表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/397

5-8

 薄闇の中を蠢く無数の影。

その1つが松明の明かりに照らされて。

それは先ほど倒した個体よりも屈強な体つきのリザードマン。

リザードマンはディアス達を睨みながら舌をチロチロと出し入れした。

その手には無骨な剣と、表面に鱗を張り合わせた円形の小さな盾を持っている。


 気づくとディアス達はリザードマンの群れに取り囲まれていた。


「さっきのはおとりか」


 ディアスが言うとエミリアはうなずいて。


「けけ。同じような種類のリザードマンと前に戦ったことがあったけど、さっきのは体も細いし弱いなと思ったんだよね。弱い個体を使い捨てに使ったんだ」


「大丈夫なの?」


 アーシュはせわしなく周囲に視線を走らせながら言った。

周囲を駆けるリザードマンの影を追って。

アーシュは右へ左へ、背後へと振り返る。


 焦燥しょうそうをその顔ににじませるアーシュ。


「アーシュ」


 ディアスが名前を呼んだ。

アーシュがディアスに振り向くと、フードの下の赤い瞳と目が合って。

その静かな眼差しを見てアーシュは落ち着きを取り戻す。


「俺から離れるな」


「うん」


 ディアスにアーシュが答えた。


 エミリアとディアスが距離を空けて背中会わせとなり、その間にアーシュが立って。

3人が身構えるとリザードマンは一斉に襲いかかってきた。

ギザギザの荒削りの刃を振りかざし、ディアス達に突進する。


 迎え撃つために、その目の赤の輝きを燃え上がらせるディアスとエミリア。


 だがディアス達とリザードマンの群れが衝突する前に。

エミリアと先頭のリザードマンとの間の空間にスペルアーツのくさびが打たれた。


「スペルアーツ『防壁魔象ブルワーク』────」


 その術者は詠唱を瞬く間に重ねて。


「『防壁魔象ブルワーク』、『魔象点火イグナイト』」


 くさびを打って指定していた地点と、再び指定して発動させた別な地点を結ぶように現れる魔力の防壁。


 次いで周囲から上がる怒号。


 ディアスとエミリアがすかさず目配せすると、2人の瞳の輝きは小さくなった。

 

 リザードマンの群れの背後から冒険者の一団が大挙し、リザードマンへと襲いかかる。


「やっちまえ!」


「まずは1匹!」


「俺は2匹だぜ!」


「かわせ! ソードアーツ────」


 冒険者の声に続いてソードアーツの剣閃。

さらに風切りと共に矢が放たれた。

同時にスペルアーツがリザードマンの群れのただ中で炸裂する。


 次々と数を減らすリザードマン。

だがリザードマンもただではやられない。


 前へと出すぎた冒険者の1人がリザードマンに剣を弾かれた。

無防備になった冒険者目掛けてリザードマンは剣を振り下ろす。

周囲のフォローは間に合わない────


「『その刃、(ソード・)風とならん(ウィンド)』!」


 アーシュは咄嗟とっさに体をよじり、遠心力で左腕を振って。

そのまま短剣を投げ放った。

剣が加速すると、剣を振り下ろすリザードマンの右肘へと突き刺さる。


 わずかな硬直。


 その一瞬の間にエミリアが跳んで。

防壁魔象ブルワーク』によって魔力で編み上げられた壁を飛び越え、そのリザードマンの頭上へ。

エミリアは落下の勢いを乗せてハルバードを叩きつけた。

リザードマンはその身体を肩口から縦に両断される。


 エミリアは叩きつけた斧槍ふそうを持ち上げて。

そのまま体をひねるとハルバードを横薙よこなぎに振るった。

リザードマンをまとめて吹き飛ばす。


「けけ、大丈夫?」


 顔を向けずにエミリアがいた。


「……え、あ、ああ。助かった」


 リザードマンにではなく、エミリアに対して腰を抜かしていた冒険者が答えた。

すぐに弾かれた剣を取ると仲間の陣形の輪に戻る。


「アーくん!」


 エミリアはリザードマンの肘に突き刺さった短剣を抜くと、アーシュに向かってほうった。

アーシュは右手に握った剣を一度置くとそれを受け止める。


 エミリアはリザードマンの群れへと走った。

そのままハルバードを振るうと、その勢いを殺さずに旋回。

縦へ横へと、体をよじりながら斧槍ふそうを止めることなく振るい続ける。


 その姿に言葉を失う冒険者達。


「『その刃、熾(ソード・)烈なる旋風の如く(ヴォルテクス)』!」


 ディアスは眼前のリザードマンを斬り伏せた。

ディアスの周囲には数体のリザードマンの死体が転がっている。


 アーシュはエミリアとディアスの倒したリザードマンの数をそれぞれざっと数えた。

いで短剣を左手に持ち変えると、先ほど置いた剣を取って。

周囲を見回すと少し先にアーシュに背を向けている個体を見つける。


「よし、おれも!」


 剣を構え、背中を向けるリザードマンへと駆け出すアーシュ。


 ディアスは新たにリザードマンを斬り伏せると、走り出したアーシュに気付いた。

その先に立つ、背を向けた(・・・)リザードマンを見て。


「止まれ、アーシュ!」


 ディアスはすかさずアーシュの方へと向かうが、行く手を2体のリザードマンが遮る。


 アーシュはリザードマンの背中目掛けて剣を振るった。


「『その刃、(ソード・)竜巻の如く(サイクロン)』……!」


 剣の操作による加速を上乗せした斬擊。


 だがリザードマンはさらりとその攻撃をかわした。

いでリザードマンは振り向き様に。

空振りして体勢を崩したアーシュ目掛けて無骨な剣を振り下ろす。


「アーくん!」


 エミリアが気付いて叫んだが、距離があった。

間に合わない。


 その時、颯爽さっそうと影がおどった。

その術者はあろうことか杖を投げ捨て、拳を構えて。


「『美麗な私の魔物砕き(エレガント・ナックル)』……!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ