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「そうかい、そりゃ残念だ。自衛どころか他の後衛の護衛もできるスペルアーツ使いなんて見たことねぇし、良ければ次の魔宮探索も手伝って欲しかったんだが」
冒険者の1人が残念そうに言った。
「ごめんなさいね。でもこの子達には昔魔宮の攻略で助けられたこともあって。今は装備も万全じゃないみたいだし、バッファーもヒーラーもいないなんて見過ごせないのよねぇ」
キャサリンは頬に手を添えながら答えた。
「分かったよ。俺達は魔宮を出たら一晩衛兵の宿舎を間借りして、明日の朝に発つ。もし良ければそれまでに合流してくれ」
「わかったわ。あまり期待しないで待っててね」
「ああ」
冒険者はディアス達へと振り返って。
「じゃあ、にいちゃん達も気ぃつけてな」
ひらひらと手を振ると出口に続く階段へと向かう。
冒険者達はキャサリンに声をかけつつ去っていった。
「良かったのか」
ディアスがキャサリンに訊いた。
「ええ。さっき6層で切り上げたって言ったでしょ。あのパーティーだとそれ以上は命の危機もあったし、彼らも探索の結果に満足してた。だからこれ以上潜りましょうとは言えなかったのよ」
キャサリンが答えるとディアスは眉をひそめて。
「より深く魔宮に潜ってどうする? 用事があるって言ってたがそれか?」
「ええ。……機密扱いだからこれ以上はプルプルリップのお口にチャック」
キャサリンは唇に指を当てると口をつぐむ。
「ケケケ。お前さん、ずいぶんややこしい状態になってんなぁ。いや、むしろ狙ってそうしてんのかぁ?」
アムドゥスはディアスのフードの陰から顔を覗かせて言った。
その額の瞳に7色の幾何学模様が走っている。
キャサリンはアムドゥスの姿を凝視した。
その瞳は獲物を狙う獣のようにギラギラと光っている。
「そんなに見るんじゃねぇよ。ケケ、安心しな。俺様は見境なく人間を襲ったりしねぇし、お前さんの今の状態について俺様は何も言わねぇでやる」
「…………ええ、お願いするわ。その辺明かされると私のこれまでの努力が台無しになるの」
キャサリンはふむとうなずいて。
「それについても一目でそれを見抜くなんて。あなた、どんな能力なのかしらねぇ」
探るような目でアムドゥスを見る。
「ケケケケケ、俺様の眼にかかればなんでもお見通しよ」
「そうなの。それは、凄いわね」
キャサリンはじっとアムドゥスを見つめて。
だが突然にっこりと微笑む。
「さて、改めて自己紹介しましょう! 私の事はキャサリンと呼んでね」
キャサリンはウィンクするとディアスに視線を向けて。
「あなたはディアスちゃんよね。そして」
次いでエミリアに視線を向けた。
エミリアは顔を上げて視線を返す。
「けけ、あたしはエミリアだよ」
「エミリア…………じゃあエミリーって呼んでもいいかしら」
「けけけ。いいよ、キャシー」
エミリアはキャサリンをキャシーと呼んだ。
「キャシー……? それすっごく可愛いんですけど!」
キャサリンは嬉しそうに笑って。
「ねぇ、エミリー」
「なぁに、キャシー」
「エミリー」
「キャシー」
「エミリー!」
「キャシー」
「エミリー!!」
「キャシー」
「いやん! 私恥ずかしくなっちゃう!」
キャサリンはエミリアの肩をばんばんと叩く。
「けけけ…………キャシー、地味に痛いよ?」
「あらやだ! 私ったら。私普通の女の子よりも力がちょっと強いから」
キャサリンがおろおろしながら言うとアーシュは首をかしげて。
「でもキャサリンさんて、おと────」
「アーくん、ストップ」
エミリアはアーシュの発言を止めた。
「言うて性別問わず、生身でリザードマンを殴り殺してる時点で相当だと思うがなぁ。ケケケケケ!」
アムドゥスが笑う。
キャサリンはアーシュに視線を向けて。
「そういえば坊やのお名前は?」
「おれはアーシュガルドだよ、キャサリンさん」
「アーシュガルドちゃんね。よろしく」
キャサリンは再びウィンクした。
次いでアムドゥスへと視線を向ける。
「俺様はアムドゥスだ。だが気安く俺様の名前を呼ぶなよ。下僕1号、2号、3号のこいつらを束ねるこのパーティーのブレインにしてリーダーは俺様よ。ケケケケ」
アムドゥスが言うとキャサリンは感心して。
「あらそうなの」
「いや、違うが」
ディアスは即座に否定した。
「でも不思議よねぇ。喋る魔物なんてあんまり見ないけど。エミリーはボス特化の魔宮だし、ディアスちゃんの魔宮の魔物なの?」
「いや、違うが」
ディアスは再度否定した。
「自分で創造した魔物ならもっと可愛げがあって従順な魔物にする」
「ケケケ、お前さんの趣味に合わせたら巨乳で肯定しかしないような魔物になりそうだなぁ」
「あら! ディアスちゃん巨乳好きなのぉ? 襲われたらどうしましょう!」
キャサリンは両手を頬に当てて、もじもじと体を左右に揺らす。
「いや、ないが」
ディアスはぶんぶんと首を左右に振った。
「でもそうなっても仕方ないわね。私のダイナマイトバストは破壊力満点だものね」
「バストの破壊力じゃなく胸筋が生む破壊力がな」
「この谷間には女の子でさえ釘付けだし」
「そもそもその胸、構造どうなってるんだ」
「これ? 純然たる筋トレの賜物よ!」
「なんで筋肉がそんな形になるんだ」
「だって脂肪だと他のところにもお肉付いちゃうでしょ? ぽっちゃりが好きだって殿方もいるけど、私はやっぱりボンキュッボンのが似合うと思って。くびれってやっぱりメリハリとして大事だと思うの」
「くびれってより逆三角だが」
「それでメリハリを残しつつ胸を大きくするにはしばらく悩んだんだけど、鳥って体のバランスに対して胸筋が凄い発達してるじゃない? それを参考に頑張ってみたのよ」
キャサリンは膝に手を置いて前屈みになった。
ドレスの胸元から覗く胸の谷間を見せびらかして。
豊満な胸筋がビキビキと音を立てている。
「怖いな」
「けけ、正直怖いね」
「怖い」
「ケケ、人間じゃねぇな」
ディアス達が口々に呟いた。
「いやーん! みんな意地悪ぅ!」
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今回の更新分の最後で、下品なのでカットしたものを下に添えときます。
………………
「いやーん! みんな意地悪ぅ!」
そう言うとキャサリンはディアスを見た。
次いでその視線を下げて────
「ちなみにディアスちゃんの下の剣の切れ味はどうなのかしら。やっぱり白の勇者だけに下の剣もインフィニータ・スパーダなのかしら。キャッ、キャッ」
「…………? ディアス兄ちゃんはもうインフィニータ・スパーダはできないよ?」
アーシュが首をかしげながら言った。
「やだ! 純真! キャサリン穢れて見えちゃう!」
「けけ。うちのアーくんに変なこと教えてたら、あたし怒るよー?」
エミリアがキャサリンを睨みながら言った。




