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5-9

 術者は手甲も何もまとわぬ生身の拳をリザードマン目掛けて突き出した。

その一撃はリザードマンの体表を覆う硬質な鱗を砕いて。

すかさず次の拳を繰り出すと骨を。

そしてさらに拳を振り抜いて臓器に甚大なダメージを与える。


 短い断末魔を上げて倒れるリザードマン。


 術者はアーシュの体を支えて。


「リザードマンは後頭部にも目のような器官があって動きを感知できるのよ。気を付けなさいね、坊や」


 術者は長い三つ編みを垂らし、胸元のざっくりと空いたドレスを身にまとっていた。


 アーシュは術者に振り返ると礼を言う。


「ありがとう、おじさん(・・・・)────」


 刹那せつな、おじさんと呼ばれた術者は拳を再度振るった。

アーシュの顔のすれすれを拳が飛ぶように過ぎ去り、アーシュの髪の毛が数本パラパラと落ちる。


 アーシュは驚きに目を見開きながら頬をかすめた拳を。

いで術者の顔を見上げると、鬼のような形相を浮かべているのが見えた。


「……ごめんなさいね。なんて言ったか、聞こえなかったの」


 だが術者は突然その顔に穏和な笑みを貼り付けて。

その笑顔とは裏腹に眼光は未だに鋭いが、それでも声音は気持ち悪いくらいキャピキャピしてアーシュに言う。


「だーからぁ、もう1回言ってもらっていいかしら! ウフッ」


「うん。助けてくれてありがとう、おじさん」


「…………嫌っ!」


 術者は体を左右に揺らして。


「嫌よ、嫌! もーう、特別にチャンスあげたのに! ほんとは私の事おじさんとか呼んだ奴は後悔する隙も与えずに『美麗な私の天誅滅却エレガント・ジャッジメント』って決めてるんだからね!」


 術者はアーシュを見下ろしながら続ける。


「坊やが可愛いから例外中の例外だったけど、2度もおじさん呼ばわりされたらもうキャサリン怒っちゃう!」


「あ、ごめんなさい。おじさんって呼ばれるの嫌だったんだ。おれ分かんなくて。本当にごめんなさい」


 申し訳なさそうにアーシュが言った。


「やだ! 素直! でもでも…………」


 自身をキャサリンと呼んだ術者は拳を握り締め、その拳とアーシュを交互に見る。


 そこに駆けつけたエミリアがキャサリンを見て。


「…………あれ、オネェさん?」


「はーい! 呼んだぁ?」


 キャサリンは満面の笑みでエミリアの方へと振り返る。


「やっぱりオネェさんだ。けけけけ」


 エミリアが言うとキャサリンは首をかしげて。


「あら! あらあらあらっ!」


 フードの下のエミリアの顔を覗き込むとうなずく。


「久しぶりねー! どう? 元気にしてた? やだもうー。そのお洋服、とっても素敵よぉ。でも髪の毛がダメねぇ、綺麗に切り揃えないと。あと女の子のお顔を髪の毛で隠してるなんてもったいないわぁ!」


 キャサリンは早口で言った。

言動1つ1つに身振り手振りを添える。


「てことは、彼もいるのぉ?」


 キャサリンはきょろきょろと周囲を見回した。

リザードマンを斬り伏せたディアスが駆け寄ってくるのを見つける。


「お久しぶりね。イメチェンしたの? すぐには気づけなかったわ」


「あんたか。アンデットの魔宮以来だな」


 キャサリンが声をかけるとディアスが応えた。


「あら、私の事覚えててくれたのー? 嬉しいわね」


「ケケケ、嫌でも覚えちまう外見してんだろうが」


 アムドゥスが呟いた。


「ごめんなさい、ディアス兄ちゃん。離れるなって言われてたのに」


 アーシュが言うとディアスは肩をすくめて。


「気持ちはわかる」


「もう、ディアスはホントにアーくんに甘いんだから」


 エミリアは不満げに顔をしかめる。


 ディアス達は周囲へと視線を向けた。

すでにリザードマンはそのほとんどが駆逐されていて。

残された個体は悔しげに唸ると逃走する。


「キャサリンさん、お知り合いでしたか?」


 冒険者の1人がキャサリンに声をかけた。


「ええ」


 キャサリンは答えるとディアスに視線を向けて。


「私は用事があって彼らのパーティーに同行させてもらってたの。今は探索の帰り。そこでリザードマンの群れに襲われるあなた達を見つけたんだけど…………あなた達なら加勢は必要なかったかしらね」


「いや、助かったよ。ありがとう」


 ディアスはキャサリンから冒険者のパーティーの方へと視線を向ける。


「助かった。ありがとう」


「いやいや。それにしてもあんたら強いな。特にそっちの女の子」


 冒険者は苦笑混じりに言うとエミリアに視線を向けた。


「けけけ」


 冒険者に言われてエミリアが笑う。


「あなた達はこれから探索?」


 キャサリンがいた。


「ああ。武器をロストしたからその補充をしに。あんた達は何層まで進んだんだ」


「6層までよ。そこで切り上げたの」


「そうか」


ディアスは下層へと向かう通路に足を向けて。


「俺達はこのまま探索のために下層に降りるからここで。加勢感謝する」


 ディアスはキャサリンと冒険者達に会釈すると先へと向かう。


「ねぇ、ちょっと待って」


 キャサリンがディアスを引き留めた。

いで冒険者の方を振り返って。


「悪いけど私はここで。私はこのヒーラーもバッファーもいないパーティーについていってあげる事にしたわ」

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