5-2
「ディアス兄ちゃん……!」
アーシュが声をあげるとサイラスはアーシュを一瞥した。
その瞳に宿る鋭い眼光にアーシュは射竦められる。
サイラスはディアスに視線を戻して。
「俺はこのまま君を殺したってかまわない。そのあとがめんどくさいから嫌なんだけどねー。君はどう。殺されたい?」
「ククッ、まさか」
突きつけられた剣を見下ろし、ディアスは口許に笑みを浮かべた。
だかその額には冷や汗が滲む。
次いでため息を漏らすディアス。
ゆっくりと、顔を上げながら体を屈めて膝をついた。
その首筋にはサイラスの剣が添えられたまま。
ディアスはおもむろに剣を抜いては床に並べていく。
全ての剣をディアスが並べ終えた。
並べられた剣をサイラスは見つめて。
「本当に酷い有り様、だな。勇者と謳われた時の君が操る俺の剣はあんなにも輝かしく見えたのに。その姿を見て俺も誇らしかったのに。でも君は光を失った。剣は君の鑑だ。剣を見れば分かる。君はもう、勇者なんかじゃない」
「…………『勇者』ってのはしょせんは称号。しょせんは肩書き。著しい活躍を見せた冒険者に与えられる強さの証明でしかない」
ディアスが言った。
だがそれを口にするディアスの表情を見て、エミリアやアーシュ、サイラスまでも悲しげな面持ちを浮かべる。
「それは君の、言葉じゃないだろう」
「…………」
サイラスにディアスは答えない。
サイラスはディアスに突き付けていた剣を下げた。
その刃に鎚を打ち付けると刃を金属の塊へと戻して。
柄だけになって剣を腰に下げ、金属の塊をしまう。
次いでサイラスはディアスの置いた剣の剣身に次々と鎚を振るって。
ぼろぼろになっていた刃がなくなり、それらは柄だけになった。
サイラスは10本の柄だけになった剣を腰のベルトに吊り下げる。
ディアスはその光景を無言で見つめていた。
「それじゃ、俺はこれで」
サイラスが言った。
ディアスに視線を向けるがディアスは顔を上げない。
膝をついたまま顔を伏せている。
サイラスは扉へと向かった。
警戒を露にしているエミリアと、困ったような表情を浮かべてディアスとサイラスを交互に見るアーシュの前を通り過ぎる。
サイラスは扉に手をかけて。
「…………もし君がまだ本当に魔王討伐を考えているなら」
サイラスはディアス達に背を向けたまま続ける。
「昔の戦い方は捨てるべきだ。それに囚われていたら、君は自分の魔宮に飲まれる前に死ぬよ」
そう言い残してサイラスは部屋を出た。
後ろ手に扉を閉める。
サイラスは廊下の隅を横目見て。
「これで満足かな」
そう問いかける。
「────」
その問いに答えて。
次いで耳障りな笑い声をあげる。
「まぁ俺は剣の回収をしたかったし、場所を教えてもらえて手間が省けたからいいけど。でも生死を問わない捕縛命令が出てるのは知ってたんだよね。やられるとは思わなかったの」
「────」
「……そう。彼には意外と信頼されてたんだね。それとも記憶は美化されるってやつかな」
サイラスは小さく笑って。
「それじゃ俺は行くよ」
ひらひらと手を振ると廊下を抜け、階段を降りて。
受付の立つカウンターの前を横切り、宿屋をあとにする。
その頃ディアスは部屋のテーブルに腰掛けならポリポリと頭を掻いていた。
「ディアス、大丈夫?」
エミリアはディアスの膝に手を置いて。
ディアスの顔を覗き込む。
「ああ、別に大丈夫だ」
ディアスはエミリアに目線を合わせず答えて。
「元々本来の性能の半分以下。中には3割に満たないような剣もあった。剣を変えようとは、ずっと思ってたんだ」
「ケケケ、7年間あのボロい剣使っといてよく言うぜぇ!」
アムドゥスが言った。
ディアス達はアムドゥスに視線を向ける。
「アムドゥス、どこにいたの」
アーシュが訊いた。
「あん? 俺様は物陰に潜んでたが。急な来訪だったからなぁ。ケケ、魔物がいるのは見られちゃまずいだろう。まさか勇者が現れるとは思わなかったが」
アムドゥスの言葉を聞いて、ディアスはその姿をじっと睨んだ。
「ケケケ。そんな顔で睨むなよ、ブラザー」
「それで、ディアスはこれからどうするの?」
エミリアが訊いた。
「前の魔人との戦闘で新しい戦い方を2つほど試した。片方は燃費が悪いが、もう片方なら形になると思う」




