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4-41

 ディアス達の意識が逸れているうちにドクターは檻の外へと出た。

デュマエラ=イーヴァの後ろへと下がる。


 ディアスは肩にとまるアムドゥスへと目だけを動かして。


「アーシュも目を覚ましたなら突破できるか」


 ディアスの問いにアムドゥスは首を振る。


「ケケケ、そううまくはいかねぇみたいだぜぇ?」


 アムドゥスの視線の先からはレオンハルトが衛兵を伴って現れた。

レオンハルトはドクターに気付くと怪訝けげんな面持ちを浮かべて。


「よう、ドクター。生きてたのか」


「ヒッヒッヒッ、お前さんは右腕を使ったの。身体に馴染む前に酷使したから、接合面の結合がほとんど剥がれてダメになっとる。大きな傷も負ってせっかくの竜の首が台無しじゃ」


「悪かったな」


 レオンハルトはドクターに答えながら歩みを進めた。

デュマエラ=イーヴァの横に並んで。


「先ほどは第1王子殿下にご助力を賜り、恐悦至極きょうえつしごくに存じます」


 レオンハルトはそう言うとデュマエラ=イーヴァに会釈する。


「…………良い、普通に話せ。その喋り方はそれはそれで不快だ」


 デュマエラ=イーヴァは眉をひそめて言った。

いでレオンハルトの背後へと視線を向ける。


「フェリシアはどうした」


「約束があるので失礼します、だってさ」


「あのじゃじゃ馬め。国が傾いている最中さなかでの此度の事件。父が死に、いよいよ国の一大事だというのに」


「あのクズ兄貴をのさばらせるからだ」


「一応仕事のできる男ではあったんだがな」


「性格に難がありすぎた。挙げ句親殺しだ」


「母がフェリシアを産むのと引き換えに命を落としてから様相が変わった。お前は覚えてないだろうが、あれで幼少の頃は思いやりも持ち合わせた心根の優しい弟だったのだぞ」


「知らん。オレはあいつに散々な目に合わされたからな。それより今は」


「白の勇者よな」


 揃ってディアスへと視線を向ける、レオンハルトとデュマエラ=イーヴァ。


「ギルドからの密命だ。あいつはオレが喰い殺した上でギルドに献上する」


 レオンハルトが言った。


「相変わらずの悪食あくじき、虫酸が走るわ」


 デュマエラ=イーヴァはディアスから目を離さずに言って。


「そしてそれは認められんな。少なくとも今は。まず優先すべきは国だ。貴様も国を背負うレクシオン家の血を継ぐ者なら理解できよう?」


「よく言う。オレを恥さらしと国から追い出しておいて。オレの中を流れるレクシオンの血も、すでに魔物の血潮でけがれたよ」


「ふん、だがレクシオン家としての矜持きょうじを失っても、フェリシアへの情は消えてはいまい」


「…………分かった。政略に使いたければ使えばいい。だがそれが終われば」


「ああ、煮るなり焼くなり好きにしろ」


「オレは魔人を調理して喰った事はない」


「そうなのか。良ければフライにでもしてやろうか」


「どうせならフルコースにしろよ」


 レオンハルトはそう言うと鼻で笑う。


「…………おい、ふざけるなよお前ら」


 ディアスが言った。


「ブラザーのフルコースかぁ! そいつはいい、ケケケケケ!」


 アムドゥスが笑い声を上げた。

ディアスはその姿を睨む。


 デュマエラ=イーヴァは背中へと手を回して。

背負っていた両剣を手に取った。

その両剣には刃渡りの短い諸刃もろはが柄の前後に伸びている。


 レオンハルトも背中の大剣を抜くと左手で構えた。

垂れ下がった右腕に目を向けて。

だがすぐにディアスへと視線を戻す。


 兵士と衛兵達も武器を構えた。

魔宮封じの白い檻を取り囲む。


 エミリアはディアスを支えながら右手を前に伸ばして。

その手に青いハルバードを召喚した。

周囲に視線を走らせながら。


「アーくん、起きて」


 エミリアに言われ、アーシュが慌てて体を起こした。

左肩に謎の重さを感じると、すぐにそれは自身の腕の重みだと気付いて。

左腕を持ち上げようとしたが、肘から下がぴくりとも動かない。

右手で左腕を掴んで感覚を確かめるアーシュ。

触れた感覚を感じて安堵する。


 エミリアはいでアムドゥスへと視線を向けて。

 

「アムドゥス、戦える?」


「ケケ。やれることはしてやるが、あまり期待はしねぇでくれよ」


 アムドゥスの翼の輪郭が不確かになり、その眼の中には無数の瞳が現れる。


 その傍らでディアスはデュマエラ=イーヴァの方を横目見て。


「ちなみにだが、俺の身柄と引き換えに2人の安全を保証したりは」


「却下だ」


 ディアスの言葉をデュマエラ=イーヴァは即座に否定して。


「すでに1度それを反故ほごにしたのだろう? 赤の勇者と。2度目はない」


「ダメだよ、ディアス。あたしはもうそういうのは嫌」


「おれもだよ、ディアス兄ちゃん」


 エミリアとアーシュがディアスに言った。


 檻越しに双方が睨み合う。


 だが戦力差は歴然だった。

戦えないディアス。

魔宮の展開ができないエミリア。

剣のないアーシュ。

そして魔力消費の兼ね合いからあまり力を振るう事のできないアムドゥス。


 正面からぶつかれば突破は困難。


「だからこそ、わたしの出番。王家の血を引くものとして、約束はもちろん果たしますとも。ごめんなさい、お兄様。ごめんね、お兄ちゃん」


 そう言って。

フェリシアは仕込んでいた仕掛けを起動する。

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