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無数の剣の中で佇むディアス。
ディアスは剣越しに周囲に逆巻く炎の熱を感じていた。
だがその熱は突如急速に失われ、冷気すら漂ってきて。
ディアスはそれを感じ取ると周囲に展開していた刀剣を消す。
次いでディアスは腰に吊り下げたランタンを手に取ると周囲を照らした。
その目に映るのは黒く焦げ付いた通路。
そしてそこに走る無数のパイプとそれを覆う青白い氷。
「あん? あの女の能力かぁ?」
アムドゥスは元の姿に戻ると、ランタンに照らされた周囲の光景を見回して言った。
それにディアスは首を左右に振って。
「これはこの街のシステムの1つだ。ガスに引火したりした時に被害を拡散させないため、仕込まれた魔宮生成物が発動する仕組みだ」
「ケケ、なるほど。引火して炎が拡がり続けたら、ヘタすりゃ街中火の海だもんなぁ。ケケケケケ」
ディアスは片手に剣を構え、もう一方の手でランタンを掲げながら来た道を戻った。
そこには黒く焼け焦げたレディ達の姿。
ほとんどのレディが砂へと変わっていく中で、時折身動ぎをする個体がいて。
ディアスはその胸へと剣を突き刺し、とどめをさす。
ディアスはレディの生き残りを完全に絶命させながら道を進んだ。
すると整備された通路が途中から消えてなくなり、そこから先は石レンガが剥き出しになっている。
「ケケケ、魔宮の維持はできなかったみたいだなぁ。この様子なら他の奴等と一緒に魔宮の展開ができる個体も倒せたかもな」
アムドゥスが言った。
ディアスがさらに歩みを進めると開けた空間に出た。
天井からパラパラと石レンガが剥がれ落ち、床にぶつかると鈍い音を響かせている。
ディアスは頭上から落ちてくる石レンガやその破片を斬り払いながら、魔宮の広間が展開されていた跡の中央へ。
そこには1人の人影が横たわっていて。
ディアスが近付いてランタンの明かりで照らすと、それは半身を焼かれたレディだった。
「ケケ、まだ息はあるようだなぁ」
アムドゥスがレディを見て言った。
レディは焼けただれた方の顔を下にしたまま、目だけをディアスとアムドゥスに向けた。
その顔は怒りとも悲哀ともつかない表情を浮かべたが、次いでどこかほっとしたように穏やかなものになって。
「私にもとどめをさしていただけるかしら」
掠れたレディの声。
「いいのか」
ディアスは剣を振りかぶりながらレディに訊いた。
「もとよりそのつもりでしょうに。……ええ、よろしくてよ」
レディは息をつくと続ける。
「醜くなった私はもういらない。敗北した私にはなんの価値もない」
ディアスは怪訝な眼差しをレディに向けて。
「お前の魔宮の能力を考えれば、ここで全てを放棄する意図が読めないな。お前が逃げ延びれば魔宮の能力で『お前』は生き続けるだろうに」
「必要ありませんわ。『私』はまだ潰えはしないもの」
「ケケケ、他の個体がいんのか」
アムドゥスはレディの顔を見下ろして続ける。
「安心しな。うちの相棒がそいつも殺してやるぜぇ」
アムドゥスの言葉に、レディはうっすらと口許に笑みを浮かべた。
そしてディアスは振りかぶっていた剣をレディの胸へと振り下ろした。
灰へと変わるレディの身体。
レディが完全に灰になるとディアスは魔結晶へと手を伸ばして。
そこで砂の中に小さく畳まれた紙を見つける。
ディアスはその紙を拾い上げた。
折り畳まれていた紙を開くと、そこに書かれた書面に目を通して。
それは王とその血族である計4人の暗殺を依頼する内容が書かれている。
ディアスは通路を進み、適当な出入り口を見かけるとそこから出た。
城の方へと目を向けると舌打ちを漏らす。
遠目に見える城の一部が魔宮に飲み込まれていて。
「アムドゥス、エミリアの位置は」
ディアスがアムドゥスに訊いた。
「……ケケケ、今んとこ動きはねぇ」
ディアスはアムドゥスの答えを聞き終わるよりも先に駆け出していた。
城に向かって疾走する。




