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「そうだよ! おれの村に来たディアス兄ちゃんの仲間を探せばきっと力を貸してくれるんじゃないかな」
アーシュが言うとディアスは眉をひそめた。
自身の左肩を横目見ると、目元に触れて。
「無理だな。生き残りが誰なのか分からないが、俺が魔人堕ちして生き残ってるのはあのパーティーの人間にとって大きな裏切りだ。今の俺は討伐対象。むしろ普通の魔人以上に執拗に狙われるだろう」
「でも仲間なんでしょ。人喰いしてないって分かれば」
「残念だが俺達の関係性はそういうものじゃなった。魔人の駆逐、魔王の打倒。その目的のためだけに集まったパーティーだったし、俺が勇者の称号を得た事を快く思わないやつらも多かった」
「ケケケ、ホントに人望がねえなぁブラザーは」
「底辺の落ちこぼれからの成り上がりだ。元から才能に溢れてたやつからしたら面白くなかったろうさ」
「黒の勇者もお前さんと同じ元落ちこぼれだが、あっちは慕われてたように見えたがなぁ。ケケケケケ」
「…………」
ディアスは無表情のままそっぽを向いた。
エミリアはディアスと肩にとまるアムドゥスをまた交互に見て。
「もう、ディアスはすぐ拗ねない。アムドゥスは意地悪言わないで。なんだかんだ言ってディアスの事一番好きなのアムドゥスでしょ」
「はぁっ!? 俺様とブラザーは────」
「あくまでビジネスパートナー、でしょ。特別な情は抱いてないし、もっと条件の良い魔人がいたら乗り換える」
エミリアはアムドゥスの言葉を遮ると、その顔を覗き込んだ。
次いで、にまにまと笑う。
「けけけ、嘘ばっかり。最初はどうだったかは知らないけど、今はアムドゥスはディアスの事を大切に思ってる。そのやり方がディアスの望むものかどうかは別にしてね。だって、アムドゥスは優しいもん」
「…………ケケ。そういう事が言えるのは、まだ俺様の本性を知らないからだぜぇ?」
「ううん。あたしも、そしてディアスも。アムドゥスが優しいのはちゃんと分かってるよ。けけけけけ」
「いいや、分かってないぜぇ」
「分かってるって」
エミリアはアムドゥスのつぶらな瞳をまっすぐに見つめて。
「アムドゥスは目的を一番に優先してる。その達成を一番にしつつ、次点でアムドゥスなりにディアスとあたしのためになるよう考えて動いてる。とっても非情で、とっても冷酷な、それでいて優しいのがあなた」
「ケケケ、なんとでも言いな」
「うん、そうするね」
「ケッ」
アムドゥスはエミリアの肩を離れるとアーシュの左肩に飛び移った。
ディアスとエミリアに背を向け、アーシュの肩で腰をおろす。
アーシュは自身の肩にとまるアムドゥスを横目見ると、その背中を撫でた。
「おいクソガキ、俺様を動物扱いしてんじゃねぇ」
「ごめん、うまく撫でれてなかった?」
アーシュはアムドゥスの背中に置いていた手を慌てて離して言った。
「いや、撫でんじゃねぇって言ってんだが。お前さんは俺様にとって、ビジネスパートナーとその補助の非常食程度の認識しかねぇんだよ」
アムドゥスの言葉にアーシュは黙り込んでしまった。
紫の瞳が涙でうるうると潤む。
静まり返った部屋に、時折アーシュが鼻をすする音が大きく響いた。
「アーくんもアムドゥスと仲良くしたかっただけだもんね。よしよし」
エミリアは背伸びをするとアーシュの頭を優しく撫でた。
「…………ごめんね、アムドゥス。嫌な事して」
アーシュは謝罪の言葉を口にした。
目を伏せると口を尖らせて涙をこらえている。
アムドゥスは無言で部屋の壁の方へと視線を向けていた。
ズビっとアーシュが鼻をすすって。
アーシュはちらちらとアムドゥスを横目見る。
だがアムドゥスは応えない。
無言で壁を眺めている。
ついにはアーシュは涙をぽろぽろと流し始めた。
小さな嗚咽が漏れ出す。
しばらくしてアムドゥスは大きなため息をついて。
「今のは俺様の言い方が悪かった。そこは謝ってやるぜぇ。だが動物扱いは却下だ。分かったかクソガキ」
「…………分かった」
アーシュが答えた。
涙を拭う。
「じゃあ分かったから撫でてもいい?」
「はぁっ……?」
アムドゥスはアーシュの方をゆっくりと振り返った。
その先にはアーシュの期待に満ちた眼差し。
アムドゥスは次いでエミリアとディアスの方へと視線を向けて。
2人の表情を察するとまた大きなため息を漏らす。
「ケケ、尾羽は絶対触んなよ。デリケートなんだ」
アムドゥスが言うとアーシュはその背中を再び撫でた。
満足げに笑みを浮かべる。
「ククッ」
「けけ」
なされるがままに撫でられるアムドゥスの姿を見て、ディアスとエミリアも笑みを漏らした。
ディアス達は町の武器屋で鍛造された剣を買った。
ディアスは長剣を1本と片手剣を2本。
アーシュは片手剣を2本と短剣を2本。
次いでぼろぼろになった服を新調する。
ディアスはフード付きの麻の上着の上にマントを羽織って。
だがそのマントは白ではなかった。
獣の革をなめしたそのマントの色は深い焦げ茶。
そのワンショルダーのマントで左肩を隠している。
「うーん、ディアスのマントが白じゃないと違和感があるね」
エミリアが言った。




