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レディは振りかぶったハサミを投げ捨てた。
カランと音を立てて転がるハサミ。
レディは目を伏せて立ち尽くしている。
「ハハッ、ことごとく期待外れな女だな。襲いかかってくると思ったのに」
王子はその手に握る刺突剣の刃を撫でながら呟いた。
レディには目も向けずにフェリシアと衛兵達に向かって行く。
兵士達は大盾を構え、槍を突き出して衛兵達へと突進した。
衛兵達は盾でその突進を受けるが、兵士の持つ槍の切っ先が盾を貫く。
「スペルアーツ『防壁魔象』」
「スペルアーツ『防壁魔象』」
衛兵は兵士達との間に魔力で編み上げた防壁を展開した。
「スペルアーツ『魔象強化』!」
フェリシアが防壁にあとがけで強化を施す。
兵士達は防壁を前に素早く左右に分かれた。
魔力の壁の端へと回り込む。
「スペルアーツ『筋力強化』、「速度強化」」
フェリシアは衛兵達へとバフを付加した。
それとほぼ同時に衛兵達と兵士達が武器を交える。
衛兵の剣と兵士の槍が打ち付け合い、幾重にも響く剣戟の音。
フェリシアによるバフを得た衛兵達と、自身の能力と装備のみで戦う兵士達。
その人数でもまだ勝っている衛兵だが、その装備と何より武器を振るう本人達の能力が圧倒的に兵士の方が優れていた。
兵士達は衛兵達の陣形を切り崩し、陣形の中へと瞬く間に迫っていく。
「しょせん貴様らは見張りの兵。近衛兵でもあり、我が国の主力部隊でもある研鑽を詰んだ兵士には勝てまい」
王子は悠々と歩みを進めながら言った。
衛兵の展開した『防壁魔象』の前へと立つ。
「王女殿下、お下がりを」
衛兵がフェリシアを庇うように、兵士達の前に立ちはだかった。
だがその衛兵は兵士の槍を受けて倒れる。
フェリシアは指先を兵士へと向けて。
「スペルアーツ『魔象強化』、『光弾魔象』!」
その指先から放たれる光弾。
「スペルアーツ『魔象再演』」
さらにフェリシアは強化した『光弾魔象』のスペルアーツを1詠唱で再現。
続けざまに光弾が放たれた。
兵士は携えた大盾で防ぐ。
「スペルアーツ『魔象再演』」
だがフェリシアは再度スペルアーツを再現。
強化された『光弾魔象』と。
『魔象再演』の再現までもさらに再現して────
「『魔象再演』、『魔象再演』、『魔象再演』、『魔象再演』、『魔象再演』、『魔象再演』……!!」
唱える度に1詠唱によって発現する数が増え続ける光弾。
放たれた光の雨が兵士へと襲いかかって。
それは兵士の盾を吹き飛ばし、鎧ごと四肢を砕いた。
兵士は苦悶の声を漏らして倒れる。
「さすが王女殿下!」
「相変わらず凄まじい……!」
衛兵から感嘆の声が漏れた。
「スペルアーツ『束縛魔象』」
フェリシアは自身のスペルアーツで手傷を追わせた兵士を拘束した。
「『治癒活性』」
次いで敵味方構わず範囲内の人間の傷を癒す。
「相変わらず生ぬるいな、フェリシア」
王子はそう言いながら刺突剣を構えた。
眼前の防壁に向かって突進しながら剣を振るって。
視認が困難な程の素早い連擊。
防壁は瞬く間に砕かれる。
兵士の対応のために左右に分かれた陣形へと王子は単身攻め込んだ。
フェリシアに向かって駆け抜けながら射程内の衛兵を次々とその剣で貫く。
フェリシアはその光景に顔を歪めて。
すぐさまスペルアーツを唱える。
「スペルアーツ────」
「スペルアーツ『封印魔象』」
だがフェリシアよりも早く王子はスペルアーツを発動。
フェリシアはスペルアーツを封じられた。
「『◼️◼️◼️◼️』」
その詠唱は音を奪われ、発動が無効となる。
王子はフェリシアへと肉薄。
互いの視線が交わる
そして王子は刺突剣を突き出した。
鋭い風切りと共に剣の切っ先がフェリシアの胸を貫く。
フェリシアは刺突の勢いでそのまま後方に吹き飛ばされた。
赤い飛沫が舞う。
「これで親父に続いて2人目」
王子が言った。




