5-12
「じゃあ、ディアスちゃんにも戦闘時にはバフあげるわね」
「…………」
ディアスは考え込んでいて。
「……ああ、頼む」
ディアスか遅れてキャサリンに答えた。
その瞳がチカチカと時折瞬き、赤の光が右へ左へと走る。
ディアスの瞳の光に気付くと、アムドゥスはケケと笑った。
ディアス達はさらに魔宮の先へ進んだ。
道中に遭遇したリザードマンを蹴散らし、地下5層へと続く階段の前にたどり着く。
「スペルアーツ『追跡魔象』」
キャサリンがスペルアーツを唱えると、青い光が波紋のように拡がった。
その光が床を。
壁を。
そして天井をなぞって。
次いで通路の上に足跡が青い光となって浮かび上がる。
スペルアーツによって浮かび上がった足跡をたどり、5層を進むディアス達。
「キャサリン、5層からの敵の強さは」
ディアスが訊いた。
「5層でまず個体の強さが上がって、6層でさらに装備品も変わるわ。剣、盾、防具一式で武装した個体や弓矢なんかの遠距離武装、オオトカゲに跨がった騎兵タイプ。私達は直接は遭遇してないけど足跡を見るとドラゴンモドキもいるわね」
「6層でA難度相当ってところか」
「ええ。ディアスちゃんとエミリーの2人がいれば本来なら大丈夫だとは思うけど、今はディアスちゃん、装備が整ってないんでしょ。無理はしない方がいいと思うわ」
「大丈夫だ」
「本当に? さっきからディアスちゃん、上の空みたいだけど」
キャサリンが心配そうにディアスを見下ろす。
「ケケケ、問題ないぜぇ。なぁ、ブラザー」
アムドゥスが言った。
「ホントに大丈夫? ディアス」
エミリアが訊くとディアスがうなずく。
「悪いな。だが本当に大丈夫だ。今は魔宮の調整を急いでた。やりたい事ができたが、そっちに取りかかる前に済ませておきたい事があってな」
「あ、それってディアス兄ちゃんが言ってた新しい戦い方?」
アーシュがディアスに訊いた。
「ああ」
「ケケ。新しいって言っていいのかわかんねぇがなぁ。ホントはもっとできることもあると思うぜぇ? あの勇者に言われたろ。前の戦い方に囚われるなってよぉ」
「…………」
アムドゥスに言われるとディアスは押し黙ってしまった。
その表情からはひどく悩んでいるのが窺える。
「ディアスちゃんにも色々あったみたいね。私はディアスちゃんのこと、そこまで知らないから今はディアスちゃんの立場に立ったことは言えないけど…………。前を向くのは確かに大切。でもだからって過去を切り捨てる事だけが正しいとは私思わないわよ」
キャサリンはそう言うとアムドゥスを盗み見た。
すぐに視線を戻すと声のトーンを上げて。
「私はこれ以上は言わないわ。それより今は探索に集中しなきゃよ! ディアスちゃんが魔宮の調整を急ぐのはいいけど、それ以外はまず目の前の事をやらなくっちゃ」
「けけけ、そうだね。目の前の事をまずは片付けよう」
エミリアが素早く視線を切った。
それと同時に通路の先からリザードマンの群れが現れる。
三叉路の先から。
そして後ろを振り返ると後方からもリザードマンが迫ってきていた。
上の階層で戦ったものよりも身体を覆う鱗が厚く折り重なり、その体表は岩のようにゴツゴツとしている。
「さぁ、どうするぅ? 指示があれば私は応えるし、指示がないなら私なりに動いてスペルアーツと拳を振るうけど」
キャサリンが右手をわきわきと握って開いてを繰り返した。
その間にもリザードマンはディアス達目掛けて駆け出す。
「なら『防壁魔象』で前方に壁を。足止めしてる間に後ろを叩く」
「了解したわ。でも1人で『防壁魔象』使うには過程が増えるから────」
「時間稼ぎだな」
「けけ、時間稼ぎだね」
「………………うん、分かった!」
キャサリンが言い終わる前に、ディアスとエミリアは意図を汲むとすぐに動いた。
遅れて理解したアーシュが加わる。
「エミリアは左を。アーシュは『その刃、嵐となりて』で右の通路を阻め」
ディアスは右の通路へと真っ先に躍ると、剣を振りかぶりながら先頭のリザードマンへと肉薄。
すかさず剣を袈裟に振り下ろして。
「『その刃、熾烈なる旋風の如く』」
剣の操作による加速を斬擊に上乗せして。
鏡のように磨き込まれた剣身が空気を切り裂きながらリザードマンの構えた盾をたたっ斬り、肩口を斬り裂いた。
自身は後ろに飛び退きながら、剣を操作してそのまま引き斬る。
ディアスは剣身へと意識を集中させたまま。
後ろへと跳んだ刹那に刃を横目見た。
刃こぼれしてないのを確認すると前方へと視線を戻す。
「アーシュ!」
ディアスが呼び掛けた。
その背後でアーシュは剣と短剣を次々と投げ放つ。
「回れ、廻れ、舞われ……!」
アーシュは投げ放った剣に意識を集中。
剣が軌道を変え、ディアスの前へと出た。




