマンの行く手を阻むのはアーシュの剣を起点に現れた防壁。
そしてその退路も塞ぎ、リザードマンを閉じ込めた。
「アーシュガルドちゃん!」
キャサリンの呼び掛けに応え、アーシュは剣を前へと進めた。
リザードマンの大群の前方に展開された『防壁魔象』は剣を起点としているため、その動きに合わせて前へ。
群れの後ろに展開された壁との距離を縮めていく。
リザードマンの大群は壁に押され、圧迫されて。
必死にリザードマンは抵抗するが、起点を増やし、強化の施された魔力の防壁はびくともしない。
そのままリザードマンを圧殺していく。
鱗が割れ、骨が砕け、臓物が飛び出る音が断続的に響いた。




