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「そうか」
ディアスが言った。
肩越しに背中の方へと視線を向けてマントを気にする。
「まぁ、別にもう白である必要はないしな。今までだって何度も変えようと思ってた。ただ、たまたまちょうどいいのが白だっただけだ」
「ケケケ、嘘つけ」
アムドゥスがディアスのフードの中で言った。
「この7年間でマントを変える機会なんていくらでもあったのに毎回白だったじゃねぇかぁ」
「そうだったか」
ディアスはわざとらしく首をかしげると、エミリアへと視線を向けた。
エミリアはフード付きの丈の短いポンチョを纏っていた。
裏地の蒼い黒のポンチョ。
そのフードの左右には真っ白なリボンがあしらわれている。
羽織ったポンチョの下はグレーのワンピース。
その裾はフリルになっていた。
ワンピースの裾と黒のニーハイソックスの間からは白い太ももが覗いている。
エミリアはぐいっとニーハイの裾を引っ張って。
「あたし、ぴったりしてるのあんまり履いてこなかったから気になるなー」
「そうなんだ。でも似合ってると思うよ!」
アーシュが言った。
アーシュはディアスの代わりに白いマントをぐるりと巻き付けていた。
マントの下は詰襟の青いノースリーブのシャツ。
アーシュの華奢な肩が覗き、二の腕の中程から本体とは切り離された袖が下がる。
太いベルトで留められたハーフパンツの下からは細い脚が伸びて。
黒いソックスの上から大きめの革のブーツを履いている。
「けけけ。ありがと、アーくん。アーくんも似合ってるよ」
エミリアが言った。
エミリアは再びディアスへと視線を向けて。
「ディアスもそのマント、まだちょっと見慣れないだけで素敵だと思うよ」
「そうか」
ディアスが言うとエミリアは笑顔でうんうんとうなずく。
「おれはやっぱり白がいいと思うけどなー」
アーシュが言うとディアスは再びマントを気にしだした。
棚に陳列された白のマントを遠目に見て悩み始める。
「けけけ、仕方ないなぁ。アーくんは素直なのが長所だもんね」
エミリアは困ったように笑うとディアスの手を引いて。
「ほら、早く魔宮の探索に行くよ!」
ディアスはエミリアに手を引かれるまま店をあとにした。
そのあとをアーシュが続く。
ディアス達は最後に食料や飲み水の確保をすると町を出た。
白竜の魔王のテリトリーの境界である連なった山々に背を向けて歩き出す。
それから数日が経つと、ディアス達はついに最初の魔宮へとたどり着いた。
草原の真ん中に突如現れる地下へと続く石造りの階段。
その周囲には塀と柵が建てられ、その門の周囲には守衛が立っていた。
遠くには守衛の宿舎も見える。
「止まれ。ここから先はギルドの管理下にある永久魔宮だ」
守衛の1人がディアス達に言った。
「魔宮の探索をしたい。許可証が必要なら手続きは……あっちの宿舎か?」
ディアスは守衛に訊くと宿舎の方を指差す。
「いや、手続きはここでもできる」
守衛が目配せすると若い守衛が書類と羽ペン、インクを持ってきた。
門の脇のテーブルにそれらを並べる。
ディアスは記入を終えると書類を守衛へと手渡した。
「…………クリフトフ、か」
守衛は記載された名前を睨むと、ディアスの胸元に留まったA級のギルドバッジを見る。
「いいだろう。だがパーティーは3人で大丈夫か? それも子供が2人。A級冒険者なら力量を見誤ってやられるなんて事はないと思うが、C難度の永久魔宮は平均して10人ほどで潜るものだからな」
「問題ない。上級魔宮で装備を大きくロストしたから早く補充をして攻略に戻りたいんだ。あといくつかCからB難度程度の魔宮を探索したらA難度の探索に向かう予定だ」
「へー、さすがA級冒険者は違うねぇ」
守衛は感心したようにうなずくと門を開いた。
「じゃあ、気をつけて。ここの魔宮はリザードマン系の魔物が出るからね」
守衛が言うと若い守衛がディアスに小さな地図を差し出す。
「魔宮の地図です。ボス部屋のあった地下4階層までの地図でそこから先は地図情報が非公開になってますので進む際にはご注意を。更新は3ヶ月前になります」
「分かった。ありがとう」
ディアスは地図を受け取ると一通り目を通した。
次いで懐に地図をしまう。
ディアス達は守衛達の横を通り過ぎ、門を越えて。
魔宮の入口である地下への階段に差し掛かる。




