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「ケケケ、燃費がわりぃなんてもんじゃなかったせぇ。自食の刃を利用した己自身の武器化。それにさらに携帯してた剣も取り込んでたが、ありゃ見かけ倒しだな。ケケケケケ!」
アムドゥスが笑うとディアスは顔をしかめて。
「笑い過ぎだ。……だからあまり見せたくなかったんだ」
「ケケ、もう1つの方は良かったじゃねぇか。魔人らしい戦い方に1歩近づいたんじゃねぇかぁ?」
「魔人らしい? ディアス兄ちゃん、魔宮の展開するようになったとか?」
アーシュが訊いた。
「いいや、魔宮の展開はできない。俺の魔力じゃエミリアみたいな最小のワンフロアでの展開でもすぐに自食が進むからな」
「そうだよね」
アーシュはディアスをじーっと見つめて。
「…………」
じーっと見つめて。
「…………」
じーっと────
「……アーシュ、そんなに気になるのか」
ディアスはアーシュの視線に堪えかねて訊ねた。
見るとアーシュは紫色の瞳を好奇心にキラキラと輝かせていて。
アーシュはディアスの問いに、こくこくとうなずく。
「もう少し調整が済んだら見せてやる」
「やった! 絶対だよ!」
アーシュが言った。
「…………けけ。でも、新しい剣も必要だよね。ソードアーツが使える魔人てのがディアスの大きな長所なんだし。アーくんの剣も用意しないと」
エミリアが言うとディアスはうなずいて。
「ああ。だから俺は調整をしつつ。アーシュは左腕を使う訓練と遠隔斬擊の修練をしつつ魔宮に潜る事になる。装備が整うまではエミリアが俺達の主力になるな」
「けけけ、任せといて」
エミリアは笑いながら言った。
だが次いで目を伏せて。
「でも、あたし最近負けてばかりなんだよね」
エミリアはアムドゥスへと視線を向けて。
「あたしが強くなるのに必要なことって、アムドゥス分かる?」
「ケケケ、嬢ちゃんの強化となると…………あの女の魔人のボスの仕様を利用できねぇかな」
アムドゥスが言うとエミリアは首をかしげて。
「今回はあたし戦ってないんだけど、その魔人のボスってどんな感じだったの?」
「ケケ。ざっくり言うと、その魔人の魔宮は自身の複製に近いもんを量産するもんだった。魔結晶の欠片を核に作られた複製体はその核の魔結晶が成長すれば魔宮の展開も可能になる。いわば魔人の幼体だ」
アムドゥスの言葉にエミリアはふむふむとうなずいた。
アムドゥスは続ける。
「そしてその幼体をボスへと変質させていた。幼体とはいえそれは性質としては魔人とほとんど変わりがねぇ。てことはだ。嬢ちゃんもボス化することができるんじゃねぇかと思ってな」
「魔人の……ボス化」
エミリアが呟く。
「魔人ってそんなに色んな事ができるの?」
アーシュが訊いた。
「ケケケ、正直魔人と魔宮の力の全容はまだ解明されてねぇからなぁ。俺様の『創始者の匣庭』」は目の前の事象の解析はできる。だがこの眼で観測できないものについては俺様は知りえねぇ。ディアスがその最たる例だな。展開域0の魔宮もソードアーツが使える魔人てのもディアスがやるまでできるとも思ってなかった」
「正直、お前の正体も謎だがな」
ディアスはアムドゥスに視線を向けて。
「魔物──魔人に生み出された魔性の生物の総称。だが使い魔は魔人に生み出されたものじゃない。魔人が生まれる前より存在する魔性の存在。それが契約によって魔力を代価に力を貸し与える関係性となったものを使い魔と呼ぶ。アムドゥス、お前はなんでネバロの使い魔になった?」
「…………ケケケケ」
アムドゥスはディアスの肩に飛び乗った。
ディアスの顔を覗き込んで────
「それがさっぱりなんだよなぁ」
アムドゥスは肩をすくめると続ける。
「俺様はネバロと契約する以前の記憶がねぇ。なんでその質問には答えられねぇなぁ、ケケケ」
「…………くそ、本気で言ってるな」
ディアスはアムドゥスの顔を見ると言った。
ため息を漏らす。
「だが、隠し事はあるな」
「ケケケ」
アムドゥスは笑うとディアスの肩から飛び降りた。
エミリアの肩に移る。
「まぁ、その辺の詮索はなしだ。ブラザーだって隠してんだろぉ? ネバロの魔結晶の力は強大だ。今のお前さんの能力と釣り合ってねぇのは明らかだぜぇ」
「なんのことだ」
「ケケ。ほら、お互い様だ」




